8 君は心の強さを証明した
ロックフェイスはもはやピクリとも動かない。
死んでいるようだ。
それを確認し、俺はミラージュの元に歩み寄った。
「ミラージュ、大丈夫か……ってボロボロだな」
両腕が吹き飛んでいるのに加え、鎧の大半が溶け落ちていた。
その下には――何もない。
ミラージュの体は、鎧の下は空洞のようだった。
「お、お前、その体――」
「最初に言ったが、私は『リビングメイル』という種類のアンデッドだ。体の内部はもともとこうなっている」
驚く俺にミラージュが語る。
「ダメージを受けてそうなったわけじゃないのか……」
安心する俺。
「そういえば、魔王退治の騎士が身に付けていた鎧なんだっけ」
「そうだ。持ち主は、勇者の一人だったのだと思う」
ミラージュが語る。
「私はこの鎧の本体……本来の持ち主のことを知りたい」
「えっ」
「リビングメイルは鎧の持ち主の残留思念がもとで誕生する。その思念が私という自我をも作っているはずなんだ。私は――自分のルーツを知りたい」
ミラージュが言った。
「だから、それまで滅びるわけにはいかない。だから……そのためには強くならなければいけない。そう思って修行を続けてきた」
こいつが最下級アンデッドにしては異様に強いのも、その修行の賜物ということか。
「いつか、ここから出してくれる者が現れると信じて、数百年ずっと」
「それだけの気持ちで、数百年も――」
俺は息を飲んだ。
強いな、と思う。
信じられないほどの信念の強さ……そして心自体の強さ。
俺がこいつの立場だったら、とても無理だ――。
ミラージュと目が合った。
仮面の奥にある赤い眼光。
そこに不気味さや威圧は感じなかった。
ただ、自分のルーツを求める真摯な思いが宿っているように感じた。
「分かった。じゃあ、俺と一緒に行こう」
ミラージュにうなずく。
たんなる『しもべ』という関係だけじゃない。
こいつと一緒に戦いたい、という気持ちがまた強くなった。
「こうやって会えたのも、何かの縁だろ」
「縁か」
ミラージュもうなずいた。
「いや、あるいは運命か」
「あ、そうだ、このロックフェイスもしもべにしないとな」
これだけ強いモンスターだ。
服従させれば、きっと強い味方になってくれるだろう。
「【アンデッド・服従】」
【ネクロマンサー】のスキルを発動する。
『服従判定:不可。しもべにすることに失敗しました』
「えっ」
まさかの失敗だった。
あ、そうか。
しもべにできるアンデッドのランクが決まっていたな。
スキルの能力解放があって、以前よりも高ランクのアンデッドをしもべにできるようになったとはいえ、それは中級アンデッドまでの話。
ロックフェイスは――服従可能なランクを超えているということか。
『【ネクロマンサー】のスキル習熟度が足りません。高レベルアンデッドを服従は不可となります』
予想通りの説明文が浮かび上がった。
「うーん……ロックフェイスは強い味方になってくれそうだけど残念だ」
まあ、しもべにできないなら仕方がない。
「あとは……ミラージュの鎧って修復できないのか?」
「いちおう少しずつ自己修復はする。ただ、一気に全回復とはいかないな」
ミラージュが言った。
「鎧が壊れた状態だと、身体能力とか攻撃力なんかは落ちるのか?」
「ああ」
俺の問いにうなずくミラージュ。
じゃあ、回復するまでミラージュは弱体化しているわけか。
「その間は俺が頑張らないとな」
「大丈夫だ。マスターは強い」
ミラージュが言った。
「まあ、ステータスは随分と上がったけど、やっぱりお前に比べたら……」
「能力の話ではない」
ミラージュが続ける。
「心が強い。君はロックフェイスとの戦いで、その強さを証明したじゃないか」
俺は――。
「そうだ、あのとき俺は恐怖におびえずに、真っすぐ立ち向かうことができた」
「それが君の強さだ」
ミラージュの声には温かな意志が宿っていた。
「ありがとう、ミラージュ――」
俺は今まで、ちっぽけな自分が嫌だった。
臆病な自分が嫌いだった。
だけど今日、俺は少しだけ――。
自分のことが好きになれそうだ。
俺はその後、別のダンジョンワームを探し出し、これを倒してしもべにした。
で、そいつに道を案内してもらいながら上層を目指す。
時にはモンスターと戦いつつも、それほど苦労せずに上へ上へと向かうことができた。
やっぱり俺自身が強くなっていることと、ミラージュが一緒にいてくれることが大きい。
それに加え、道中で倒したモンスターをしもべにして、俺の軍団を増強していったこともある。
二時間ほどの道程の末、俺はようやく地上に戻ってきた。
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