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第八話 最低な決断


 …頭が痛い。手足も痛む。いや手足はあのクズに切り落とされた。台車に乗って風魔法での移動で、朝礼をするこのホールまで来たんだ。これから一生この方法で移動か…クソハルタめ。いや、ミミに運んで貰えばいいのか。アイツなら下の世話まで喜んでやるだろ。

 おっと、朝礼開始か。…頭がクラクラする。コイツ名前なんて言ったっけ?ライトの代役の副リーダー…いやどうでもいい。モブ野郎だ。

 クソハルタは…いない。しかし奴は何処かで私を見てる。何処かで幻覚によって私を五体満足の身体に見せかけている。

 おっとっと…アイツはアリム・イルスタッフだ。1人できたのか?お兄ちゃんがいないからか、キョロキョロ不安そーだなあー。

 にしても、本当にかわいいなあ。悪魔みたいな兄貴とは似ても似つかないなあ。

 そうだ!頃合いもちょうどいい。そろそろ()()()()も壊れる。アリムを3代目ミミにするってのは魅力的だぁ。初代ミミの壊れ方は酷かったな…。やっぱり洗脳を長い間かけ続けると脳がもたなかったな…アイツは泣きながら私を罵倒した後自殺したっけ…確か初代ミミは2年はもった。今のミミも洗脳し始めてそろそろ2年…壊れちゃうのは見たく無いから、私が処分するかあ。いやどうせ壊れるんなら、その前に今まで我慢してたことたくさんしちゃうか!その後アリムちゃんに3代目になってもらおうかあ。

 …頭がぼーっとしてきた。意識が朦朧としてるな…そりゃ四肢を落とされたからだろ?クソハルタのアホ野郎め。アイツが馬鹿で助かった。催眠使いを野放しにするなんて、寝首をかいてほしいって言ってるようなもんだ。いっときは死を覚悟したけど。この朝礼すらうまくやれば生還だ。

 …ん?アイツ、そういえば私に言わせる原稿を途中で変えてたな…なんで忘れてたんだろ?あんなに何回も何回も読まされて何回も何回も復唱させられて何回も何回も耳元で読まれたあの原稿…。

 ああー、アレは暗示の手法じゃんか。いま私はマインドコントロール下なのね。

 あ、名前呼ばれた。このタイミングであの原稿を読むんだな。だいじょぶ頭に入ってる。で、あの原稿のどこかにトリガーが仕込まれてて、それを読んだら暗示が発動するのね。

 あぁー死にたく無いなぁ。でも私は死ぬべきなんだなぁ。原稿を読んだら暴れ死ぬんだあ。そうしなきゃいけないんだろ、ハルタ・イルスタッフ。


 ✳︎


「んで、モロイン先生はその突拍子も無い発表の途中で、急に暴れて魔法を連打し始めたんだぜ。あまり急だったもんで誰も止めれずに近くにいた奴が3人おっ死んじまった。んで哀れモロイン先生、取り押さえられた後で、ポックリ死んじまった。抑えてた奴の位置がいけなくて首を絞めてたって話だ。お前は朝礼バックれてたから知らねーだろ、ハルタ」


「んなこと起こってたんだな…初耳だよ」


 サミーはなみなみと注がれたジンを相変わらず不味そうに飲みながら続けた。


「それでな、最後のモロインの発表がこれまた傑作だ。要約するとな、【ライト隊長は私率いる催眠レイプ同好会が催眠魔法によって倒した】らしいぜ。かわいそうに先生、催眠がどうこう言い出した時からもうおかしくなっちゃってたんだろうな。もうリーダーが正気に戻って、【普通に強い魔族に普通にやられた、私は鍛錬不足だ】って報告して、死ぬほど鍛えてるぜ。つまりだ、お前の報告は全部本当だって証明された訳だ。んだってのに疑ってた連中謝りもしねぇ。おっと俺は謝るぜ。お前をめちゃくちゃ疑ったからな!」


