2 遺跡の奥で
「時雨はここにいるのか……」
彼はゆっくりと遺跡に足を踏み入れた。
目が血走っている。
彼に打ちのめされた記憶は、今も鮮明に残っていた。
だが、城内で彼に襲い掛かっても、周囲の人間が止めに入るだろう。
それに――忌々しいが一対一でも勝てるかどうか。
時雨は本当に強くなっている。
しかも、さらなる力を求めて、この遺跡を探索するようだ。
「そうはいくか……お前は俺が倒す……!」
かつ、かつ、かつ……。
足音を響かせ、彼は進んでいく。
復讐心を燃やしながら――。
※
スケルトン数十体をしもべにした後、俺は自分のステータスを確認した。
***
名前:時雨
筋力:93→113
速度:107→138
耐久:80→91
魔力:255→272
追加スキル
【斬撃】【シールド】
【マッピング・初級】
【フライングソード】
【ファイアバスター】
【回復】【伸腕】
***
「スキルは増えてないか……まあステータスが全体的に底上げされたし十分だな」
と、そのときだった。
るおおお……ん。
遺跡の奥から不気味な声が響いた。
「まだモンスターがいるのか」
ちょうどいい。
そいつも倒して、しもべにしてしまおう。
俺は死神やソードマン、レッドメイジ、さらに今しもべにしたばかりのスケルトン軍団を従え、先へ進んだ。
しばらく進むと、大きな部屋が見えてくる。
巨大なホールだ。
「あれは――」
中央に祭壇があり、そこに光輝く剣が突き刺さっていた。
「なんだ、あの剣――」
初めて見る剣なのに、なぜか懐かしさを感じる……。
「まさか、勇者の剣……!」
死神が言った。
「えっ」
「その名の通り、勇者が神から授かる神造兵器だ」
説明する死神。
「神造武器……?」
「推測だが、何かを封印しているのかもしれない。たとえば強大なモンスターとか――」
と、死神。
「ああ、そういうのアニメや漫画であるあるだよな」
俺は妙に納得してしまった。
「勇者の剣、か。おもしれーじゃねえか」
突然、背後で声が響く。
まさか、この声は――。
「剣咲!?」
ランとの戦いで重傷を負った剣咲が、なぜここに……?
見れば、切断された両腕は、応急の治癒術師に治してもらったのか、元通りのようだ。
「もらうぜ、そいつを――【獣化】!」
言うなり、ランはサイの獣人に変身した。
そして、俺が止める間もなく台座に突進する。
「俺は異世界から召喚された勇者だ。なら、この剣を取る資格があるよなぁ」
「お、おい、剣咲! その剣を抜くんじゃない!」
俺は慌てて叫んだ。
「もしかしたら強力なモンスターが封印されているかもしれないんだ」
「はっ、知るか。それよりも――剣道部の俺がこの剣を手にしたら、今よりもっと強くなれると思わねーか?」
ニヤリと笑って、剣咲は聖剣の柄に手をかけた。
「ふんっ!」
剣咲は聖剣を抜いた。
ずるりっ、という感じで、聖剣は簡単に抜けてしまう。
「おお、こいつは……!」
剣咲が全身を震わせた。
「『力』だ! はははは、この剣から『力』が伝わってくる!」
奴が持つ剣は虹色の光を放っていた。
その光に触れた祭壇がぐにゃりと歪み、吹き飛ぶ。
「……!」
聖剣の光に触れたら、人間の体も同じように破壊されるんだろうか?
ゾッとなる。
「へへへ、こいつはいい……」
剣咲が舌なめずりをしながら俺の方を見た。
「さあ、殺してやるぞ、時雨!」
「剣咲――」
俺は慄然とした。
奴は何かにとりつかれたような雰囲気がある。
聖剣のせいなのか?
それとも――奴の本質がそのまま出ているだけなのか。
そして復讐心が。
「死神、ソードマン、レッドメイジ」
俺はしもべたちに呼びかけた。
「あいつを無力化したい。可能な限り殺さずに。だけど――」
唇をかみしめる。
「やむを得ない場合は……殺せ」
言ったとたん、胃液がこみ上げてきて吐きそうになった。
緊張感。
恐怖感。
そして自分が『殺せ』なんて言葉を使ってしまった嫌悪感。
おぞましい――。
自分自身が忌むべき存在に思えてしまう。
けれど、殺さなきゃ殺される……そんな状況であることも確かだ。