6 剣咲、屈辱を受ける1(クラスメイト視点)
SIDE 剣咲
時雨のスキルは【ネクロマンサー】といい、アンデッドモンスターを自らのしもべにすることができる。
しもべにできる対象は、どうやらごく弱い最下級のアンデッドだけらしい。
つまりは雑魚モンスターを使役するだけの雑魚スキルだ――。
剣咲は時雨のスキルをそう評していた。
(なのに、なんだよ、こいつら……!?)
今、目の前で時雨が使役しているアンデッドモンスターは全部で三体。
騎士の姿をしたのが二体と魔術師の姿をしたのが一体だ。
そのうち、『銀の騎士』は【獣化】した剣咲の運動能力を上回り、こちらに一撃を加えてきた。
その一撃によって受けたダメージは、彼の【獣化】の産物……【超速回復&再生能力】によってすぐに回復したものの、間髪入れずに今度は『青の騎士』と『赤の魔術師』が遠距離系の攻撃を撃ってきた。
魔力でできた剣が数十本、さらに火炎の塊がいくつも撃ち出される。
数が多すぎて避けることも防ぐことも無理だった。
「ぐあああああああああああああっ……!」
剣で斬られ、炎で焼かれ、それらのダメージが超速で回復しきる前に、さらに斬られて焼かれる。
「く、くっそぉぉぉぉぉぉ……!」
剣咲はうめいた。
「――強力なしもべが三体になると、思った以上に戦術に幅ができそうだな」
こちらを見ながら、時雨は淡々とつぶやいていた。
彼は剣咲と『戦い』をしているのではない。
まるで自分の『能力テスト』でもしているかのようだ。
「余裕かましやがって……ぇ」
それが気に食わなかった。
殺す――。
殺意がさらに高まる。
ここが現代日本であったなら、どれだけ相手に対して怒りや憎しみを抱いても、具体的な殺意にまでは昇華しない。
そんなことをすれば殺人罪で逮捕されるからだ。
だが、この異世界では事情が異なる。
『勇者』である彼らには、いくつもの特権が付与されていた。
そのうちの一つは『決して投獄されない』というものだ。
異世界人にとって、彼らは世界を救うための切り札である。
ちょっとやそっとの無法で処罰するより、まずは世界を救うために活動してほしい――。
王自らがそう公言していた。
まあ、相手も同じ『勇者』なので、実際に殺してしまうと何らかの処罰を受ける可能性はあるが……それでも投獄されたり、死刑にされたりすることはないだろう。
異世界人にとって、勇者を一人でも失うことは、それだけ世界の命運が揺らぐ出来事なのだから。
「安心してお前を殺せるぜ、時雨……!」
ぼこっ、ぼこっ……!
剣咲の全身から筋肉が盛り上がった。
獣人の圧倒的な運動能力をさらに引き出し、限界突破の一撃を放つ――。
剣咲の切り札である。
これなら相手の攻撃をかいくぐり、時雨に直接的な打撃を与えられるだろう。
「おおおおおおっ!」
剣咲が吠えた。
その咆哮が衝撃波となって吹き荒れる。
――クラスメイトの大半は剣咲のスキルのことを単なる『衝撃波』だと思っているはずだ。
【獣化】による咆哮を『音圧の衝撃波』として撃ち出す――それがこの技の正体だった。
ただこの技は【獣化】せず人間形態のままでも使用可能だ。
【獣化】時より威力は落ちるものの――。
逆に言えば【獣化】時こそ、この技の真骨頂。
そして【獣化】のリミッターを限界まで外した今の状態なら、音圧衝撃波な最大の威力になる――。
「【シールド】!」
その瞬間、時雨が叫んだ。
ヴンッ!
彼の前面にエネルギーの盾が出現する。
さらに銀の騎士も同様の盾を生み出し、二重の盾が剣咲の音圧を弾き返した。
「なんだと!?」
アンデッドがスキルを使うことに驚きはないが、時雨も同様のスキルを使える――?
「お前、一体……?」
「終わりにするぞ、剣咲」
時雨が冷然と告げた。
「俺とこいつら――四体同時攻撃で」
ぞくり――。
その瞬間、剣咲は確かに恐怖感を覚えていた。
自分が今まで見下していた時雨を相手に。
それは彼にとって、あまりにも屈辱的な感情だった。
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