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第二話 空いた穴は誰が埋める?

 異世界管理局の資料室、その部屋の転生者に関する資料が多く集まる箇所で、リリアスは資料を読み漁っていた。

 その手に持っていた資料を棚に戻し、また隣の資料を取り出してまた読み始める。

 女神メレリアが連れ去られ、リリアスの仕事量は一見減るかに思われた。しかし世界の管理を担う一人の神が消えた影響は思ったよりも大きく、その対処のために忙しさはあまり変わらなかったようだ。


「うぅむ……世界の管理を担う神そのものが転生者に連れ去られた場合の対応、過去2件しかなかったということもあって参考資料が少なすぎますね……」


 リリアスは過去の事例から対応策を考えようとしているが、その少ない情報量に頭を悩ませている。すでに訳30冊ほどの資料に目を通しているが、そこに今回の事案の対処に有用そうな情報はなかなか見つからない。


「特に最初の拉致事案の情報が少なすぎません……? 普通こういう初めて起こった事案については対処のマニュアルとかを作っとくものじゃないんですか……? なんでこんなに無いんですかもう……」


 小言を挟むリリアス。実際彼女が目を通した資料の中には、最初の事案についての情報がほとんど見られなかった。得られた情報といえば、連れさられた神の名前のみである。


「神の名前は"ラムザ"……うぅん情報量が足りない、どこかでこの世界の職場に話を聞きに行きましょうかね?」

 

 手に持っていた資料を閉じ、また棚に戻す。リリアスは大きく伸びをして、体のコリをほぐす。

 あまり成果の得られなかった事実にため息をつきながら、リリアスは顎に手を当て思案した。

 

「一応情報は集めましたし、あまり気は進まないけれども、「管理神会議」の招集をかけるしかないですかねぇ……」


 資料を読んで得た情報を整理して考える。1件目の事案についての情報こそ得ることはできなかったが、リリアスは2件目の事案、過去にどう対処したかの情報を得ることには何とか成功した。

 

 眠そうな目をこすりあくびをしながら、リリアスはそう言って資料室を後にした。


 


――――――――――――――――――――

 

 

 

 「えぇ……本日は、ご多忙の中今回の「管理神会議」にお集まりいただき、ありがとうございます」


 日は変わり翌日、会議室の広い一室、円形テーブルに設けられた椅子には多数の神が腰を掛けている。どこか厳かな雰囲気を感じる神たちに囲まれ、その中央に立つリリアスは、その神たちに対して頭を下げた。

 

 管理神会議とは、各世界を管理する神々が集まり、各々の世界の管理についての相談や意見交換を行う会議のことである。

 本来この会議は世界の管理、監視を担う神が招集権を持つのだが今回に限っては事情が事情であるので、リリアスが招集をかけた。

 そうして始まった管理神会議はというと…………。


「んと……1ついいですか…………? 集まりがッ‼ 悪すぎますッ‼ なんですか集まった神たったの"3人"って!!」


 異常に集まりが悪かったのだ。開始早々にリリアスの嘆きが部屋に響く。

 数多に存在する世界の中、管理を担う神々は数多く存在するのだが、その中集まったのは3人だけ。

 

「まぁいつもこんな感じだからねぇ。さして重要な話し合いがこの会であったことないし、暇な神しか集まらないってもんだねぇ」

「俺は暇だから来たわけじゃないですよ。この会議で話される内容は世界の管理にあたり役立つことがあるかもしれないので、俺はちゃんと出席しています」

「我は暇を極めておるので来た。して今会議の議題はなんじゃ?」


 集まった3人が各々口を開く。

 

 おっとりとした口調で話す空色の髪をまいたツインテの、女神マリーシャ。

 話から勤勉であろうことが伺える、眼鏡をかけた赤い髪の神、神レンマ。

 テーブルに突っ伏して話す、狐の耳を生やした金髪の小柄な少女、女神ヤヨイ。


 ほとんどの神が来ないこの会議に出席する、ある意味の変わり者とでもいえるであろう3人は会議の議題が何か気になる様子であった。3人の視線が中央のリリアスに集まる。


「集まっていただいた御三方には本当に感謝しかないです……それでは、今回の議題について説明させていただきますね」


 リリアスは3人に、先日作成した資料を配って説明を開始した。


「ご存じではあると思いますが、前提として創造神と管理神の違いについて説明させていただきますね。まず創造神は、世界そのものを作り上げたその世界全知の神のことです。1つの世界に最低でも一人、必ず存在します。もっとも彼らはずっと眠りについておられますが」

