4 ミラージュ、復活
「どうして、ミラージュが……!?」
「分からない……力を失った私は異空間をさ迷っていたが、突然膨大な力が流れこんできた……」
ミラージュ自身も呆然とした様子だ。
「君が私に力を送り込んでくれたのではないのか、マスター?」
「俺は何もしてない……いや」
もしかして、聖剣の力がミラージュに流れ込んだ、という可能性はないだろうか?
「少しだけ思い出した……」
ミラージュがハッとした様子でつぶやく。
「あの剣に覚えがある……」
「えっ、聖剣のことか?」
「おそらく、この鎧の持ち主――かつての勇者が聖剣と縁があったのだろう」
「まだしもべを呼び出せたのか」
剣咲が俺をにらんだ。
「けど、数だけいたって同じことだ!」
振り下ろされた聖剣を、俺はバックステップで避けた。
ごうっ!
吹き荒れる衝撃波で大きく吹き飛ばされる俺。
「大丈夫か、マスター」
一方のミラージュは衝撃波を華麗に避けたらしく、空中からひらりと降り立った。
「私は、新たなスキルを得たようだ」
と、ミラージュ。
「新たなスキル……?」
「正確には『思い出した』のだ。かつて私が――いや、私の『オリジナル』が使っていた技を」
ミラージュが俺を見つめる。
「勇者の、技を」
「……!」
こいつは元々、勇者が着ていた鎧がアンデッド化した存在――一種のリビングメイルだ。
リビングメイルは、鎧の持ち主の記憶や性格などの影響を色濃く受けるという。
なら、こいつのパーソナリティには元の勇者のものが投影されているのだろう。
そして、その勇者が使っていたスキルも――。
「私がスキルを得たということは、君も同じようにスキルを使えるようになっているだろう」
「なら、やるか……俺たちで」
俺はミラージュとうなずき合った。
剣咲に目を配りつつ、自分のステータスを確認する。
***
名前:時雨
筋力:113
速度:138
耐久:91
魔力:272
追加スキル
【斬撃】【シールド】
【マッピング・初級】
【フライングソード】
【ファイアバスター】
【回復】【伸腕】
【バーストスラッシュ】
***
「【バーストスラッシュ】……?」
「その名の通り破壊の剣技だ」
ミラージュが答えた。
「威力は【斬撃】のおよそ3倍」
「おお、そいつはすごいな」
「ただし発動速度が遅いから、そこに隙が生じる」
「スキルを撃つ前に、剣咲の攻撃を受けるかもしれないな……」
「それを防ぐために、私がオトリになる。その間にマスターは【バーストスラッシュ】を全力で撃ってくれ」
ミラージュが言った。
「いや、それじゃお前が聖剣の攻撃にさらされる。最悪、こうしてせっかく復活できたのに、今度こそ完全消滅させられるかもしれないぞ?」
「百も承知だ。だが君のために身も心も捧げるのがしもべという存在だ」
「だからって――俺はお前を犠牲にしたくない」
俺は首を左右に振った。
「ならば、俺が前に出よう」
「死神……?」
「これでも魔族だからな。奴を幻惑するくらいはできる」
死神が言った。
「その間にマスターと、そっちのお前――ミラージュの二人がかりでスキルを撃てばいい」
「……やれるのか?」
「当然だ。命令してくれ、マスター」
死神が俺を見つめた。
「……死ぬなよ」
「善処しよう」
言って、死神はスーッと空中を滑るように移動しながら剣咲に近づいていった。
「ちっ、この化け物が!」
剣咲が聖剣を振るう。
死神はひらりひらりと舞いながら、それを巧みに避ける。
「おおおおおおっ!」
が、剣咲の嵐のような連撃をいつまでも避けられるはずもない。
ざしゅぅっ!
ついに一撃を浴び、大きく後退する。
「うぐぐ……」
切り裂かれたローブはボロボロに風化し、胸元の傷からサラサラと黒い粒子が流れていく。
あれは――たぶん死神の体の構成物質だろう。
聖剣で斬られるほどに、あいつの『存在』そのものが消えていく……?
まずいぞ――
「行くぞ、ミラージュ」
俺は腹をくくった。
剣咲に明確な隙は見当たらない。
けれど、死神を見殺しにするわけにはいかない。
死神を捨て石にして剣咲の隙を作る、というやり方もあるかもしれないが、俺にはそんな方法は選べなかった。
「了解だ、マスター」
ミラージュがうなずいた。
「それでこそ時雨だ」
「……ははっ」
ミラージュの言葉に、なぜか笑みがもれた。
さあ、やるぞ――。
「【バーストスラッシュ】!」
俺とミラージュが同時にスキルを発動する。
【バーストスラッシュ】――破壊の剣技。
そのスキル効果は、通常の300パーセントの威力を持つ【斬撃】を放ち、同時に強烈な衝撃波を発生させる。
「く、おおおおおおっ……!?」
俺とミラージュのスキルを同時に受け、斬撃と衝撃波の二重攻撃――いや四重攻撃に、剣咲は大きく吹き飛ばされた。
からからから……。
剣咲の手から聖剣が離れ、回転しながら床を滑っていく。
「おおおっ……!」
俺は床に向かって跳び、聖剣をつかんだ。
「こいつは回収させてもらう」
俺は聖剣を手に、剣咲に言った。
剣さえ取り上げれば、俺の方が戦闘能力自体は上だ。
「ぐっ……ううううううう……」
そのとき、剣咲が体を押さえて、もがき始めた。
「剣咲……?」
「うあああああっ、い、痛い……痛いぃぃぃぃぃっ……!」
片手を頭にやってうめいている。
強烈な頭痛に襲われているようだが――?
「ああああああああああああっ……!」
絶叫とともに立ち上がった剣咲は、どこか雰囲気が違っていた。
「ふーっ、ふーっ……」
荒い息を吐き出す。
「剣咲……?」