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2 幻影の騎士ミラージュ

 俺に従い、敵を討て――。


【ネクロマンサー】スキルを使った俺の命令に対し、


「承知した、マスター」


 ミラージュが剣を抜き、ダンジョンウルフの群れに正面から突っこんだ。


「お、おい――」


 いくらなんでも力押しすぎる。


 さすがに多勢に無勢だ。


 そう思った次の瞬間、


 しゃいん。


 鈴生りのような音とともに、ミラージュが剣を一閃する。

 同時に、ダンジョンウルフが一頭残らず倒れた。


 全員、首を斬り落とされている。


「命令通り、敵を討った」


 ミラージュが血染めの剣を手に、こちらに歩いてきた。


 一瞬で、しかもたった一振りであの数を倒すとは――。

 さっき感じた通り、こいつの強さは異常だった。


「追加の命令があれば聞こう」

「いや、助かった」


 俺は礼を言った。


「あらためて確認するけど、お前は俺に従う――俺の指示や命令を聞いてくれる、っていう解釈でいいのか?」

「左様」


 ミラージュがうなずいた。




「俺は……仲間たちに騙されて、この遺跡に置き去りにされたんだ」


 ミラージュに現状を簡単に説明する。


 あらためて言葉にすると苦い想いがこみ上げた。


 俺は、クラスメイトに裏切られたんだ。

 見限られ、見捨てられたんだ。


 怒りや悲しみもあったし、喪失感もあった。

 そして仲間として認めてもらえなかったという寂しさも。


「……そうか。苦労したのだな」


 ミラージュの声には同情の色があった。

 俺を思いやる気配があった。


 アンデッドモンスターではあるけれど……やけに人間味を感じさせる声音だった。


「どうかしたか、マスター? 怪訝な顔をしているが」

「いや、お前の物言いが……なんか人間みたいで」

「私は【動く鎧(リビングメイル)】と呼ばれるモンスターだ。本体はこの騎士鎧だが……そこには持ち主の想念が宿っている」


 と、ミラージュ。


「私の物言いが人間のようだというなら、持ち主の想念が影響しているのかもしれないな」

「持ち主の……」

「おそらく、勇者だったのだと思う。魔王と戦っていた記憶が、かすかにあるからな」

「俺も勇者なんだ」


 俺はミラージュに言った。


「お前の持ち主は、先代か、先々代か、あるいはもっと前の――勇者だったのかもしれないな」

「可能性は高い」

「じゃあ、大先輩だ。はは」


 思わず軽口を利いてしまった。


 ミラージュは笑わない。

 たぶん、そういう感情はないんだろう。


 けれど、少しだけ――雰囲気が柔らかくなった気がした。

 俺の言葉に合わせて、そういう雰囲気を出してくれている気がした。


 相手はアンデッドモンスターだけど……なんだか、人間を相手にするより細やかなコミュニケーションが取れている気がするぞ。


「俺はここから出たい」


 けれど、いつまでも和んでいるわけにはいかない。

 俺は話題を切り替えた。


「協力してくれるか、ミラージュ」

「私は君のしもべだ。なんなりと命令すればいい」


 ミラージュの返答は頼もしかった。


 今まで見下されるばかりだったから、『マスター』として敬い、対等な『パートナー』でもあるミラージュの存在が嬉しい。


 なんというか……一人の人間として扱われている感じがして、自己肯定感をくすぐってもらった。


 普段のクラスでは、自己肯定感なんて覚えようがないからな……。


「よし、じゃあさっそく地上を目指そう。お前、【探知】系のスキルは使えるか?」

「私は戦闘特化だ。戦闘関連のスキルしか習得していない」

「この遺跡は内部が迷宮みたいになっている。どうやって脱出すればいいと思う?」


 俺はミラージュに相談する。


「ふむ……」


 ミラージュは一拍置いて、


「この迷宮を徘徊しているモンスターが何種かいる。そのどれかを倒し、主のしもべにしてしまえば、案内役にできるのではないか?」

「モンスターを、しもべに……?」


 俺は思わず聞き返した。


「でも、ここのモンスターは下級や中級が多いだろ。俺の【ネクロマンサー】は最下級のアンデッドしか『しもべ』にできないから――」

「【ネクロマンサー】は極めて強力なスキルだ。最下級アンデッドしか服従させられない、ということはあり得ない」


 ミラージュが言った。


「もしかしたら、スキルになんらかのリミッターがかかっているのかもしれない」

「リミッター……」

「それを解くためのアイテムが最下層にある。先にそちらを目指した方がいいかもしれないな」


 ミラージュが言った。


