4 死神の正体
黒いモヤはやがて人の形へと変化した。
赤い眼が俺たちを見据えている。
頭部からは角が、背からは翼が、腰からは尾が生え、まるで――。
「魔族……?」
そう、そいつの雰囲気はまさに魔族だった。
「改造魔族……!?」
ミラージュがうめいた。
「えっ」
「今より数百年前、魔王軍が使役した忌まわしい生体兵器だ」
ミラージュが言った。
「私も断片的な記憶しか有していないが……改造魔族は世界中で猛威を振るったから覚えている……多くの犠牲が出た」
「へえ、こいつは改造魔族っていうのか?」
ランが興味深げにたずねた。
「俺もこいつの正体はよく知らないんだよ。そもそも死神を出せるようになったのもごく最近だからな」
「勇者のしもべが魔族……か」
俺はつぶやいた。
「なんでもいいさ。こいつは――俺に歯向かう奴を蹴散らす力だ」
ランがニヤニヤと笑う。
「死神の正体は知らなかったが、こいつがこの姿になったときの戦闘能力はお試し済みだ」
ぐおおおおおん。
死神――いや改造魔族が不気味な咆哮を上げた。
「もうやめろ、ラン」
俺はランと改造魔族を等分に見つめた。
「こんなことをして、なんになるんだよ」
「意味なんてねーよ。俺はただ暴れたいから暴れてる。剣咲との戦いでまだ心が高ぶってるからな。そいつを鎮めたいのさ。それに――」
ランが俺を見つめた。
「時雨、お前――雑魚かと思っていたが、なかなかやるな。そういう奴に俺という存在を刻みたいのさ」
「存在を、刻む……?」
「俺を無視できないように、な」
「無視なんてしたら、問答無用で襲ってくるだろ、お前は」
俺はランをにらんだ。
「はは、上等だ! 俺はお前にとって無視できない存在ってわけだな!」
ランはなぜか嬉しそうだった。
「いいね! なら、もっと俺を――お前の中に刻んでやる! やれ死神!」
改造魔族という正体を知っても、ランはそいつをあくまでも死神と呼ぶらしい。
ぐおおおおんっ。
改造魔族がもう一度咆哮し、俺たちに近づいてきた。
ぶんっ、と右腕を振ると、その腕が大きく伸びてきた。
これは――あの中級魔族ブラッドクロウと同じ種類の攻撃!
「っ……!」
俺はとっさに横に跳んだ。
おそらく【シールド】を張っても貫かれるだろう。
ミラージュも同じ判断だったらしく、俺とは反対方向に跳んでいる。
そして――、
ざしゅっ!
伸びていった腕が、その先端の爪が一番後方にいたレッドメイジを貫いた。
胴体に大穴を開けられたレッドメイジはそのまま消滅してしまう。
「残るしもべは一体だけだな」
ランが愉快そうに話しかけてきた。
「そっちだって一体だけだろ、しもべは」
俺は軽口を返す。
「へえ? まだそんな口を利けるのか。いい度胸じゃねーの」
ランは感心したような顔になった。
「お前はもっと臆病者だと思ってたよ、時雨。いざとなれば腹が据わるタイプだったんだな」
「さあな……たぶん臆病者っていうのは合ってる」
俺は剣を構えなおした。
「だけど、俺は退かない。お前を止めてやる」
「それだけの口を利けるなら、お前は臆病者じゃねーよ」
ランが言った。
「気に入ったぜ、時雨! さあ最後の攻撃だ、死神!」
改造魔族が突進してきた。
奴の言う通り、おそらくこれが最後の攻防だ。
どうする――。
必死で頭を働かせる。
まず、改造魔族の攻撃を防ぐことは不可能だろう。
避けたとしても、いずれはやられる。
つまり――カウンターで【斬撃】を叩きこむ。
リスクは高いけど、上手くいけば奴に大きなダメージを与えられる――この戦法が唯一の正解、そして最適解だ。
「……来い」
俺は覚悟を決めて、奴を待ち受けた。
ミラージュが少し離れ、同じように待ち受ける。
奴はどっちを狙ってくる。
俺か、ミラージュか。
あるいは両腕を使って、同時に攻撃してくるのか。
どごっ!
と、改造魔族は腕を地面にたたきつけた。
「えっ!?」
一瞬、奴の狙いが分からず、動きが止まってしまう俺。
ぼこぉっ!
次の瞬間、背後から奴の腕が現れた。
しまった、地中を潜らせて俺の背後まで一気に掘り進んだのか!
「まずい――」
俺が完全に振り返って迎撃態勢を整えるより、奴の攻撃の方が速い。
奴の爪が俺の背中に迫る。
駄目だ、防げない――。
「マスター!」
ミラージュが剣を手に突っこんできた。
「【幻影の剣舞】――」
ヴンッ……。
剣の先端部がブレ、ゆっくりと消えていく。
「えっ……?」
なんだ、このスキルは。
俺も初めて見る――。
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