プロメテウスの歌 ファースト・ラビット
短編の第二弾 第一弾のおおよそ二十年後 今後は時間軸舞台とも主要登場人物とも アトランダムに掲載予定
続々と避難民が集まってくる。ある者はまるでウサギのように飛び跳ねていたといい、またある者はイナゴのように飛んでいたと話しをしていた。その物体は10メートルとも普通の人間の背丈とあまり変わらなかったという証言もあり、混沌としていた。伊那谷に指揮所が設けられていた。ほか塩尻峠の北、南の中津川さらにごく少数だが西側飛騨方面に逃げ延びた者もいた。木曽谷の怪物。後にそう名付けられた謎の物体は、最初のうちは未確認生物とも言われ北の端から南へと移動し、中津川の手前から急に方向転換して南の方、中京府北部の山岳地帯へと逃げおおせたらしくようとして行方知らずであった。第一報では、怖いもの見たさ半分、興味半分で、暇つぶしのネタ扱いでむしろ住民たちも面白半分であったが、まもなく当局の報道規制がかかり、当局の軍、警察、更にN.A.E.軍の出動が伝えられるとにわかに緊張が高まっていた。そこへ全住民の避難勧告である。何が起こったのか、真相は全く知らされず強制移住をさせられる。さらに住民の不安を煽ったのは、宇太県上京府に北の海の国籍不明船からミサイルが放たれ上京府が壊滅状態に陥った。大統領一行も行方不明というラジオ放送が流れたことだった。腰が重かった住民達もにわかに避難を始めだした。静かなパニックが広がり始めていた。更に避難所では全避難民に放射能検査を強制実施されるに及んで、住民達も何が起こったのか理解し始めていた。上京府を壊滅状態に追い込んだ新型爆弾は人類史上初の核兵器であると断定されるに至って、避難民達にも重苦しい空気が漂う。ただ当初壊滅状態を伝えられていた上京府は南の三分の一程度が破壊されるに留まり、大統領一行のうち、外務大臣が間一髪神戸に逃れたことが伝わるとわずかにホッとした空気が流れた。伊那谷の指揮所上空に謎の物体が現れ、指揮所に緊張が走る。無線での交信が何度も交わされ、謎の物体もどんどん接近してきた。物体は最近目に触れだしたヘリコプターだった。指揮所の隊員達に安堵の空気が広がる。ヘリコプターからはラフな格好をしたお馴染みの人物が登場した。指揮所の責任者が敬礼する。閣下ご無事で何よりです。閣下と呼ばれた人物も片手を上げて応える。だが顔色は無事というにはあまりにも青白く、体調も見るからに悪そうだった。ホッとした空気が流れたのは一瞬でまた得体の知れない緊張感が流れ出す。指揮所のテントに用意された席に着席すると周囲から盛んに報告を受けていた。接近してくるジープがあった。ジープから閣下との謁見を乞う使者がやってきた。使者から訪問客の名前を聞いた閣下はにわかに立ち上がり会見を承諾した。自らテントの外へと歩き出す。ジープからも訪問客が降り立った。サングラスをかけた大柄な人物とその付き人らしかった。やあB.M.久しぶりだな。!?訪問客はいきなり立ち止まった。その名前で呼ばれるのは久しぶりだ。いや、その名前で呼ぶのはワタシの知る限りではひとりだけだ。さよう自分はF.R.だ。訪問客が片手でサングラスを外し、閣下を凝視した。そのようだな。言われて見れば面影がある。自分は君がコマンダーとしてこの国に帰ってきたと知った時は嬉しかったぜ。オレは今の今までお前が大統領だって知らなかったぜ。ニコリともせず訪問客が言った。まあ、そこが政治家と軍人の違いさ。もっとも君の本国の上官は昔のコトを知ってて、わざと君をコマンダーにしたのかも知れないな。訪問客は沈黙していた。で用件は?A.R.だ。今さらとぼけなくてもよかろう。自分は20年来あの怪物を追ってきた。MADサイエンティストとD.S.もだ。