2 俺は精鋭メンバーを率いて出撃する
三日後、俺たちは王城の正門前にいた。
そこには魔王軍討伐の部隊がそろっている。
騎士団に魔法師団、そして俺たち勇者の選抜メンバー。
「あ、時雨様!」
騎士団の中から数名の女の子たちが駆け寄ってきた。
女性だけで構成された精鋭部隊――『戦乙女隊』。
俺とは何度か面識があり、城内外で会ったときには声をかけてくれる。
「君たちも討伐部隊に加わっているのか?」
「はい。勇者様たちの足を引っ張らないようがんばります!」
「時雨様の活躍が楽しみです!」
「ちょっと、それはさすがに失礼でしょ!」
「えー、だって時雨様がこの部隊で最強なんでしょ?」
「それはそうだけど……」
などとワイワイ騒いでいて、あんまり戦争の雰囲気っぽくない。
「ふふ、戸惑いましたか?」
女騎士の一人が笑った。
「戦争っぽくない、とか?」
「いや、まあ……」
俺は苦笑した。
「俺は戦争なんて無縁の国から、この世界に来たから……正直、戦争の雰囲気自体を知らないんだ。もっとピリピリしたり、殺伐としているのかと思ってたよ」
「もちろん状況によりますし、国によっても違うかもしれません。我が国の場合はできるだけ精神的な負担を減らして、戦場で存分に実力を発揮しよう――という方針なので」
「へえ」
なんか戦争っていうよりスポーツみたいな感じだな。
でも、理にかなっている。
「俺も気負い過ぎずにがんばるよ」
そして俺たちは出立した。
大通りから王都の外壁にある門までゆっくり進んでいく。
俺たち勇者は先頭の馬車に乗っている。
馬車といってもパレードなどに使うような巨大なやつだ。
これで王都の外門まで行き、そこからは移動用の馬車に乗り換えるということだった。
うわああああああっ……。
見送りに来ている住民たちから歓声が上がった。
「すごいな」
生まれてこの方、ここまで大勢の人から注目されるのも、歓声を浴びるのも初めてだ。
「ふふ、手を振ったら?」
葉月が俺の隣に来た。
「あ、そっか」
俺も言われて手を振ると、歓声がいっそう大きくなった。
まるでスターだ。
「君は最強の勇者だからね。民衆の一番人気よ」
葉月が微笑んだ。
「ちょっと嫉妬しちゃう」
「俺が一番人気?」
「知ってる? あたしたち勇者の中で『誰が一番強いか?』みたいな序列付けが民衆にとっては娯楽になってること」
「えっ、そうなのか……?」
「そうよ。演習の結果とか討伐の成果とか、他にもあたしたちの日ごろの言動とか……そういうのが噂になって、尾ひれがついて民衆に伝わっていくの。で、それを元にランク付けしてるんだって」
「知らなかった……」
俺はキョトンとしてしまった。
「あたしも最近知ったんだけどね。最近までは、あたしが一番人気で、それに次ぐのがランと剣咲だったらしいんだけど、直近では君が一番人気」
葉月が俺を見つめる。
「何せ剣咲にもランにも完勝してるからね。あたしも直接戦闘なら、君にはとても敵わない」
と、お手上げポーズを取る葉月。
「別に俺と葉月が戦う理由なんてないだろ」
「そうね。できれば、敵味方じゃなく仲良くしてほしいな。これからも、ね?」
言いながら、葉月が俺に体を寄せてきた。
ついでに顔も寄せてきた。
「っ……!」
キスされる――。
そう誤解するほどの顔の近さだ。
「ねえ、時雨くん」
ふうっと甘い息が吹きかかる。
「あたしね、君となら――」
「時雨くん!」
声が、聞こえた。
反射的に葉月から体を離し、振り向く。
大通りの群衆にまぎれて那由香が立っていた。
「がんばって……!」
彼女は必死な様子で俺を見つめている。
今回、彼女はメンバーに入っていない。
予知能力があるとはいえ、直接戦闘能力はないため、メンバーから外したのだ。
「私は……応援しかできないけど……」
「――ありがとう」
俺は微笑みを返した。
これだけ民衆がごった返し、歓声が響いているのに、なぜか彼女のか細い声ははっきりと聞こえた。
「必ず、戻ってくるよ」
俺はそう誓った。
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