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-29km 困難の蹴り飛ばし方

 クォーツゴーレム。

 出会ったらとにかく逃げろ、立ち向かうな、などとスカベンジャーになればまず教え込まれるゴーレムの一種。素体は岩石ゴーレムと同じだが、そこから全身を覆うように高硬度の結晶が全身を覆うように生えているのが特徴だ。

 対処は、結晶ごと打ち砕く強力な打撃武器――パイルバンカーが推奨されている。

 だが、そんなものを持ち歩くスカベンジャーなど存在しないため、結果として退却が対処法になっている……といった感じ。


「クッソ……絶望的に運が悪いな、クソッタレ……!」


 ブレードに反射した自分の顔と目を合わせて愚痴のように悪態をつく。

 この支給品のブレードで結晶を削るように叩けば倒せるか? いいや、無理だ。ブレードが先に摩耗する。その戦術はブレードが数十本単位で必要だ。

 なら、鞘に納めたまま打撃で破壊する? それも駄目だ。幾ら金属製とはいえ鞘では耐久性に乏しい。二、三回程度で破損するだろう。


「オイ君、撤退するぞ。一先ずあのゴーレムの索敵範囲から逃れる。それから――」


 俺は撤退を選択し、隣に居るであろう獣人族の少女に声をかける。

 現状で唯一良い点を挙げるなら、奴は岩石を素体にした結晶のゴーレムという点だ。故に、奴の近くで岩や石ころを蹴飛ばしても、辺りに生えている水晶を踏みつぶしても、奴の索敵には引っかからない。自身の体から欠け落ちた一部と誤認するからだ。

 だからここは素直に撤退しよう――そう考えていたのに、


「――よい、しょ」

「ッ、な、何を……取り出してるんだ……? その荷物、確か……自衛の武器、とか言ってたよな……?」


 ひたすらに困惑する。

 あろうことか、少女は逃げ足を立てることなく、むしろドッシリと腰を下ろして背負っていた荷物の布を引き剥がした。

 少女が手にしている鉄の塊――いや、より近い表現をするなら、この鉄のカラクリは、見覚えがある。


「…………“ガトリング砲”!?」


 時々、列車の前方に近い車両に乗った時に見た覚えがある。十本の細長いバレルを持った重火器で、凄まじい量の銃弾を凄まじい勢いで発射する強力な武装。主に車両がレジスタンスに襲われた際の自衛用として使われている。

 どこから拾ってきたのか、あるいは盗ってきたのか。まさにそのガトリング砲を獣人族の少女は手にしていた。


「おま……ソレ、まさか撃てるのか……!?」

「タま、ない。アればウてるけド、もッてない」

「ッ~~! じゃあそんなガラクタ取り出してどうするんだよ!? 人間ならともかく、ヤツに脅しは通じない!」


 人間相手にこんなものを突き出せば確実にビビッて逃げ出すだろう。しかし、相手はゴーレム、自動人形だ。恐れなどという感情は持っていない。脅しやハッタリは一切通用しない相手なのだ。


「――チャクケン(着剣)

「……え?」


 カチリ、と音を立てて“ソレ”はガトリング砲のバレルに装着された。


チャクケン(着剣)チャクケン(着剣)チャクケン(着剣)――」


 次々に装着されていく、刀身、鉄塊、ノコギリの刃、有刺鉄線の塊――あらゆる殺傷力を持った物がガトリング砲のバレル一本一本に固定され、十本目に装着されて、遂に“ソレ”は完成した。


「なんだそりゃ……オイ……」


 それは……上手く言葉で言い表せない、形容しがたいナニカであった。

 武器という意図は分かる。だが、それはもうガトリング砲と呼べるものではない。銃の先端部に剣を付けるオプションパーツがある、なんて話を聞いたことがあるが、それをガトリング砲でやるだなんて聞いたことが無いし、初めて見た。


