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-6km 屠殺の流星群

 何十もの自動小銃。その全てが、ほぼ同時にマズルフラッシュを放った。

 まるで鼓膜を直接掴まれて揺らされてるみたいな銃声の濁流。激しいフルオートの銃弾は俺の背中、肩、頭部などに何度も何度も命中する。


「ッッ!? な、んだぁ、ありゃ……!?」


 弾ける白熱。四散する液体。まるで小さな水風船をたくさんぶつけられているみたい。

 銃弾は、俺に命中した瞬間に銃弾ではなくなっていた。名前の無い、ただの溶けた金属。とろみのある水みたいなものだ。


――俺の体に銃弾が命中する。瞬時にそれは形を失うほどの熱に侵されて水のようになる。形を失った銃弾に俺の体を貫く能力は備わっていない。そのままぶつかって四方八方へ運動エネルギーを逃がして、その存在は土くれに消える。


「ッ、グ、ァ……ッ」


 ……少々問題があるとすれば、衝撃までは殺せないことか。

 肩や頭部を掠めるように飛んできた銃弾はいい。だが、背中のど真ん中に飛んで来た銃弾は運動エネルギーの何割かを真っすぐ貫くようにオレに与えて来る。

 その痛みが、ちょっと苦しいかな――


「ッ、グレン……」

「……ああ、大丈夫。大丈夫だよ、ヨゾラ」


 銃弾の雨の中。豪雨が彼女に当たらないように守っていると、心配そうな声が聞こえて、オレはすぐにそう答えて頭を優しく撫でた。

 細い髪の毛が少しくすぐったい。頭の獣の耳がふわふわで柔らかい。


「フ――ッ、フ――ッ、ば……化け物、め……!」


 ……銃声は鳴り止んだ。いままであんなにうるさかった癖に、急に静かになるからかえって耳が痛くなる。

 化け物、か。ハ――――どっちが。


「ヨゾラ、テントの入り口に置いてきた銃弾、ちゃんと持ってきてくれたんだね」

「うん! ちゃんとジュウに、ソウテンもしてある、よ!」

「えらいえらい。んじゃあ、武器の準備をしておいてくれ」

「うん!」


 ヨゾラにお願い事を頼んで、この場から少し離れてもらう。

 オレはどうとでもなるけど、彼女は無防備だ。オレという盾の裏に隠すか、敵の射程距離外に離れて隠れてもらうしかなかった。


「さて、人殺し共――」


 ゆらり、と有象無象へ向ける熱視線。

 その中に二つ、見覚えのある顔が呼吸を忘れて怯えているのが見えた。


「――今度は、お前らの番だ」


 それらに対して感傷の情はない。

 今回に限っては、オレはこの人間どもを、喜んで殺す――


「た、タマ! 弾、出ない、なんで!? 引き金、引いてるのに!」

「弾切れたらさっさとマガジン入れ替えろマヌケ! 撃て! 撃てェ――ッ!」


 向かう先は、混乱と悪あがきの嵐だった。

 銃を武装した人間は祈るように引き金を引き続ける。馬鹿が。目を瞑って撃って当たる訳が無いだろうに。


 歩く。歩く。それしかやることがなくて心に退屈が湧いてきた。


――この先に、自分を生かしてくれる偶然はまだ残っているのか?


 肯定。人非ざるならば。


――世界を敵に回して、生き残ることはできるのか?


 容易。人非ざるならば。


――あの子の希望を、他人に託された希望を、守り続けることは可能か?


 可能。人非ざるならば。


「ッ――うわぁあああああ!」


 人間どもの銃が弾切れを起こした直後、近接武器を持った人間が決死の覚悟で襲い掛かって来る。良いね。人類皆それぐらいの覚悟を持てると嬉しいのだが。


 ロングソードを脳天に叩き込まれる。

 刀身の真ん中ぐらいが熱で折れて、その先の部分はオレの後ろに転がってった。溶けた部分はオレの頭の上でスライムみたいに乗っかって、トロンと横に零れ落ちた。


「あアァ、ッ、ああアアア――――!」


 剣は溶け落ち、武器を失った人間は、炭化した握り拳でオレの体を殴りつける。

 ジュブブブ、と血液が沸騰する音。パラパラと燃え尽き炭になって崩れていく体。まるでオレの体に吸い込まれるように、殴り掛かった人間の体は燃えていく。消えていく。


「ぁ、わ、わァアアアア――」


 その殴り掛かった勢いのまま胴体も顔も俺の体に触れて、断末魔は途切れた。燃え残った下半身がボトリと膝を折って倒れ込む。


 流れた血液が溶けた金属に触れてジュウ、と沸騰し、油臭い煙を立てた。

 ……気持ち悪い。あいにくオレは吸血鬼とかではないので、血液のフランベに食欲はそそられなかった。


「――ッ、グレ――――ン!」


 後方から、ヨゾラの声が響いた。

 振り返ると、彼女はバチバチと帯電しながら両手でガトリング砲を握りしめている。準備は整ったらしい。


「、スゥ――――」


 息を吸う。あまりに油と鉄臭い空気だ。肺がダメになりそう。

 でも大声を上げるには肺に空気が必要だ。めいっぱい空気を肺に貯めて――


「――撃てぇえええええ! オレごと! コイツらを――――ッッッ!」


――瞬間。処刑場は消え失せて、ここは屠殺場と化した。


 流れる弾丸。破裂する人体。絶えない轟音。人差し指程度の大きさの弾丸が自動車のタイヤぐらいの大穴を開ける様は、迫力がある。


「ハ――ハハッ、ハ、ギャハハ――ハハッハハハ―――――!」


 笑う。大いに嗤う。

 両手を天に向けて、顔も天を仰ぎ見る。

 オレに命中する弾丸は全て赤白い液体になって、インクをばら撒いたみたいに周囲に飛び散る。痛い。痛いけど、なんだか楽しい。楽しい! 水遊びしているみたいだ!


「ギャ――――」


 ああ、なんて気持ちが良い。スッキリとさわやかな気分。


「ボ――――」


 綺麗なものをメチャクチャにする瞬間が、覆水を盆ごと床に叩き落す行為が、こんなにも快楽だなんて知りもしなかった!


「ヘグェ――――」


 定期的に見える曳光弾が、まるで夜空の流れ星を思わせた。綺麗だなって思えた。


――そして、ヨゾラのガトリング砲の弾を撃ち尽くし、全てが終わった時。ようやくハイになっていたオレの――お、俺、の精神は、落ち着いてくれた。

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