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第五話 催眠おじさん登場


 深夜だというのに食堂の中は賑やかで、人でごったがえしていた。しかし俺が通ろうとすると人々は避けていった。その目には忌避と好奇が混ざっているようだった。気にせず奥まで進み、小さいバーに腰を下ろした。そしてカップになみなみと注がれたジンを受け取ると少し口に含んだ。キツいアルコール臭がするムカつく味だ。しかしレジスタンスのメンバーは、週1回支給されるこのコップ一杯のジンをモチベーションに日々戦っている。

 周りに座っている連中はさっきまで騒いでいたのに俺が来てから急に静まり、こっちを見ながらヒソヒソしている。


「やあ、ハルタ。やっぱりここにきてたか」


「おお、やっときたか」


 待ち人が来た。痩せ細った、目つきの悪い男だ。名前はサミーという。

 彼は俺の隣に腰を下ろしたあと、持ってきたジンを一息で煽った。


「相変わらずクソまずいな」


 吐きそうな顔でゲップしたあとにサミーは呟いた。しかし彼が酒を愛していることを知っていたので、無言で俺の飲みかけのジンを手渡した。

 彼はやはりそれを無言で飲み干した後言った。


「アリムちゃんは今日はきてないのか?」


「ああ、部屋でぐっすりだ。それがな、眠れないってんで俺が本を読んでやってたんだ。おっと、いつもお前が読んでいるような下品なパルプ誌(エロ本)じゃないからな。勇者が姫を助けにいく王道のやつだ。ラストのキスシーンのところでアリムは照れて顔を真っ赤にしてな、可愛いのなんのって…」


「ハルタ。お前話題になってるぜ」


 サミーは話を遮ってつぶやいた。


「あぁ、知ってるよ。目立たない地味な弱っちい男とその妹が、みんなのアイドルライトリーダーと遠征に行ったんだからな」


「違う。分かってるんだろ?そうやって話をまぜっ返すな。一昨日お前らが行った遠征…疑問点が幾つもある。特にライト隊長が右目を損傷した件だ。彼女は何度も危険な任務を行ってきたが、怪我なんてしたのは今回が初めてだ。皆はお前を…」


「声を落とせよ」


 サミーはそこで周りに聞き耳をたてられていることに気づいたようだ。彼は静かな声で続けた。


「皆がお前を責めている。報告どおりなら、遠征に行ったのはリーダーの独断で、魔族の群れに遭遇し、お前らを助けるために囮になり孤軍奮闘…その末に捕まって拷問を受けた」


「あぁ。そのとおりだよ」


「ところが皆はそうは思っていない。それが虚偽の報告だと言っているやつまでいる。皆の一番の疑問は、リーダーが負けるような魔族がこの辺りにいたのか?という点だ。正直いって皆は嘘であって欲しいんだよ。そんな魔族が近くにいるのが怖いからな。そして行き場の無い恐怖がお前に向いて、皆お前を責めているんだ。いずれにせよお前らのせいでリーダーがケガしたのは事実だしな」


「そりゃそうだな。申し訳なく思ってるよ」


「俺が知りたいのは」


 サミーはさらに声を落とした。隣に座っている俺でさえ耳をすまさなければ聞こえなかった。彼は薬指で鼻の頭を掻いていた。


「お前は本当に何もしなかったのかということだ」


「ああ。リーダーに危害を加えるようなことはしていない」


 薬指で机を一回叩いた。「嘘は言っていない」という意味のハンドシグナルだ。

 サミーはレジスタンス内の裏切り者だ。リーダーであるライト率いる現レジスタンスの魔族に対して徹底抗戦というスタンスについていけず、魔族との戦いからの撤退をむねとする派閥の1人だ。表だった活動はせず、影からの妨害工作などにより日々魔族への戦いの志気を削いで、陰ながら同志を集めている。地下組織のようなものだ。もちろん俺もその一員だ。サミーは目の上のたんこぶであるライトを俺が排除しようとしたと思っているのだろう。

 人類はすでに負けた。戦いは終わった。俺たちはコソコソ隠れながら暮らすべきなのだ。今レジスタンスがやっていることは藪を棒で突くような愚策だ。

 だが俺の第一の目標は魔族に勝つことでもレジスタンス内の派閥争いでもなくアリムを守ることだ。今回のことを誰かに明かすのは新しいリスクを生むかもしれない。真実は俺の胸にしまっておくだけで良い。


