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第二話 女騎士とオーク


「嫌です」


 俺は即答した。するとライト隊長は不満気に頬を膨らませた。


「いいか、イルスタッフ兄妹よ。お前らはレジスタンス内ニートなのだ!我らレジスタンスメンバーの役割は3分される。防衛、供給、殲滅だ。妹のアリムはまだ子供だからいいとして、ハルタ!貴様は大の男だというのに最も平易な食糧の供給しか行っていない!というわけで、明日は私と共に殲滅に行ってみようか!」


 なんだコイツ。勝手なペースで話を進めやがって。というかなんで俺が目をつけられたんだ?「アイツいっつもサボってますよ」みたいな密告でもされたのか?


「でも俺は食糧の供給を頑張ってるし…」


「口答えするな!大丈夫だ、ここら辺の魔物は雑魚だし、何より私が守ってやる!」


 こういう人、苦手だ。しかしライトはかなり強いんだよな。殲滅など言っているがおそらく少し散歩して、出会った魔物と戦う程度だ。危険はほぼ無い。だが…


「分かりました。俺は行きますよ。だけどアリムは子供だしお留守番させときましょう」


「ダメだ。アリムもだ」


「うん!私も行く!」


「ダメだ。お前はお留守番だ!」


「うるさい!とにかく2人ともだ。明日明朝、出発するから用意しとけよ」


 そしてライトは部屋を出て行った。部屋には呆然とした俺とはしゃいでいるアリムが残された。


「外に出れるなんて久しぶりだね!お弁当持っていかなきゃかな?」


 まあいっか。はしゃいでるアリムが可愛いくてどうでも良くなった。危険はほぼ無いしいざとなったら俺が守ればいいんだ。


 


 レジスタンス基地から半径5キロ程度は加護の森と呼ばれる深い森林に囲まれており、ある事情により魔物はほとんど寄り付かない。生命に溢れた土地であり、野生動物が数多く生息し、開墾さえすれば作物はよく育つ。


「というわけで、今日はこの加護の森を抜けた先にある棄てられた図書館に行ってみようと思う。まだ魔族に見つかっていなかった場所だ」


「やったあ図書館!わたし本好きだな」


「偉いなーアリム!私は難しくて書物は読まないから。文字を見ると頭が痛くなってくるんだ!」


 先を行くライトとアリムを見ていると微笑ましくなってくる。やはりこれはただのお散歩に近い。


「おいハルタ!歩くのが遅い!もっとシャキッと歩け!」


 しかしこの脳筋とは仲良くなれねーな…。


「やっと森抜けたね。疲れたー」


「森は歩きにくいからな!え〜と図書館はどっちだったかな?」


 ライトは方位磁石と地図相手に格闘している。正しい方向本当にわかってんのかコイツ?


「うーむ…うん。多分直進だ!前進しよう」


 あまりに自信満々な声だったので、特に何も考えず従ってしまった。それが間違いだった。



「リーダー。まだ着かないんですか?」


 かれこれ1時間は歩いている。5キロ程度は移動したはず。図書館は確か森を抜けて3キロ地点だ。


「うーん。なんでだ?地図って難しくてよく分からん」


 は?じゃあなんで先導してたんだ?


「アンタ地図読めないのか?なのに先頭歩いてたのかよ!」


「いつも誰かに指示されてるから、今日は私が案内したいなって…」


「いいから地図寄越してください」


 まず現在地点の確認からだ。確かついさっき左手に廃墟の村があった。そのポイントを見つけて───どこにも無い。この地図上には廃墟の村なんて無い。


「つまり俺たちは…探索外のエリアにいるのか?」


 急に冷や汗が噴き出た。ライトは呑気にアリムと遊んでいた。今までの「お散歩」から急に「未開エリアの探索」に変わったのに。というか基地に割と近い場所なのに探索外という事は、危険なエリアなのでは?今まで魔物に出会わなかった事が奇跡に近いのでは?


「リーダー!すぐに帰りま…」


 俺の推測は当たっていた。そしてさっき見た廃墟の村は、廃墟などでは無かった。魔物の住処だったのだ。そこから数十匹のオークが呻き声をあげながら、こちらに向かってきていた。


「リーダー!あっち!オーク来てますよ!」


「何言ってんだ…うおっ本当だ」


 驚きながらもライトは余裕そうだった。当然だ。歴戦の女騎士である彼女にはオークなど敵では無い。あのくらいなら頑張れば俺にだって倒せる。俺が焦っているのは、万一にでもアリムが傷つく可能性があるからだ。


「うわーオークだ!久しぶりに見たなあ。お兄ちゃんが魔法使うところも久しぶりに見たいなぁ」


 兄は魔法が使えないんだ、妹よ。厳密には使ったらお前に掛けている幻覚魔法が解け、ライトにアリムが魔族という事がバレる。

 この状況で厄介なのが、魔族もアリムを殺そうとする事だ。人と魔のハーフであるアリムからは人の匂いがするのだろう。


「…まあ、使う必要も無さそうだな」


 ライトはオークを視認した瞬間剣を抜きながら脱兎のごとく駆け出し、先頭の一体を頭から股まで真っ二つにした。続けざまに剣を横に薙ぎ払い三体の腹を同時に裂いた。


「アリムは後ろ向いてよーな」


 これは教育に良くない。戦っているライトが血飛沫で真っ赤になりながら、狂気的に笑っているのが一番良くない。


「殲滅だ!皆殺しだ!」


 叫びながらも彼女は次々とオークを斬り続けている。嬉しそうに。彼女はすでに狂っているんだ。

 その時、切り込みが甘かったのか、倒れていたオークがライトの足を掴んだ。一瞬よろめいた後すぐ掴んだ腕を斬ったが、そのまま剣が地面に刺さってしまった。すぐに横から彼女の胴へとオークが槍を突き入れる。

 やられたか、と思ったが、間一髪かわし、そいつの腕を掴み地面へ思い切り投げ飛ばした。華奢なライトとオークでは体重差は何倍にもなるだろう。化け物だ。やられる心配は無いな…。

 数十秒後にはオークの死体の山が出来上がっていた。ライトはその死体を蹴り飛ばしたり細切れにしたりしていた。彼女は血まみれだったが、おそらく全て返り血でかすり傷ひとつ負ってないだろう。


「ハルタ!アリム!殲滅完了だ!」


 笑顔で叫びながら彼女はこちらへ駆けてきた。女騎士がオークに完勝した事に疑問を感じたが、まあ喜ばしいことだ。

 その時、ライトの後方で死体が動き、弓を曳いていた。いや、死体じゃない。あのオークは死んだフリをしてたんだ!

 弓は今にも放たれる。気づいていない間抜けなライトは避けられないだろう。


「ライト!後ろだ!」


 聞こえてないし、気づいていない!間抜け!

 瞬間、俺は意識を集中させ突風をオークの方へ送った。その風は回転しながら推進力を得て、空気中のチリを一点に集中させながらこよりのようになり、オークの目を貫いた。生物を効率的かつ素早く殺すため俺が編み出した技だ。

 オークは弓を射ることなく倒れた。ホッとしたのも束の間、非常にまずい事になったのに気づいた。呆然としてアリムを見つめるライト。焦り過ぎてアリムの幻覚魔法を解いてしまっていた。当然ライトの目には魔族の証のツノが映っているだろう。

 すかさず俺の言いつけ通りに後ろを向いているアリムに最大出力で睡眠魔法をかける。耐性のないアリムには効きやすい。これで一時間ほどは眠ったままだろう。


「ハルタ…アリム…お前ら…」


 ここから先は、子供には絶対に見せられないことになるだろうから。

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