「最下層の宝物庫への道なら、私も知っている。主が望むなら案内しよう」

「……宝物庫までの道に危険はないのか」

「ある」


 即答かよ。


「この遺跡は下のフロアに行けば行くほど、モンスターの危険度は段違いに上がる」


 うーん、どうするべきか。


 いや、ここから出るためには、まず『スキルのリミッターを解く』行為が必要になるんだろうし……。


「ミラージュは下のフロアのモンスターに勝てそうか?」

「確実に勝てると思う」


 ミラージュが言った。


 自信たっぷりというよりも、事実をそのまま告げているという感じで、淡々とした態度だった。


「そしてスキルのリミッターさえ解除すれば、それらの強力なモンスターを主のしもべにできる。一気に戦力が上がるのではないか?」

「なるほど……いいことずくめではある、か」


 よし、決めたぞ。


「俺と一緒に最下層まで来てくれ、ミラージュ」


 ここから出るために、俺は――。


 スキルのリミッターを解除する。




「すごい……あっという間に着いた……!」


 三十分後、俺はミラージュとともに最下層にいた。


 道中、何度もモンスターに襲われた。

 だけど、そのすべてをミラージュがまさに瞬殺したのだ。


 で、今は最下層の奥にある部屋の前にいる。


「この向こうが宝物庫だ」


 ミラージュが説明した。


 軽く押すと、扉は簡単に開いた。


「……罠とかないのか?」


 入口のところで立ち止まり、内部を覗きこむ。


 薄暗くてよく見えない箇所もあるけど、無数の棚があり、死角が多そうな部屋だ。


「私は何度か入ったことがあるが、罠もモンスターも見当たらなかった」


 俺の問いに答えるミラージュ。


 倉庫の中に入り、まっすぐ進む。

 ミラージュの言葉通り、罠やモンスターには出くわさなかった。

 そして。


「あれは――」


 宝物庫の一番奥に、それは安置されていた。




『勇者スキル・第二段階解放用宝具』




 プレートにそう書かれている。

 名前からして、その役割は明らかだった。


「第二段階……解放……」

「マスターのスキルにはリミッターがかかっている、という話はしたな? それはスキルに『段階』があるからだ」


 説明するミラージュ。


「現在のマスターのスキルは『第一段階』にとどまっている。それを『第二段階』まで解放することで、新たなスキル効果を得られるのだ」


「新たな……スキル効果」

 要はスキルがパワーアップするということだろうか。

 最下級スキルだの役立たずだのと見捨てられた俺でも――強くなれるだろ

うか。


「ただし……リスクを伴う可能性がある」

「えっ」

「あのタイプの宝具は、使用者が条件にそぐわない場合、なんらかのペナルティを与える」

「ペナルティって……?」

「呪いであることが多い。が、稀に即死の呪法を使ってくることもある。

「そ、即死……」


 俺はゴクリと息を飲んだ。


 もちろん、死ぬのは怖い。

 せっかくここまで来たけど、さすがにもう無理だろう。


『逃げ』一択だ。


「でも――」


 俺はもう一度、ゴクリと息を飲む。


「本当に……それでいいのか?」


 本当に――逃げていいのか?


 自問自答する。


 進めばリスクがあり、逃げればリターンを得られない。


 俺が欲しいのはどっちだ?


 賭けて力を得るか、安全策を取って力を逃すか。


「俺は――力が欲しい」


 力がないから、見下される。

 なら、それをはねのけるためには、今より強い力を身に付けるしかない。


 綺麗ごとじゃない。


 自分に降りかかる理不尽は、結局のところ実力で排除するしかないんだ。





 俺はその宝具を手に取った。


 手のひらサイズのプレートだ。


 ヴンッ。


 うなるような音がして、そのプレートが光を発した。

 そして――、




『スキル【ネクロマンサー】が第二段階に達しました』

『服従させられるアンデッドの範囲が解放されました』

『最下級アンデッドに加え、下級、中級のアンデッドをしもべにすることが可能です』

『さらに、服従させたアンデッドの能力の一部が、術者のステータスに反映されるようになりました』




 空中にそんな説明文が浮かび上がった。

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忌み子として処刑された僕は、敵国で最強の黒騎士皇子に転生した。超絶の剣技とチート魔眼で無敵の存在になり、非道な祖国に復讐する。


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