二人はにわかにやまと言葉ではなくリングァ・フランカで話し出した。言語、動作も激しくなった。しばらくやり合ったあと。ふいにやまと言葉に返った。今言ったようにA.R.はコチラが中京の沖合の海から引き揚げた。上京のコトもあるのに放ったらかしてきたんだ。ただでは返さない。いや返そうとしたって今さら返されたって君達N.A.E.だって困るだろう。もともと20年前に解決しなければならなかったのに。四体のうち三体はとっくに回収済みだと言ってもモノがモノだ。いや、返してもらおう。ワタシは本国から無条件での回収を命じられている。ワタシは軍人だ。命令には逆らえないし、条件について話し合う交渉する権限も与えられていない。ではお引き取り願おう。たしかな権限を持つ者と政治家同士話しをつけるまでだ。しばらく沈黙が続いていた。F.R.が口を開く。だが政治家でなく軍人の君を寄越してきた。コマンダーとはいえ一介の軍人に処置を任されたのは何故だ。交渉する権限はない。だがお前さんを納得させる情報なら持ってるぜ。本国にはまだ知らせていないオレだけのとっておきの情報がな。ふたたびリングァ・フランカでのやり取りが始まった。やり取りの最中でもF.R.の体力が次第に弱まって来ているのがわかる。三度、弱々しい声でやまと言葉に返った。では残りの処置はソチラに任せるしかないな。プロフもD.S.もか。F.R.は天を仰ぐ。絶望的な表情だ。そんなF.R.をB.M.が冷ややかに眺める。そんなF.R.の前に人影が近づいてきた。F.R.に耳打ちをする。F.R.の眼に光が蘇っていた。やぁ。君の名前は。男の子が名乗った。その名前を聞いたB.M.に微かに狼狽の線が走った。その子をコチラに寄越せ。なぁぜ?F.R.はリングァ・フランカで楽しそうに男の子と話し始めた。男の子は泣きながら話を続けていた。時々謝罪らしき言葉も交えながら。F.R.は時に頭を撫で背中をさすり、時々握った手を強く握り締めていた。最後に力強い眼で男の子を見つめると男の子は軽い寝息を立てながら静かに眠り始めた。男の子は先ほどの人物に抱きかかえられながらテントの医療所へと運ばれて行った。可哀想に。F.R.はつぶやいた。自分もお前さんも、すべてをあの子の責任にするワケにはいかないぜ。B.M.は憮然としていた。お前、あの子に何をした。何をしたかって?そちらこそあの子に何をしたんだ。あの子をよく知っているみたいだったが?あの子は横田ベースの子だ。フムフム。半年ほど前から横田ベースをはじめN.A.E.関連施設でのハッキング被害の報告があった。フムフム。我々は調査を始めた。フムフム。今週になってやっと犯人を特定したと思ったらあの子がベースキャンプから失踪したんだ。今の今まで発見する事ができなかったんだ。フムフム。聞いての通り、あの子が誤ってA.R.の起動装置を入れてしまったのは間違いないようだ。しかし、自分はおかしいなと思っている。あの子の話や先ほどの君の話を合わせると君達の上官はA.R.の潜伏先いやハッキリ言おうか、隠し場所を知っていたハズだ。B.M.の表情も微かに変わっていた。とするとオレもお前もハメられたというワケか?そうだ今に限ったことではない。20年も前からいや、もっと前々から陰謀は始まっていたのかも知れない。プロフは知っていたのかも知れない。自分に最後に話しをしてくれた時。プロフは言ったんだ。謀略は運命よりも強し。なれど謀略とは徹底的に戦え。それが運命に打ち勝つただ一つの手段だとね。なるほど。だがオレは軍人だ。軍人としてやるべき事はやる。先ほどの話しだがお前先ほどあの子に何をやった。F.R.は鼻で笑っている。昔 横田ベースに世紀の大催眠術師とかいう男が慰問に来てただろう。N.A.E.公認でね。