「んと……アった。これデいける」

「それ、もしかして魔石ってやつか? そんなものまで、どこから手に入れた……!?」


 続いて少女が取り出した青く光るこぶし大の結晶――魔石を見て、思わず俺は食い入るように尋ねる。

 高純度の魔石は透明で光を放っていると聞いたことがある。だがそれは人工的に生成できない貴重な自然資源であり、量と質によるが、これだけの大きさなら確か目玉が飛び出るようなお金が必要になる。そんなもの、どうやって手に入れたのか。


「みズうみのしタ。ひかッてルりゆう、これがイっぱい、アるから」

「……! あの青色って、コイツが!?」


 ……言われてみれば、確かにあの地底湖は底から青く光を放っていたが……まさかその光源が魔石だったなんて。

 そして乾燥パンにでも齧り付くかのように、少女は八重歯を剥き出して魔石を一口分噛み砕く。ガロ、ガロ、ゴロロと硬い物体を小さく砕き、磨り潰す音を立てて少女は口にした魔石を嚥下した。


「じュんび、かんリョう。ゴえい、さイかい。みチをキリひらく……!」

「! あ――オイ!?」


 身を隠していた岩陰から軽々と飛び出して、少女はすぅ、と一呼吸する。


「9.3kW、96.82dBm、13.05PS、7080ft.lbf/s、9BTU/s――Set」


 バチリ、と輝く青白い光。

 ふわり、と香るオゾンの臭い。

 パリパリと乾いた音と共に見えるフラッシュ、獣毛が鳥肌のように総立ちし、ゆらゆらと不安定に揺れている……

 これは、今の呪文は、まさか――!?


「お前……魔石使い、なのか!? 雷属性の!」


 少女は答えず、人間の形をした右腕で一度武器を上に向けて持ち上げる。

 そして、本来大型バッテリーが挿入されているであろう部位を、獣の形をした左腕をまるで合体させるかの如く、勢い良く鷲掴みにした――その瞬間、ガラクタ同然だったガトリング砲が唸り声を上げた。


 円陣を組まれた回転する凶器の群れ。残像を残しながら振りまく旋風。恐ろしい速度で回転し続けるガトリング砲を斜め後ろに、まるで武器のように構えて――少女は、獣の右足で前に出た。


「ッ、速い……!?」

「――――――!」


 凄まじい俊足だが、ゴーレムの索敵範囲に入った瞬間、ゴーレムは正常に反応する。鉄の塊を認識したゴーレムは迎え撃つかのように正面を向いて腕を引き、一歩大きく踏み出して右腕を突き出した――!


「――ッ!」


 少女の動作は冷静で、的確だった。

 差し出す人間の左足で、トン、と左に微調整する。そのわずかな調整でゴーレムの腕は彼女スレスレを通り抜けて地面にへと突き刺さった。


 そして、次に突き出される獣の右足は、ゴーレムの突き出した腕の上に。ガリリ、と爪を立てる音を鳴らしながら彼女の体はバネのように圧縮され――


「ハァ――――!」


 脚部に貯めていたエネルギーを、少女は一気に解き放った。

 まるで滑空するかのようにゴーレムの腕の上を走る。落ちないように左足で微調整を効かせながら、ゴーレムの弱点である頭部に迫る。


 より唸り声を、まるで断末魔の塊のように叩き鳴らす回転。触れるものを根こそぎ抉り取るかのように残像を残し続ける回転物。

 今、少女の手にしたガトリング砲はゴーレムの顔面に横殴りするように――――


「ッ、うわっ!? は、破片!? ッッ……!」


 覗き込むように出していた頭のすぐ隣を通り過ぎ、カァン! と後方で音が鳴った。今のは水晶の破片だ。あの恐ろしい鈍器に殴られて、ゴーレム頭部の破片が四方八方に飛び散っているのだろう。

 俺は慌てて身を隠し、頭を守った。ひたすら聞こえ続ける、回転の断末魔が収まるその時まで――


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