scene_010
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【場所】
黒甕大学理学部C棟横学食内
【人物】
佐藤真希央・20歳・大学生
津月未来・19歳・大学生
「うぃーっす」
「あ、マッキー」
「斜め前いい?」
「いいよ。なんで斜め前」
「真正面座られたら気が散るだろうと思って」
「何に?」
「食うのに」
「おれそんな無我夢中で食ってた?」
「腹減るよなー、この時間。別に起きてからなんもしてねえのに」
「講義で頭使うからじゃないの」
「真面目に聞いてても寝てても減るんだよなあ」
「今日はどっちだったの?」
「真面目に聞いてるつもりだったのに寝てた」
「真面目に聞いてたら眠くなるよね」
「ついさっきまで寝てたのにな。家で」
「今日何限から?」
「二限」
「ぎりぎりまで寝てたんだ」
「まあね」
「そのラーメンうまい?」
「普通。あんまうまくない」
「はじめて食ったの?」
「いつも食ってるけど」
「うまくないのに?」
「うまくないのにうまいんだよな」
「は?」
「なんつーかな、まずこの固いメンマがあるじゃん」
「知らないけど」
「やたら多いワカメがあるじゃん?」
「ぽいね」
「塩っ辛くて、ゴマがいっぱい浮いてて」
「うん」
「豚骨なのか醤油なのか」
「味噌ではないんだ」
「もしかしたら味噌なのか」
「そんなラーメンある?」
「まあ、うまくはないよな」
「どっちだよ」
「うまい」
「うまいんだ」
「で、津月のは何? それ」
「えーっと、なんか白菜と肉団子のやつ」
「豚骨?」
「いや、豚骨ではないでしょ。醤油じゃないの? 料理しないから知らないけど」
「ふうん。うまいの?」
「うまいよ」
「なんて料理?」
「えーっと、なんだったかな。肉団子のナントカカントカみたいな」
「へえ」
「興味なさそう」
「で、またこの麺だよな」
「は?」
「いや、麺がまた絶妙なんだよ。うまいのかまずいのか」
「そういう絶妙さなんだ」
「麺だけめっちゃうまかったら、違うと思うんだよな。たぶん麺だけくれよってなっちゃう。いや、ならないか」
「ならないだろ」
「そういや三限おれ町田ちゃんなんだけど」
「あー、町田先生。地質の」
「あれ出欠いる? 津月、前期取ってたよな、たしか」
「うん、出席もいるし、レポートもいる」
「マジかー」
「でもおれ取ってたやつ微妙に違うやつだよ? 町田先生には違いないけど」
「まあでも町田ちゃんは町田ちゃんだからな」
「まあね」
「一応出とくか」
「なんで? なんかあんの?」
「いや、一回帰って寝ようかなーと」
「また寝んの? さっきまで寝てたんでしょ?」
「ねみーんだよなあ、最近。寝ても寝ても眠い」
「寝すぎて頭が目覚めてないんじゃないの」
「今もラーメン食うより寝たいんだよ、ほんとは」
「食い終わってちょっと仮眠とったらいいじゃん」
「どこで」
「そのへんのベンチで。農学部の裏の方のベンチあたり、基本誰もいないよ」
「微妙に遠いな」
「それならB棟のバス停側にあるベンチは? あそこも人いないよ」
「おまえなんでそんなベンチ事情詳しいの」
「なんか好きなんだよね。誰もいないとこでボーッとすんの」
「そう、これ。この最後に残った胡椒みたいなやつ」
「ん?」
「スープ飲み干して、一番最後にちょっとだけ残った汁に胡椒みたいな黒い粒々がたまってんのよ」
「うん」
「黒い粒と、ゴマね」
「うん」
「それを最後に箸で集めれるだけ集めて食うのよ。それがうまいんだよな」
「……めっちゃ好きじゃん」