「次に管理神です。管理神は創造神の作った世界を監視し、世界の魂について管理を担う神様のことです。」


 リリアスは淡々と説明を行う。ヤヨイはめんどくさそうな様子で、早く本題に移れとでも言いたげな視線をリリアスに送る。

 こほんと咳ばらいを入れ、リリアスは本題を切り出す。


「その管理神、私の上司でもあるメレリア様が転生者に拉致されていきました。今回の議題は"メレリア様の不在で空いてしまう穴をどう埋めるか"です」


「えぇ!? そんなことできるのぉ!?」

「"転生者が神を拉致していった"ですか……初めて聞きました。興味深いですね」

「……ほぉう?」


 三種三洋の反応を見せる神たち。マリーシャは驚愕の表情を見せ、レンマは顎にてを当て思案する。ヤヨイは突っ伏した顔を上げ、一段と興味を持った様子で耳をピコピコと揺らしていた。


「転生予定者の願いを1つだけ叶えるという流れで、その転生者は一目惚れでメレリア様自体を要求しました。なんと過去に2件起きているらしく、転生部の原則的にも要求を汲まざるを得なくて連れていかれました」

「へぇ~過去に2件も……面白いね! そんなことがあるんだねぇ……それで? 対処法とかあるのぉ?」

「そうですね……過去の資料を確認したところ、2件目に起きた管理神拉致事案では、別の管理神が世界を掛け持ちして管理するという対策が取られていました」


 リリアスが調べた対処法を述べると、マリーシャ以外の神の表情が強張った。

 

「もしかしてじゃが……我々は今から誰が仕事を掛け持ちするかを話し合う……ということかのぉ?」

「はい……私としてもこの対処法を使いたいので、そういうことになってしまいます。」

「はぁ~……今日来るんじゃなかったかのぉ~……」


 ヤヨイは頭を抱えテーブルにまた突っ伏してしまった。頭の耳がペタッと垂れ下がる。

 あたりに沈黙と重い空気が立ち込める。マリーシャは我関せずと笑顔を絶やしていないが。

 管理神の仕事は1つの世界の管理でさえ多い、その上もう1つ掛け持ちして世界を管理するとなれば、その苦労は計り知れないものになるであろう。管理神にとっては面倒が増えるだけということになり、基本マイナスしかないのである。

 

 しかしこの対処法はリリアスも乗り気ではなかった。神は変わり者が多すぎるからだ。

 彼女の上司、女神メレリアは倫理感をどこに捨てたんだと思わされるレベルでいい加減な性格であり、その性格由縁の仕事ぶりでリリアスの仕事は増え、日々苦しめられていた。

 リリアスは他の神に任せることで、また新たな形の心労が自身を襲うのではないかと危惧している。しかし、他の神に任せず自分が管理神代理をするなんてことはできないのだ。背に腹は代えられない。リリアスは半分賭けにも近い形でこの会議を開かざるを得なかったのだ。


「リリアスさん……先ほど、2件目の対処法といいましたが、1件目の事案もその対処法が使われていたのですか?」

「そうですね……実は1件目に関してはどの資料を探しても情報がほとんどないんですよ。不自然なほど見つからないんですね。調べて分かったことは、連れ去られた神が"ラムザ"という名前の神であることのみなんですよ……」


 そうですか……と肩を落とすレンマ。


「らむざ……? リリアスよ、今ラムザと言ったか」

 

 1件目の事案の被害者であろう神の名前、"ラムザ"というワードにヤヨイは顔を上げ、少し驚いた様子でリリアスに訪ねた。

 

「はい、ラムザという名前であったと言いましたが……何か知っているのですか?」

「あぁ……ラムザは我の古い友人じゃ。長いこと奴には会っていなかったが……そうか、異世界に連れ去られておったのか……」


 リリアスはその事実に驚く。もしかしたら貴重な情報源となるかもしれないと思った彼女は、ヤヨイに向き直り尋ねる。

 

「知り合いなんですか! でしたら、何か話を聞いていたりしませんか?」

「いやぁ、長いこと会っていないといったじゃろ? なにも耳には入っておらんよ。しかし……奴はもとより自分勝手な奴じゃったわい。身勝手な行動に罰が当たったんじゃな!」


 ヤヨイはそう言って椅子によりかかり、嘲笑の意を込め鼻で笑う。

 しかしながら、結局のところヤヨイから新しく情報を得ることはできなかった。会議はそのまま誰が仕事を掛け持ちするかの話題に戻っていくこととなってしまった。


「…………」


 先ほどまでの沈黙がまた帰ってきしまった。この中の誰が仕事を掛け持ちをすることになるのか、能天気に見えるマリーシャを覗きその他全員に緊張が走る。

 神々が顔を見合わせ牽制しあう目線を飛ばすなか、重い空気をもろともせずマリーシャが手を上げた。


「私がやろうか?」

「「えっ!?」」

「本当ですか!?」


 その場の全員が驚く。その皆の様子にマリーシャも驚いた。

 お互いに面倒ごとを押し付けあうことになり、極遅進行の会議になるであろうことを覚悟していた皆にとって、あっさり自分が引き受けると申し出た彼女の発言は目を見張るものであった。


