8 ラン、絶望の処遇(クラスメイト視点)
「っ……!」
ランが目を覚ますと狭い石造りの部屋の中にいた。
前方と後方の窓にはそれぞれ鉄格子がはめられている。
「まさか、ここは――」
石牢。
そうとしか思えない。
「俺が……投獄されてる、ってのか……!? この俺が――」
ランはカッとなった。
彼をはじめとする『異世界の勇者』は、この国の王から『いかなる罪を犯しても決して投獄されない特権』というものを付与されている。
彼らの使命である魔王討伐は、あらゆるものに優先される事項だからだ。
その自分が、投獄されている――?
「くそっ、舐めてんじゃねーぞ! こっから出せ!」
怒声を上げる。
と――、
かつ、かつ、かつ……。
足音がして一人の男がやって来た。
穏やかな表情の中年男で豪奢なローブをまとっている。
「てめぇ……王か!」
「君が【闇】の勇者だったか、藤堂蘭」
いつも柔和な笑みを浮かべている王の顔には、珍しく険しい表情が浮かんでいた。
「闇の勇者……? なんだそれは?」
「それは君自身がよく知っていることだろう? 君が眠っている間に、君の髪や唾液などを採取してある。あとは魔道研究者たちが解き明かすだろう。君の、【闇】の勇者としての力を……」
「だから、なんの話だって」
「とぼけても無駄だ、世界の敵め」
王の表情がますます険しくなる。
「君から『勇者特権』を剥奪し、こうして投獄することにした」
「ああ?」
「君は、もはや世界を救う勇者ではないからな。特権による保護には値しない」
「てめぇ、さっきから何言って――」
ランには何の話か分からなかった。
「ラン君、君には期待していたのだがね。我が陣営の最強の勇者として――【光】を操り、魔王を討つ存在として」
「てめぇの期待なんて知るかよ。ただ俺が最強であることは否定しない」
「いや、君はすでに最強ではあるまい。彼に敗れたではないか」
「っ……!」
時雨のことを言っているのだろう。
「ふ、ふざけるな! あんなもん、ただのマグレだ!」
ランは怒声を上げた。
落ちこぼれの時雨などに自分が敗れるなど、偶然やマグレであろうと決して許容できない事実だった。
まして、それを他者から指摘されるのは屈辱でしかない。
「くそがぁぁぁぁっ! 【処刑】!」
ランは怒りに任せてスキルを放った。
ランのスキルは『対象の空間をえぐり取る』という極めて強力なものだ。
効果範囲は狭いものの、防御方法は存在しない。
人間が食らえば、そいつは確実に死ぬ――。
相手が王であろうと関係ない。
仮に王を殺害したとして、その後に自分がどんな処遇を受けるか――などという冷静な考えは完全に吹き飛んでいた。
理性が、完全に吹き飛んでいた。
だが――、
ばしゅんっ。
何かがはじけ散るような音が響く。
そして、
「何……!?」
スキルの直撃を受けたはずが、なぜか王は平然と立っていた。
「無駄だよ。この牢には勇者のスキルに対抗する処置が何重にも施してある」
王が微笑む。
「いくら君のスキルが強力でも、ここでは無力だ」
「ぐっ……!」
ランはもう一度スキルを放つが、結果は同じだった。
王には傷一つ与えられない。
「そして、君がやったことは王への反逆――ひいては、この国自体に弓を引いたということだ。それがどれだけの重罪か、分かるかね? 異世界から来た君にはピンと来ない話かね?」
「あ?」
「処刑――だよ。皮肉にも君が使うスキルと同じ名前だね。君はこれから王への反逆の罪で処刑される。まあ、簡単な裁判は行うことになるが、あくまでも形式的なものだ。君の処刑はすでに決定している」
「処刑だと? 俺がいなきゃ魔王には勝てないぜ?」
「君に勝った時雨くんがいる。問題はない」
王はそう言って微笑む。
「くっ……!」
ランは唇をかみしめた。
「俺の方が上だ! 時雨なんかより!」
「見苦しいぞ。先刻の模擬戦で、すでに勝敗は決しただろう」
「だから、それは――」
「どのみち、君はこの牢では無力だ。勇者として召喚され、異能のスキルを得て、自分が『選ばれた存在』『人間を超えた存在』になれたと勘違いしていないか?」
王の視線は冷ややかだった。
今まで、彼のことを優しく穏やかな男だと思っていたが、その内面はまったく違う――。
(こいつ、俺のことを――いや俺たちのことを駒みたいにしか思ってねぇ……)
不要な駒は廃棄する。
そう言わんばかりの視線だった。
「君はただの学生だよ。スキルを封じてしまえば無力なものだ」
「て……めぇ……」
「とにかく、先ほども伝えた通り、君の処刑は決定している。いずれ君は断頭台に連れていかれるだろう。それが数日後か、数週間後になるかは分からないが……それまで、君が気まぐれに殺したこの世界の人間たちに懺悔でもしているがいい」
言って、王は背を向けた。
「では、さらばだ。【闇】の勇者。王への反逆罪はこれで成立した――」
その背中を、ランは呆然と見つめていた。
あまりに急展開すぎて理解がついていかない。
理解できるのは――自分に処刑の危機が迫っている、という絶望感だけだった。
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