1 時雨なき帰還
「戻ってきた――」
那由香は近づいてくる馬車を見つめ、つぶやいた。
ここネビル王国を出立した魔族討伐軍――彼女のクラスメイトである『勇者』を中心とした部隊――が戻ってきたのは、出立からちょうど五日後だった。
王城に到着した馬車から、クラスメイトたちが下りてくる。
だが――、
「時雨くんがいない……!?」
那由香は戸惑いを強くした。
討伐軍の中心戦力といってもいい夜天宮時雨の姿がどこにもないのだ。
降り立ったメンバーを見ると、時雨以外にも岸と千佳の姿もない。
他はどうやら大きな怪我はなく、無事な様子だが――。
「みんな……!?」
様子が、おかしい。
全員の表情がいちように暗いのだ。
いつも快活で笑顔を絶やさない葉月にしても、険しい表情のままだった。
「あ、あの、お帰りなさい……」
那由香は思い切って葉月に声をかけてみた。
葉月はクラスの中心グループの一人であり、那由香は『その他大勢』のポジションだ。
普段はほとんど会話する機会さえない。
けれど今は、とにかく時雨がどうなったのかが気になった。
「ここにいない人たちは、その……」
たずねながら、那由香は自分でも情けないほどしどろもどろになってしまった。
時雨は無事なのか、と聞きたかったが、上手く言葉にできない。
相手が葉月ということで緊張しているせいもあるのだが、何よりも彼のことが心配だった。
気持ちが逸って言葉が出てこないのだ。
「……二人、死んだ」
葉月が暗い顔で告げた。
「えっ……」
那由香は体中から血の気が引くような感覚がした。
まさか、時雨が――。
「岸くんと千佳よ。後は無事」
葉月が淡々と告げる。
それを聞いて、那由香はまず痛ましい気持ちになった。
これでクラスの犠牲者は四人だ。
「それから時雨くんは――」
葉月が唇をかむ。
「魔族についていったの」
「えっ……!?」
那由香はハッと息を飲んだ。
一瞬、意味が分からなかった。
「魔族についていく、ってどういう……」
「わからないよ、あたしも! 意味わかんない! あいつら強すぎたし! 簡単に二人殺されたし! あたし、怖くて何もできなかった! 逃げることしか! このあたしが! おびえることしかできなかったの!」
葉月がいきなり絶叫した。
溜めこんだ感情を爆発させるかのように。
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