「もういいんだよそんなことは…」


 ジンを口に含む。相変わらずキツいアルコール臭だ。向かいに座ってるアリムと、隣のミミを眺める。2人ではしゃぎあっている。


「おいおいニヤけてるぞハルタ。久しぶりにアリムちゃんに付き添ってもらって嬉しいのは分かるが…」


「やっぱり分かるか?」


「…まぁな。んで、いい加減教えろよ。あの女の子はなんだ?随分可愛らしいけど、お前のコレか?」


 ニヤつきながらサミーは小指を立てた。…へし折ってやりてぇ。


「お前そういうことは冗談でも言うんじゃないぞ。特にミミには…」


「…あ、なるほど。そりゃマジすまん。…戦後にゃ珍しいことじゃ無いとはいえ、あんな小さい子がな…不憫だ」


「まぁなんだ。優しくしてやってくれ」


 サミーは涙ぐみながらジンを煽った。基本的には良い奴なんだよな、コイツ。


「お兄ちゃん!サミー!カードやろうよカード!」


 懐からトランプを取り出しながらアリムは笑顔で言った。…そうだ。この笑顔のためだけに俺は戦っている。


「よしきた。俺は強いぜ。ポーカーでもやるか?そっちのお嬢ちゃん…ミミちゃんか。ルール分かるかい?」


「すいません、わたし…カードやったこと無くて…」


 ミミは縮こまりながら申し訳なさそうに呟いた。


「大丈夫だよ、ミミちゃん。私がやりながら教えるから!」


「いや、俺が教えるよ」


 椅子をずらしてミミの隣まで行った。ミミは嬉しそうに笑っていた。


「ありがとう!パ…じゃなくて、先生!」


「先生?先生ってなんだい?」


「分かんない。ミミちゃんは、お兄ちゃんのことなんでか先生って言うんだよねー」


「お前らそりゃアレだ…ミミは謙虚だからな。我以外皆師なりって奴だ。そうだろ、ミミ?」


「はい!先生がそういうのならそうです!」


「じゃあ俺のことも先生って呼んでくれ。サミー先生な」


「サミーは黙ってて。ミミちゃん、私は普通にアリムでいいよ」




 …これで良かった。これがベストだった筈だ。

 モロインを殺した時点でミミも殺すべきだった。ミミは知らなくていい事を知ってる。生かしておくのはリスクが生じる。

 なのに俺が彼女に記憶消去もせずこうして生かしているのは、ミミに情が沸いたからとかでは…断じて無い。彼女に利用価値があるからだ。肉体強化魔法を幾重にもかけられた彼女は並の戦士より強い。

 それにどうせ…ミミはもうすぐ死ぬ。モロインから聞き出して分かった。早くてひと月後、遅くても半年後までだ。それほど洗脳状態は脳にストレスを与えるらしい。それに無理な肉体強化も相まって身体もボロボロだ。

 そして俺は思った。そこまで洗脳が杭のように深く刺さっているなら洗脳を解除しても相当なダメージが生じるかもしれない。記憶消去のような脳に干渉する魔法も危ない。

 洗脳を解く訳にはいかない。そして洗脳状態のままモロインが死んだら恐らくミミの精神は崩壊する。

 そこで俺がとった折衷案が、ミミからは俺の姿がモロインに見えるように催眠をかけることだ。しかしこれは危険な状態にあるミミの脳をさらに追い込む選択だ。俺のせいで確実にミミの寿命は縮んだ。

 まぁ…別にどうでもいい。ミミは俺にとって利用価値がある。死ぬまで利用し尽くしてやる。ほら、ミミは俺にもアリムにも懐いている。計画通りだ。




「先生?先生!」


「…ああ!どうした?」


「どうしたって…先生がわたしにポーカー教えるって言ったんじゃ無いですか!見てください、これは何を交換するべきなんですか?」


「あーこれはだな…A(エース)以外全部捨てるべきかな」


「…お兄ちゃん?」


「ん?どうしたアリム?」


「…なんでそんなに悲しそうなの?」


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