その人から強引にね。手ほどきしてもらったのさ。実際に使ったことはないが久々に使ったら思いのほか効いて自分でも驚いているところさ。いかにも楽しそうに笑っている。嘘をつけ!B.M.が吠えた。お前そうやって20年も過ごしてきたのか。いくらなんでも普段使い慣れない施術がそんなに上手くいくものか!さぁ、それはどうかな?弱々しく笑いながら、いずれにしてもあの子には30年、いや40年 記憶を封印するよう暗示をかけた。記憶を消したのか?まさか、そんなこと出来るワケがない。記憶というものは頭の片隅にはちゃんと残っているものだ。ただその引き出し方が難しいだけだ。そう例の催眠術師に教わったぜ。あの子はどうせ家族ともども、本国に送り返すんだろう。あの子のためにもその方がいい。あの子にとってはこの国の環境そのものがストレスだったのだろう。この国の政治家として、それもトップとしては残念だけどね。さびしそうな笑いだった。あの子はこの国に戻って来る事さえなければ永久に思い出すことはないだろうね。よし。A.R.は返してもらうぞ。ああ。木曽谷はコチラN.A.E.が決めた期間まで無人のまま無条件で封印させてもらうぞ。監視役はもちろん。N.A.E.でな。先ずは500年間だな。なんだと。F.R.の眼に怒りの炎が点る。何が起こったのか。その真相は永久に闇に葬られる。これについては若干の権限がオレに与えられておってな。好きにさせてもらうぞ。B.M.がせせら笑う。F.R.はくちびるを噛み締める。先ずはオレ様の権限で恵那やその他のいくつかのトンネルを埋め戻す。オレ達が知らないとでも思ったのか。弾丸列車も諦めろ。例のお前たちの海上だか海中だかの基地は破棄される。先ほどのヤツもそこの住民だろう。一体何人ほどいるんだ。おおかた海外からの不法移民を住まわしているんだろうが。百人か千人か。20万人だ。B.M.が鋭い口笛を吹く。これは予想をはるかに上回るな。オレ達はせいぜい多くても二万人と踏んでたんだがな。もういい。お前もグルだったんだな。コレはもう。その通り。やまとの再占領政策さ。なんだ。もう降参か。謀略とは最後まで徹底的に戦うんじゃなかったのか?先ほどはご丁寧に催眠術まで使って証拠隠滅まで手伝ってくれてありがとうよ。お陰様でコッチは笑いをこらえるのに必死だったぜ。こんなことが、こんなことが永く続くと思っているのか。上京もお前達の仕業か?さぁてね。そっちの情報は自分には与えられていなくてね。真相は不明だな。政治家が決めるんじゃないのか?真実とやらをね。先ほどから何度も言っているように、オレは軍人だ。命令にしたがうだけさ。もう、お前に残された時間はない。しばらく時間をやろう。てめぇのケツはてめぇで拭くんだな。B.M.はジープへと戻っていく。先ほどの男がもう一人と一緒に戻ってきた。二人がかりでF.R.の腕をとり支える。あぁ関さん、張さん悪いな。君達の居場所は無くなってしまったよ。いい事ばかり長くは続かないものです。ニコリとして関翔が答える。なんでもないさ。こんなことは。いくらでもあるさ。張翼も言った。二人に抱きかかえられながらテントへと戻った。ベッドに横たえられる。だが、しばらくするとふたたび上半身を起こした。何をなさいますか。関翔が言う。寝とけ。寝とけ。とコレは張翼 メッセージをいや遺言状かな。8ミリにでも残そうと思う。何を弱気な。アホ抜かせ。いやコレは最後の戦いであり抵抗でもある。いや、違うな意地かもしれない。張さんがよく言う根性を見せたろうかい!というワケさ。F.R.は微かに笑っていた。ソレから真顔に戻り、手伝ってくれないか。ソレからまもなくカメラが準備された。F.R.はカメラの前でゆっくりと頭に手をやったかと思うとカツラとおぼしきモノを脱ぎ捨てた。さらに片目ずつ指をつっこみコンタクトとおぼしきモノを取り外した。ソレからおもむろにゆっくりと語り始めた。わたしの名前はファースト・ラビット。この国の最後の総理大臣であり、ZIPANGUの初代大統領です。放射能でだいぶ抜け落ちたとはいえ遠目でもハッキリとわかる輝くばかりの金髪。そして失明寸前とはいえ燃えさかっている青い眼。
