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-47km プロローグ

――ふと、小さな窓から“上”を見上げた。


 天井を覆いかぶさるディスプレイは雲一つない蒼天を映している。

 小さな六角形のモニターが一つ一つ空を偽っているそれは、言うなら空々の群れだ。


 地下世界、アリアドネ・ウェブの今日の天気は快晴の様子。

 ディスプレイとは別に設営されている“再現太陽”がジワジワとアスファルトの道を加熱していた。道行く人は少し暑そうにしながら日陰を選んで道を行く。


 そんな外の様子を俺は無言で列車の窓から覗き見る。

 ガタン、ゴトン。

 リズム良く響く雑音に身を任せながら、外の様子をまるで名残惜しむかのように、俺は身を乗り出して覗き込む――


「――666番! 姿勢を正しておとなしくしていろ!」


 ガンガン! と耳障りなノイズが耳に飛び込む。

 見上げれば、上の覗き窓から看守の姿をした男が覗き込んでいた。手にした鉄の棒で俺を収容している箱を殴りつけた音らしい。


「うるせぇ……わかったよ。おとなしくすりゃ良いんだろ」


 言われた通りに姿勢を正して応えると、看守の男はため息交じりに背を向けた。何事も無かったかのように静寂が訪れ、再び列車の雑音が聞こえるようになる。


 ……今の俺は囚人だ。だが、理由も罪状も、俺は何一つ納得していない。

 怒られるようなことは何度かしてきたが、犯罪だなんて――こうして移動式の牢屋に閉じ込められるようなマネは一度もしたことがない。


「…………」


 少し前まではその滅茶苦茶な逮捕に怒りとか不満とか、爆発物じみた感情で頭が支配されていた。だが今は酷くナイーブで、精根尽き果てたような精神状態で窓の外を眺めている。


――ジリリリリリリ!


 外から喧しいベルの音が鳴り響く。

 住居区から別の区域に移動するための連絡通路への門が開かれたサイレンだろう。


 暗い、地下深くへ進む最下層への道。

 この事実が示していることを、俺は知っている。


「……俺、本当に死刑にされるんだ」


 連絡通路の門を通過する途中、また看守に怒られるのを覚悟して小窓から身を乗り出して住居区を覗き見る。

 ……この後はもう、この景色を拝むことはもう二度と叶うことはないだろう。

 通り去っていく明るい景色を、最後に名残惜しく見送りながら俺は小さく失望の息を吐いた。


――ああ、このクソッたれた世界の中。

 俺はただ、そんな世界のささやかな明日を見ていたいだけなのに。


 ■

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