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-35km in the void

――目を覚ませ。目を覚ませ。


 ……目なんてとっくに覚めている。現実味の無い浮遊感の中、俺は何もせず、何も考えず、何も感じずに、ただ存在だけしていた。

 周りの状況が分からない。白色か黒色かすらも分からない。目はレンズとして瞳に映るものを頭へ情報伝達を続けているが、脳がこれっぽっちも働かないから理解ができない。


――目を覚ませ。目を覚ませ。


 ただ、それを自覚する程度の機能は働いている。

 それで俺は悟る。これはきっと休止した脳が見せる夢の中――いや、夢という形にすら成れなかった空白なのだと理解する。


――目を覚ませ。目を覚ませ。最後の一人よ、目を覚ませ。


 ……だから奇妙なのは、まるで第三者が語り掛けてくるような、この声の存在。

 何故俺は、こんな夢のなり損ないを見せられている?


――前任者は炎を捨てた。奴は既に濡れた薪木だ。だから残された最後の火種よ、目を覚ませ――グレン。


「ッ……!?」


 恐怖。それを感知して脳の機能がパチン、とオンになる。

 思わず俺は振り返った。いつの間にか体は浮遊感から解放されていて、咄嗟に出した右手には抜き身の支給品ブレードが握りしめられていた。


「ハァ……ハァ……」


 嫌な汗が流れている、気がする。

 突拍子もなく出現し、握りしめていたブレードが心強い。無意識に“身を守りたい”と思ったが故に現れた自己防衛本能の具現なのだろうか。


「ッ、今……俺の名前を、呼んだ……?」


 これがただの夢の中の出来事なら、別になんとも思わなかっただろう。

 だが……今の、なんというか、生々しさ? まるで俺の頭の中に誰かが土足で踏み込んできたような、経験したことのない異物感のあった呼び声は……上手く表現できないが、ただ事ではなかった。


――目を覚ませ。目を覚ませ。最後の希望よ、目を覚ませ。


「ッ、だ、誰だ! さっきから何なんだよォ!? 何が言いたいのか全く意味がわかんねーぞテメーッ!」


 ゴロツキの喧嘩みたいな口調で力強く叫ぶ。俺の名を呼ぶ相手の正体が分からないから、頻繁に背後を見たり、威嚇のようにブレードを振ったりする……が、やはり姿も形も見えない。声はこんなにも近いのに。


――過去を炎で焼き尽くせ。未来を炎で照らし称えよ。


――お前にはまだ“意味”がある。“存在意義”が残されている。


――まだ残っているその命、己が未来のために使い尽くせ。


「…………」


 ……結局、何を言っているのか俺には全然わからなかった。

 だが、なんというか……まるで命令でもされているような、そんな気がした。自分よりも強大で、大いなる存在……? そんなナニカに告げられているような気がして、ブレードを握る手に力がより加わる。


――ま、そんな身構えるなよ、グレン。


 ヒタリ、と強張っていた右肩に何かが乗る。添えられる。まるで誰かが、すぐ背後から手を乗せてきたみたいに。

 ブレードを握っている手が動かせない。震えている。恐れている。聞こえた声は、こんなにもフランクなのに。


――否が応でも、オレたちは一蓮托生ってやつみたいなんだからさ。


 興味が俺に命令する。振り返って声主の正体を見ろと。

 本能が俺に警鐘を鳴らす。振り返らず、ただ逃げろと。


「ハッ、ハッ、ッ、……ッ!」


 ……俺は、乱れた呼吸を噛み殺して“勇気”を選んだ。

 ゆっくりと、静かに振り返る――重みを感じる肩には何も乗っていなかった――前へ進む、勇気で恐怖をごまかして、俺は後ろを振り返って――


 ■

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