1 古代遺跡で、俺は新たな力を求める
一時間後、俺は王都の外れにある古代遺跡にいた。
ここはアンデッド系のモンスターの巣窟らしい。
さっき魔導書を呼んで得た知識――死霊術の習熟度の上げ方について、さっそく実践するつもりだった。
「死神、ここはアンデッドだらけみたいだ。俺も戦うけど、護衛をよろしく頼む」
「アンデッドを倒せばいいのか?」
「最終的にしもべにするから、無力化するだけでいい。あ、でも倒したところで、俺のスキルでそいつはアンデッド化するはずだから、どっちもでいいか……」
俺は考え直した。
「ならば、マスターに危険が及ばないよう、状況に応じて討伐と無力化を使い分けよう」
「頼む」
死神の返事から漂う『有能感』。
こいつは頼りになりそうだった。
正直、ミラージュを呼び出せなくなって心細かったけど、死神はその代役を十分に果たしてくれそうだった。
「ソードマン、レッドメイジ、お前たちも頼むぞ」
ソードマンは死神によって一度倒されているが、すでに再召喚が可能になっている。
ヴンッ。
二体は両眼を輝かせ、うなずいた。
「よし、行こう」
俺たちは遺跡の中を進んだ。
しばらく進むと、すぐにアンデッドモンスターが現れる。
簡易鎧をつけた骸骨兵士――スケルトンだ。
数は全部で二十体ほど。
「まず死神からだ」
と、命令する。
こいつが単独でどの程度戦えるのかを確認しておきたいからな。
「ソードマンとレッドメイジはいったん待機」
「承知」
ふわりっ。
死神は宙に浮かび上がり、空中を滑るように移動した。
ここに来るまでの道中、死神の基本スペックなどは一通り説明を受けている。
こいつの正体は改造魔族だ。
数百年前、当時の勇者が中級魔族を打ち倒し、その死体を改造したのだという。
魔族だけあって魔力は豊富にあり、俺のしもべの中では完全に頭一つ抜けた魔力量を誇る。
その豊富な魔力を活かし、【飛行】【呪縛】【回復】の三種類の魔術を操る……ということだった。
また生前の魔族としての特殊スキルもいくつか引き継いで使える……と、かなりのハイスペックだ。
「【斬撃】」
死神はスキルを発動した。
俺やミラージュと同じスキルだが、こいつの場合は剣ではなく鎌を使う。
ざしゅっ!
振り下ろした大鎌がスケルトンを三体まとめて両断した。
さらに、二度目、三度目の【斬撃】で、合計十体のスケルトンを屠る。
「強い――」
さすがだった。
まったく、頼もしいしもべだ。
グギギ……。
背後でソードマンとレッドメイジがうなった。
「……ん? もしかして、お前たちも活躍したいって言ってるのか?」
こいつらは話すことはできないけど、独自の意志は持っている。
その意志が生前の田中や鈴木に由来するものなのか、まったく別種のものなのかは分からないけれど――。
「じゃあ、二人とも死神を援護だ。やれ」
ヴンッ!
二体は目を光らせると、それぞれ剣や炎を放った。
ざんっ!
どごぉっ!
ソードマンの魔力剣がスケルトンを両断し、レッドメイジの火炎弾が別のスケルトンを爆散させる。
その間も、突き進んだ死神が次々とスケルトンを狩っていく。
「さすがに、すごいな……」
スケルトン程度じゃ相手にもならない。
圧勝ペースだ。
と、
「うわ、こっちに来た――」
三体の攻撃をかいくぐったスケルトンが一体、俺の方に向かってくる。
誰かに迎撃させるか、それとも――。
一瞬迷った後、俺は剣を振りかぶった。
俺も少しは戦って、実戦の勘を磨いておかないとな。
「【伸腕】!」
振り下ろした腕が大きく伸び、通常の剣の間合いよりもはるかに先にいるスケルトンにまで届く。
そう、死神をしもべにしたことで新たに会得したスキルだ。
「【斬撃】!」
さらに追加で剣技スキルを発動し、スケルトンを三体ほど撃破する。
ミラージュは失ったものの、俺のステータスが減ったり、彼に由来するスキルが使えなくなったりすることはなかった。
一度アンデッドをしもべにして得たステータスとスキルは、そのしもべを失っても、ステータスやスキルがなくなることはないようだ。
……まあミラージュの場合は完全消滅したわけじゃなく、あくまでも『力を失った』状態になったことによる一時離脱だが。
その後、ほどなくして――三体のしもべの活躍でスケルトン軍団は全滅した。
「よし、こいつらをまとめてしもべにしよう」