あれでよかったのでしょうか?マックタイア准将。副官がジープに戻ったB.M.に声をかける。いや、コレは戦争だ。政治家の思惑はどうあれ、オレは軍人としてベストを尽くすだけだ。そうでしょうか?何がだ。D.S.といい プロフもといダグラス・スコット氏のコトをなぜ本国に報告しないのですか?D.S.もといデポラ・スーはやつF.R.ことフランク・ロイドの婚約者だったからだ。副官はつい先刻のことを思い出していた。木曽谷に侵入し とある山寺の裏手にA.R.が隠されてあったとおぼしきトンネルを発見し踏み込んだ。ガラス状のケースにその女性は眠っていた。それを一目見るなりB.M.は激しく嘔吐した。涙混じりのそれは凄まじいものだった。スー、スーこんなところにいたのか。ひとしきり男泣きに泣いていた。B.M.が落ち着くまで副官は冷静に機械類や周りの設備環境を点検していた。B.M.が落ち着きを取り戻すと報告を始めた。どうやらココは原始時代の洞窟だったところらしく、後世何度となく人手が入っていたようです。恐らくは先の大戦でやまと帝国が大幅に拡張したものと思われます。その後廃棄されたと思われますが、備品や機械類を見たところ最新鋭の物と思われ何者かがココに運んだのは間違いないと思われます。B.M.が手を振った。早く本題に入れという合図だった。ワタシが気になるのはこの年代がかった古いビデオです。再生してみますか?返事をまたず、備え付けの再生機器をつけた。ダグラス・スコットと名乗る一人の老人が映し出され、ことの顛末を語り始めた。かなり長時間30分ほどもあろうかというシロモノだった。要約すれば御岳の突然の噴火に巻き込まれスーが亡くなったこと。ことが事なので、ベースとも連絡も取れず下手に軍を動かすと地元の住民達や、やまと側のマスコミや政治家に知られるとまずいコトになる。途方に暮れたがココの設備のコトを思い出し、とりあえず眠らせてあるA.R.を蓄電池がわりにしてスーの遺体を氷温で冷凍保存することにした。。自分もだがベースキャンプなり軍の上層部なりが早急に対策を取るコトを望む。自分が無事にベースに帰還できれば、このビデオも無用となるが。自分はスーの両親になんとお詫びしたらいいのか…。
A.R.に替わるバッテリーをジープから降ろし応急処置を済ませ、とりあえずココまで大急ぎで駆けつけて来たのだった。結局スーも今まで探し出せず、ダグラス氏も姿を現していないのは何故でしょうか?何故かって?それは軍の上層部いやN.A.E.の上層部がどっぷりと関わり合っているからさ。申し訳ないがF.R.も指摘したとおりオレもお前さんも上層部の連中の捨て駒に過ぎない。この国に関わるコト自体が悪運なのさ。B.M.が自嘲した。つまりすべてが陰謀だと。震丹では軍人の家系が三世代続くとお家が断絶すると言ってそうならないように大変な苦心をするという。マックタイア家もオレの代で三代目だ。もうお終いかな。何をおっしゃいますやら。どうする?この顛末を本国の上層部に伝えるか?我が軍の制度では副官は上官の監視役つまりはスパイの役目を果たさなければいけないことになっている。ワタシはとりあえず上官を信じています。よし。それではフランク・ロイドの側近と話をつけようぜ。准将があごをしゃくった。見るとテントから関翔、張翼が連れ立って出てきたところだった。