「私は転生予定者と話す管理神の仕事が好きだし、仕事を掛け持ちすれば楽しみが増えることになるから全然OKだよ? それに、レンマくんとヤヨイちゃんのとこの世界は科学文明でしょ? 私のとこは魔法文明で、メレリアちゃんのとこと一緒だから私がこの中で一番適任なんじゃないかな?」

「なるほどのぅ……そう言われればそうじゃの、主が一番適任かもしれんな」

「……何かあれば俺にも言ってください。少しであればお手伝いできると思うので。押し付けるような形になってしまい申し訳ないです」

「全然オッケー! 問題ないよありがとね! ……ということでリリアスちゃん、私がメレリアちゃんの代わりを務めるってことで大丈夫かな?」

「えぇ大丈夫ですよ! 本当にありがとうございます!」


 意外にも円滑に事が進み、喜色の笑みを浮かべるリリアス。他の皆もホッとした表情を見せる。

 リリアスは決定を手元の議事録にメモを取りながら、マリーシャの方に向け感謝を述べる。

 

「そうだね……リリアスちゃん、手伝う代わりと言っちゃなんだけども、リリアスちゃんには1つお願いを聞いてもらいたいなぁって!」

「お願い、ですか?」

「うん! 詳しくはそっちに行ったとき話すけどさ!」

 

 マリーシャは席を立ちあがり、左右に空色の髪を揺らしながらリリアスに笑顔で尋ねた。

 何か特別な裏があるわけでもないだろう、そう思ったリリアスは彼女の純粋性を信じて承諾することにした。

 

「まぁ面倒を引き受けてもらった感謝もあるので、私にできることがあれば全然大丈夫ですよ」

「ありがと! じゃあ明日、さっそくだけどそっちの職場に行くね!」


 こうして、マリーシャが仕事を引き受けるという形にその場の全員は納得。早く会議が終わったことに他の神は安堵して、しばらく雑談をしてから各々の世界の職場へと戻っていった。



 

――――――――――――――――――――



 

「リリアスちゃーん! 来たよー!」

「おはようございますマリーシャ様、こちらの無茶を引き受けてくださり重ね重ねありがとうございます」

「大丈夫大丈夫! いいってことよぉ!」


 次の日、マリーシャは先日話した通りにリリアスの職場へとやってきた。しかし、マリーシャ一人ではない。彼女の背後にもう一人、姿こそ見えないが震えた様子で女の子がついてきているのが分かる。リリアスは疑問に思いつつも、彼女を歓迎し、中へと案内する。

 部屋のテーブルにマリーシャを座らせ、紅茶を淹れて彼女に差し出す。

 

「ところでマリーシャ様、先日おっしゃっていたお願いとはなんなのでしょう。そこの後ろの彼女となにか関係が?」

「そうそう! リリアスちゃんには、この娘の研修をお願いしたいなぁ~って!」

「うぅ………………」

 

 そう言ってマリーシャは、先ほどから彼女の背後に隠れ怯える天使の首をグイッと引っ張り、私の前へ差し出した。

 姿を見せた彼女は腰ほどに長い黒髪を携え、その金色に光る彼女の瞳は涙目になっていることが伺える。そして頭上の光輪から彼女は天使、神に仕える者であることが分かるだろう。

 どこか庇護欲をそそられそうな彼女の様子を見て、リリアスはマリーシャに聞いた。

 

「新人天使ですか? この局で新人は珍しいですね。管理神に仕える天使は、基本長年続けているベテランがほとんどだとされていますが……」


 突然現れた新人天使に対しリリアスが不思議がると、マリーシャはにやりと笑みを浮かべた。何か嫌な予感を察知しリリアスは身構える。

 そしてマリーシャの衝撃の発言。

 

「この娘、一昨日私のとこに来た男の転生予定者だったんだけど、気に入っちゃったから女の子にして私専属の天使にしちゃったの! だからこの娘は何も分からない状態。ね? 新人研修が必要でしょ?」

「あぇ……なるほど……? はい、なるほどですね? えぇー……はい、分かりました……」

 

 突然のカミングアウトに、リリアスは思わず天を仰ぐ。

 先日お願いを聞くと言ってしまった以上ここで撤回するわけにもいかない。

 リリアスの目の前にいるこの小柄な天使が、完全な被害者であり新たな面倒そのものであるという事実。同情とゲンナリした気持ちが混ざりあい複雑な感情となって、彼女の胸の中で渦巻き初めていった……。

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