1 魔王軍を迎撃する
魔王軍の部隊は王国の東方面から王都に向かって進軍している。
その数はおよそ500。
内訳は下級魔族がほとんどで、中級魔族がおよそ10体ということだ。
――以上、斥候から報告を受け、俺はクラスメイトを全員ラウンジに集めていた。
といっても、全員が参加しているわけじゃない。
ちょっと前までカースト最下位で馬鹿にされまくっていた俺の言うことなんて、最初から無視する者が半数ほど。
残りの半数は、最近の俺の実績――魔族討伐や演習戦――を知り、俺への見識をあらためた者たちだ。
「ねえ、中級魔族10体って勝ち目あるの、ぶっちゃけ」
ひょこっと手を挙げて質問したのは、月白葉月だった。
クラス内で……というか、たぶん学園内でもトップクラスの美少女だ。
背中まで伸ばした栗色の髪をひるがえし、つかつかと歩いてくる。
普段は明るい笑顔に、今は険しい表情が浮かんでいた。
「確か前の討伐では田中と鈴木が殺されてるよね?」
「ああ。以前に戦ったブラッドクロウは強敵だった」
うなずく俺。
「ただ、王様の話によれば、中級魔族自体にも強さの差があるらしい。ブラッドクロウは中級の中でも強い方だ」
「それにしたって、10体でしょ? 勝ち目ないなら、あたしは行きたくない」
と、葉月。
「死にたくはないからね~」
「死にたくないのは、みんな同じだ」
俺は彼女を見つめた。
「ただ、魔王軍を――いや、魔王を倒さなければ、俺たちは元の世界に帰れない。実戦を積み重ねて、強くなっていくしかないんだ」
「実戦を重ねて強くなる――っていうのは、生還することが大前提でしょ」
葉月は俺を真っ向から見つめ返した。
「だから今回の戦いは様子見だ」
「えっ?」
「まず『中級魔族10体』がどの程度の力を持っているのかを知りたい。勝てるようなら、その場で倒す。無理なら逃げて、作戦を立てる」
俺はみんなを見回した。
「……じゃあ、最初からそう言ってよ。なんか、あたしばっかりビビってるみたいじゃない」
「ごめん、上手く説明できなくて……こうやって大勢の前で説明するのは慣れてないんだ」
俺は葉月に謝った。
「あと、ビビってるのは俺も同じだ。正直、怖いよ」
「ふふっ」
葉月が笑った。
俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
美少女の葉月にそういうことをされると、さすがにドキッとする。
豊かな胸がギュウッと押し付けられているので、余計にドキドキした。
……って、今はそんなことを意識している場合じゃないな。
「お互い頑張ろうね」
「全員で戦おう。全員で生き残ろう」
俺は葉月を、そしてみんなをあらためて見つめた。
「実際、いきなり全滅とかはごめんだからな」
発言したのは、以前に模擬戦で戦ったことがある岸博信。
生真面目そうな顔をした小太りの男子生徒で、クラス委員もやっている優等生だった。
「全滅なんて俺がさせない」
岸を見つめる俺。
「俺は以前よりもずっと強くなった。だから、中級魔族が複数相手でも戦えると思っている」
それと――これはみんなには説明していないが。
俺は倒した相手をアンデッドにした上で、しもべにできる。
もし今回、首尾よく中級魔族10体を倒して、しもべにできたら――。
俺の戦力は格段にアップするはずだ。
今回、もっとも重要なポイントはそこだった。
勝って、俺の軍団を増強する。
そして、増強した軍団でさらに魔族の部隊を倒し、また軍団を増強し――。
そうやって、最後には必ず魔王を倒してみせる。
その後、俺は参加メンバーを選出した。
まずは俺と葉月、そして以前の模擬戦で実力を把握している岸、金子雄二ことユージ、宮尾千佳、進藤萌、瀬良セイラだ。
戦力的なことを言うとランにも参加してほしいけど――。
今は、無理だろうな。
「出立は三日後だ。参加メンバーは英気を養ってほしい。それから参加しないメンバーも心の準備はしておいて。戦争だし、何が起こるか分からない」
そう、戦争だ。
平和な日本から来た俺たちは、誰一人経験していない戦争――。
戦況がどうなるかなんて誰にも分からない。
戦場で、どんな予想外のことが起きるかも分からない。
もうこれからは気を抜ける時間なんて、二度と来ないかもしれない――。
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