「まあそうだよな…第一お前にリーダーがどうこうできるとも思えんし」


 空にしたカップを舐め回しながらサミーは言った。


「お前それ気持ち悪いよ」


「?…あぁ、すまん。考え事するときの癖でな」


 フッ、いくら考えても真相には辿り着けない。ここにいるやつらは俺が貧弱な風魔法しか使えないと思っている。まさか俺が滅多にいない催眠・幻覚魔法の使い手でライトをいいように操ったなど考えつけないだろ。


「しかしライト隊長の記憶がところどころ抜け落ちてるのがネックだよな。それが原因でお前の報告も疑われてるんだし。モロイン先生によると記憶の穴ぼこは催眠魔法の術後症状の特徴の一つだから、その線でリーダーの記憶復元するらしいぜ」


「エッ!?」


 …あ、まずい。色々まずい。今急に大声を出したせいで周りの注目をめっちゃ集めてしまった。サミーも訝しがってる。早く、早くリカバリーせねば…


「催眠魔法!?そんなん使える魔族が都合よくいるかよ?冗談もほどほどにしてくれ…」


 バカか俺は!?「魔族が使えないなら、じゃあお前しかいないじゃん?」って言われたらどうするんだよ!


「大丈夫かハルタ?急にどうした?アレが切れてるんじゃないか?」


 腕に注射を打つジェスチャーをしながらサミーは言った。


「…ああ、まずいな。あまり突飛のないこと言うもんで気合いで抑えてた理性が吹っ飛んだ。この場は酒を静脈注射して抑えるしかないか?」


「静脈はやめとけ、やるならケツだ。もっとも俺の叔父のユニバはそれをやったあと雪の上で寝ておだぶつになったけどな、アハハ」


 助かった。サミーがお調子者でよかった。


「…にしても催眠魔法ってガチか?人類にとってはほぼ失われた魔法(ロスト・マジック)だけど使える魔族がいるのか?そのナントカ先生って人のはやとちりじゃないのか」


「モロイン先生な。お前本当に人に興味無いんだな。可能性の一つとして催眠があるって話だから一応調べる予定ってだけらしいぜ」


「ふーん。モロイン先生って何者なんだ?」


「優秀なドクターだよ。落ちちまった手足だってくっつけちまう。もっとも、彼がすごいのは…なんというかな、人間力だ。心に傷を負った人間も彼と話していれば元気になる。みんなの人気者さ」


「あっ…なるほど。で、そのモロイン先生はどこにいるんだ?」


「たしか研究室で寝泊まりしてるらしいな。c-1地区の地下一階…てお前、そんなん聞いてどうすんだ?」


「もちろん会いに行くのさ。会って人気の秘密でも聞きたいね。どうやら俺は随分嫌われてるみたいだからな」


 そう言って周りをみる。俺らの周辺だけ人がいなかった。


「お前…笑えない冗談言うなよ。じゃ、俺は寝るとするか。アリムちゃんによろしくな」


 俺の肩を叩き、あくびをしながらサミーは去った。



 それから30分後、俺は焦りながら、しかし誰にも見られないようにモロイン先生の研究室へ向かっていた。c-1地区地下一階、c-1地区地下一階。心の中で唱える。まさか催眠魔法を使ったことに気づかれていたとは。モロイン先生、なかなか優秀だ。だが残念、気付かなくていいことに気づいてしまった。殺すしか無い。その前に催眠で操って100%俺に疑いがかけられないようなことを発表させる。

 c-1地区地下一階…着いたな。モロイン先生の部屋は…あった。間違いなくアレだ。すぐに見つけられた。ドアにご丁寧に【Moroin’s laboratory】とステッカーが貼ってある。その下には【絶対に許可無く入るな】【ノックして3分待て】…思春期の子供みたいなやつだ。なんとなくモロイン先生のことが分かりかけてきた。

 ドアの前に立つ。この分だと施錠はされているだろうが…よかった。普通のカギだ。魔力認証式だったら面倒だった。このタイプのカギの構造は頭に入っている。少し魔法で内部を動かせば開けるのは容易い。

 …よし。カギは空いた。相手を視認した瞬間、声を出される前に気絶させよう。ドアは素早く開けるのもゆっくり開けるのもダメだ。普通に開けて普通に入る。そして相手が現状を認識できていないうちに攻撃だ。今の時間帯なら寝ている、と思ったが、ドアの下から微かに明かりが漏れている。モロイン先生は起きているものと思った方がいい。

 右手の指先に魔力を集中させる。これですぐに魔法が放てる。

 ドアを開けた。現状認識。いた。やはりモロインは起きていた。すかさず右手を構え魔法を…


「は?」

「は?」


 俺とモロイン先生の言葉が重なった。互いに現状を認識できていない。モロイン先生は禿げた小太りの醜い男だった。なぜか裸だった。そして、同じく裸の女の子に覆いかぶさっていた。

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