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-11km 特殊部隊"アシダカ"

 下層部の街中は非日常な光景で大いに騒ついていた。

 普段お目にかかることのない軍事用の電動自動車が下層部の道路を走っており、物々しい雰囲気を出していたからだ。


「……! あれが特殊部隊、アシダカ」


 全身を黒い装甲で固めていて、ヘルメットまでも真っ黒だ。唯一顔だけが露出されているので顔を見て会話は可能だと思われる。

 だからリスティアは止まっている一台の自動車に駆け足で近づく。


「んぇ!? えっと……何かありましたか?」


 車は運転席の後ろは灰色の迷彩柄の帆で覆われた乗り込み場となっていて、そこに座っていた男――まだ若い――に動揺しながらもリスティアは声をかけられる。


「この自動車、まだ人は乗れる?」

「え? は、はい。あと1人ぐらい乗るスペースはありますけど……」

「じゃあ失礼。乗らせてもらうわ」

「うわーっ!? ちょっとちょっと! 駄目ですって! 一般人は乗せられないんです!」


 若い特殊部隊の男は慌てた様子で乗り込もうとするリスティアを体でブロックする。

 ……武装は自動小銃か。アーミーナイフにフラッシュバンと思われる武装なんかも身につけていて、とてもじゃないが強引に押し通れる相手ではないとリスティアは悟り、一歩身を引いた。


「一般人じゃないわ。私も貴方たちと同じ要件で急いでるの……乗れないのならせめて、行き先だけでも教えてもらえないかしら」

「えっと、役所の言ってたスカベンジャーさんかな? んぇっと……どうしよう、教えて良いのかな……」


 若い特殊部隊の男はまだ新人らしい。こうしたイレギュラーな対応に頭を抱えて、どうすれば良いのか悩んでる。


「お願い、急いでるの。方向だけでも良いから……」

「……えっと、一応僕から言ったってことは秘密にしておいて下さいね?」

「ええ、約束する」

「……下層部B層、C-2A6J地点で調査員の通信が途絶えたんです。それで、今からそこに……」

「B層のC-2A6Jか……この前スカベンジに行った場所じゃない」


 そこなら列車に乗ってしばらくすればすぐに着く。もしかすると、そこでグレンが調査員を襲ったのだろうか……?


「オイ! 新人! 何をしている!」

「ッ! いえッ! 何も!」

「……おや、魔法使いの方ですか。失礼、私たちは今から暴徒の鎮圧に向かいますので」

「あの、一緒に乗せてもらうことはできませんか?」

「ゴホン、申し訳ないが駄目だ。そういう仕事故にな。作戦目的を一般人に漏洩する訳にはいかない」

「…………」


 リスティアの申し出を部隊長と思われる男はハッキリと断った。

 ……ついでに、新人らしい男はたった今情報漏洩させたことで静かに冷や汗をかきまくっている。


「では失礼する。オイ! 車を出してくれ!」


 部隊長の声を聞いた途端にキィイイイン、と静かな稼働音で走り出す自動車。

 同乗することは叶わなかったが、リスティアは運良く目的地については聞き出すことに成功した。時間はかかるけど、目指せない場所ではない。


「待っててね、グレン。絶対に死ぬんじゃないわよ……!」


 背負っていた武装を背負い直して、リスティアは地下行きの列車乗り口にまで直行し始めた。

 もし、本当にグレンと会うことが出来たとしても、彼女に何ができるかなんて考えていない。彼女はただ、彼に会うことだけを考えて動いていた。


 ■


『アルファー15! どうした、応答しろ! アルファー15!』


 無線機から必死に呼ぶ声がノイズ混じりに聞こえてくる。

 アルファー15という名前らしい男は、とっくの昔にくたばっている。後ろから木材の椅子で殴りつけて一発でK.O.だ。


「ぅ、うう……」

「すまんな、でもこれで応援は来る。運営の送り込んでくる敵も来る……いよいよ、始まりか……」


 意識が混濁して倒れている調査員に謝罪を言いつつ、寄りかかっていた石柱から離れる。

 内心、ドキドキとしている。期待とかじゃなくて、ネガティブな意味合いに近い。成功するだろうか、という不安の鼓動。


 ……一つだけ、実を言うとあの子には教えていない事があった。

 何故教えていないのか、と問われれば、俺の勝手な考えだとハッキリと胸を張って答えられる。


 ヨゾラには一つも教えていない技術。

 それは、人の殺し方だ。

 ……いや、正確には生かさず殺しすぎず、敵の戦力を削り戦意を落とす方法。ゲリラ戦法に近い戦い方。

 スカベンジャーとしての知識を主軸に、相手のされて嫌なことを自分なりに考えて作った独学のスキル。師匠には見せたことが無かったし、使う機会は無かったけど、見せたらきっと良い顔はしないと思う。そんな汚い戦い方だから、あの子には残したくなかった。


 その下準備は、万全だ。この調査員を襲うより前に、もう既にありとあらゆる場所にトラップを仕掛けている。

 ここを戦場にするならば、戦力がたった俺一人でも、十人……いや、五十人分は保たせてみせる。みせてやる。


「……何分、保つかなぁ」


 相手の練度とか数にもよるけど、10分、15分ぐらい保てば良い方かもしれない。

 んで、全てのトラップを使い切ってしまったら……その時は、どうしよう?

 武器を下ろして大人しく捕まる? いいや、そんな終わり方は望んでいない。最後の最後まで、このブレードが折れるまで――いや、折れても戦い続ける。それが俺の心意気だ。


――そんなこと、全て無駄だ。さっさと捕まって処刑される方が潔い。


 ……そんなの、わかってる。

 でも、これが俺の生き方なんだ。グレンという男の誇りをかけた、ひとりぼっちの戦争なのだ。


「……あー、銃とか持って来られるのかなぁ。めちゃめちゃ強い剣士とか来んのかなぁ……撃たれたら、斬られたら。絶対痛いんだろうなぁ……」


 誇りがどうとか、心意気がどうとか思ってても、もう、そのことが嫌すぎて辞めたくなっちゃう。逃げてぇなぁ、とも思う。

 でも、戦おう。最後の最後まで、グレンとして生き抜こう。

 命を賭して戦うのは、大昔から人類がやってきたことだ。大丈夫、なら俺にだってきっとやれるさ――


「……行こう。向こうからわざわざやって来たんだ。迎えに行かないとな」


 俺は片手でぐちゃぐちゃと髪の毛を掻き乱しながら、心に活を入れて最後の戦地へと赴くのだった。


 ■

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