城
私の城が無かったからといって、必ずしもあの城が無い訳ではない。私が城をたまたま見つけられなかったのかも知れない。無いことの証明は不可能なのだ。悪魔の証明。また、そのことによってあなたの城が無くなる訳でもない。そしてあなたの城が見つかる保証もないし、見つからない確証もない。
あなたの城があるのならばそれで良い。その城は誰が何と言おうとあなたの城なのだし、それ以上でもそれ以下でもない。ただ一つ言えることは、それは非常に貴重なことだし稀な事だ。城は常に移ろい行くものだから、目に焼き付けておいて欲しい。虚像を通してではなく、あの目を通して。側溝のどぶへ足を踏み外した時に良き道しるべとなろう。たとえその時はそうは思えなかったとしても。
私の城が見つかったからといって、あの城が見つかる訳ではない。しかし、一つ良いことがある。城の扉が開くまではそれが私の城なのかあの城なのか、それともあなたの城なのかは分からないと言うことだ。私の城はあの城でありあなたの城である甘美な可能性に暫しの間耽ることもできよう。しかし、それが明らかになる事はないだろう。城とはそういうものだ。城の扉はいつも閉ざされたまま到来の予感に気を張っている。内には恐ろしい怪物が、醜悪な悪魔が潜んでいるかもしれないし、ユートピアが、美の結晶が散りばめられているのかもしれない。
あなたの城が見つからなかったからといって、塞ぎ込んでしまう必要はない。あの城はいつもと同じ場所で聳えているに違いないし、あなたは確かにそれをみているはずだ。記憶にちょっぴり蓋がされているだけだ。あの城はそこかしこに潜み、扉は常に開け放たれている。さあ思い出して。ただし、急ぐ必要はない。城に足は生えていないのだから逃げ出したりはしない。根負けして逃げ始めるのはいつもこちら側なのだから。あの城は見れば見るほど虚なもの。聴けば聴くほど不確かなもの。