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9 勇者の戦い

 言ったそのとき、ブラッドクロウがふたたび近づいてきた。


 ミラージュがそれに立ち向かう。


 がきいいんっ。


 今度は左腕を伸ばして攻撃してきたが、さっきと同じように盾で受け止めるミラージュ。


 ――いや。


「……むっ!?」


 ミラージュは戸惑ったように後ずさった。


「威力が上がってる……!?」


 俺は眉を寄せる。


 今までは小手調べだったということか……?


 ブラッドクロウはなおも左腕を伸ばし、爪を剣のように繰り出してくる。


 がきっ、がきんっ。


 盾で防ぐミラージュだけど、明らかに押されていた。


 パワー負けしている――。


「ミラージュ一人じゃ厳しいか。なら――」


 俺は剣を抜いた。


 腕力のない俺は、以前はナイフを使っていたんだけど、身体能力のステータスが上がったため、今回は通常のロングソードを持って来たのだ。


「ミラージュ、今俺が行く」




 俺はブラッドクロウと正対した。


 奴の攻撃手段は左右の『伸びる腕』と、剣のように尖った爪だ。

 間合いが可変する攻撃を見切らなければ――やられる。


「来い」


 俺はブラッドクロウに言った。


「人間ごときが」


 ブラッドクロウはニヤリと笑い、右腕を振り上げた。


 来る――。


 次の瞬間、左腕が繰り出される。


「フェイントか!?」


 攻撃の予測タイミングをずらされたことで、反応が遅れてしまう。


 いくらステータスが上がったとはいえ、こういう『実戦の駆け引き』に関して、俺はまだまだだった。


 ブラッドクロウの左腕がグングン伸び、その先端にある剣のような爪が迫る。


「くっ……」


 間一髪、俺は爪を剣で止めた。


 がぎぎぎぎぎぎぎっ。


 耳障りな金属音が響く。


「このぉっ……!」


 なんとか奴の左腕を力任せに跳ね上げた。

 よし、パワーは俺の方が上みたいだ。


「だったら――」


 俺は地を蹴り、間合いを詰めた。


「貴様……」

「距離が遠いと、お前の『伸びる腕』に惑わされる。だけど距離を詰めてしまえば――お前は腕を伸ばさずそのまま攻撃せざるを得ない」


 腕を伸ばす、っていうのは、それだけ相手との距離が離れているからこそ取れる戦法なんだ。


 なら、それをさせない距離まで近づけばいい。


 当たり前のことなんだけど、それにすぐ気づくことができるか、できないかが――きっと『実戦感覚』ってやつなんだろう。


 俺はこの戦いで、それを学んでみせる。


「おおおおおおおっ!」


 至近距離まで迫った俺は、渾身の斬撃を繰り出した。


 奴はそれを避けようとバックステップする。

 俺はそれを追いかけ、さらに一歩踏み込んだ。


 ざしゅっ!


「あ、があああ……」


 胸元を切り裂かれたブラッドクロウが苦鳴を上げた。


「な、なんだ、この力……いくら勇者とはいえ、こんなステータスはありえん……!」


 呆然とうめいた魔族が俺をにらむ。


「まさか、お前は【光】ではなく【闇】の勇者……!?」

「えっ」

「ならば、我ら魔族側の人間だろう! さあ、こっちへ来い」


 俺を手招きする魔族。


「……なんの話か分からないな」

「お前のスキルがその証拠だ。【闇】より生まれたそのスキル――人間どものために使う理由などないだろう」

「お前の話はさっぱり分からないな。俺はただ、この力を俺の意志のままに使う――」


 剣を振り上げた。


 その刀身に青白い光が宿る。


 ミラージュが使っていたのと同じ技だ。


「俺の意志は」


 そして、振り下ろした。


「目の前で傷ついている人を守ることだ!」


 魔族は、俺の剣で両断された――。

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忌み子として処刑された僕は、敵国で最強の黒騎士皇子に転生した。超絶の剣技とチート魔眼で無敵の存在になり、非道な祖国に復讐する。


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