9 王と騎士たち
「見事な働きだった、時雨くん」
俺は那由香と別れ、王様と謁見していた。
中級魔族討伐の褒賞をもらえるということで、俺一人が王様に呼ばれたのだ。
「して、中級魔族の強さはどうであった? 勇者が二人亡くなったとか」
「……はい。今までの下級魔族とはまったくレベルが違いました」
俺は王様に答える。
「勇者とはいえ、現状では大半の者が太刀打ちできないかと」
そう、田中も鈴木もクラスの中では強い方なんだ。
それでも中級魔族には歯が立たずに惨殺された。
「ふむ……」
王様がうなる。
「あの、確認なんですけど……上級魔族は、中級よりもさらに強いんですよね」
「もちろんだ。そして上級の上には数人の将軍がおり、さらに魔王軍最強の存在……魔王が頂点に座している」
俺は中級のブラッドクロウに勝ったけど、今後上級や将軍クラス、そして魔王なんかに勝てるんだろうか?
はっきり言って、とても無理だと思う。
可能性があるとすれば――強いしもべをそろえることだろう。
「無論、こちらも手をこまねいて現状を座視しているわけではない。君たち勇者を召喚した以外にも、対魔王軍の策は練っている」
王様が言った。
「ともにこの世界のために戦おう」
「……はい」
どちらにせよ、やるしかない。
魔王を討たない限り、俺たちは元の世界に戻してもらえない。
それに――。
魔王軍に襲われるこの世界の人たちを守りたい気持ちもあった。
俺には、その力があるんだから。
勇者の一人なんだから、な。
――と、そこで俺はブラッドクロウから言われた言葉を思い出した。
『まさか、お前は【光】ではなく【闇】の勇者……!?』
『お前のスキルがその証拠だ。【闇】より生まれたそのスキル――人間どものために使う理由などないだろう』
「あの、一つ聞いてもよろしいですか?」
「申してみよ」
「王様は……【闇】の勇者という言葉をご存じでしょうか?」
「ん? 初めて聞く言葉だ」
と、王様。
「君はどこかでそんな言葉を耳にしたのかね?」
「実は――中級魔族が戦いの最中にそんなことを口走っていたので、少し気になって」
「その魔族は具体的になんと?」
「いえ、ただ断片的に口走っただけなので、どういう意味かはまったく分からず……」
俺は会話の詳細を伝えなかった。
何せ奴は俺を魔王軍に勧誘したからな。
その内容を丸ごと伝えたら、俺が王様からあらぬ疑いをかけられる可能性がある。
とはいえ『【闇】の勇者』という言葉自体は気になる。
俺自身にかかわる言葉かもしれない。
だから、情報は得ておきたかった。
「なるほど……私の方で文献にあたってみよう」
王様が言った。
「【闇】がいるなら、おそらく【光】の勇者もいるのだろう……それらが我らに益する存在なのか、それとも――」
そこで言葉を切る。
王様が――俺をまっすぐに見ていた。
その視線に宿る強烈な威圧感に、思わず息を飲む。
「何か分かりましたら、俺にも教えてください」
「うむ。君には真っ先に知らせよう」
王様の視線に宿る威圧感がふっと消えた。
いつも通りの穏やかな笑顔。
「君には特に期待している。今後も我らを守ってほしい――」
謁見を終え、俺は城内の廊下を歩いていた。
「勇者様!」
数人の女騎士が駆け寄ってきた。
彼女たちとは顔見知りだ。
勇者と騎士団や魔法師団の合同演習のとき、彼女たちと一緒に組んだことがある。
女性だけで構成された部隊で、しかも美少女ぞろいだったから印象に残っていたのだ。
「中級魔族を退治されたと聞きました」
「中級以上の魔族を討ったのは、二十年ぶりだそうです」
「さすがです、勇者様」
女騎士たちが口々に言いながら俺を取り囲んだ。
「ど、どうも……」
これだけの美少女たちに囲まれると、完全に気圧されてしまう。
下手するとモンスターや魔族と戦っているときより、こういうときの方が緊張するな……。
「近隣の住民も最小限の被害で済みましたし、本当に感謝しかありません」
それでも――被害はゼロじゃない。
そのことに心が痛むものの、被害が広がらなかったことは素直に誇ろう。
「これからもがんばります」
俺は当たり障りのない返事をした。
こんなふうに複数の女性から囲まれて賞賛されるなんて初めてだ。
ちょっとくすぐったいような、照れくさいような、そして誇らしいような――そんな高揚感があった。
「も、申し訳ありません、突然話かけてしまって……」
「勇者様、お忙しいですよね?」
「いや、今は任務中じゃないので……忙しくはないです」
俺は慌てて言った。
なんだか気を遣わせてしまったみたいだ。
「……なんだか、勇者様って、他の勇者様と少し違いますね」
「えっ、そうですか?」
「はい。偉ぶるところがまったくなくて、謙虚で――」
……まあ、剣咲たちは少なからず横暴な真似をしているらしい、と噂で聞いていた。
「二日後には合同演習がありますね。また時雨様とご一緒したいです、あたし」
「あ、私も!」
「あたしもです!」
彼女たちは全員微笑み、俺に寄り添ってくる。
これって――もしかして、モテ期……!?
いや、まさかな。
俺は勇者っていう立場だし、その立場で補正がかかってるだけなんだろう。
勘違いなんてしない……しないからな。
そう思いつつ、頬が緩んでしまうのも事実だった。
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