28 己の立場(豪羅視点)
謁見の間には、重苦しい空気が漂っていた。
部屋には王と豪羅、そして壁際に控える魔術師が数名いるだけだ。他の者は人払いされているようだった。
「豪羅よ」
王が口を開いた。
その声は普段の穏やかな雰囲気とは違い、妙に硬質的だった。
「夜天宮時雨を討て」
「――は?」
豪羅は思わず聞き返した。
「時雨を……? 俺が?」
「奴はもはや我らの希望ではない」
「……どういう意味だ?」
豪羅は表情を険しくする。
別に時雨は親しい友人というわけではなく、どちらかといえば嫌いな相手だ。
とはいえ、自分と同じ立場である『召喚勇者』の一人が、王によって討伐命令を受けるとなると、心穏やかではいられなかった。
「彼は危険だ。魔王退治の希望になるかと思っていたが……今や魔の力を身に付けた闇の勇者となった。あれが魔王軍に寝返ると、人類は大打撃を受ける……そうなる前に奴を殺せ」
「闇の勇者……だと……!?」
状況がまったく飲み込めない。
「詳しいことを考える必要はない。豪羅、お前の戦闘能力は勇者の中でも指折りであろう? その力を振るい、時雨を殺せばよい。お前が考えるべきことは、それ一つだ」
王が言った。
「時雨を……ころす――」
(だけど奴は強い。とてつもなく強い)
じわり、と背中に汗がにじむ。
この前の模擬戦ではない本気の衝突。あの時、豪羅は時雨に手も足も出なかった。
(この俺でさえ――とても敵わないほどに)
「返事はどうした? 王命であるぞ」
王が冷ややかに問いかけた。
「き、急に言われても――納得がいかねぇ!」
豪羅は自身の不安を誤魔化すように声を張り上げて反論した。
「お前に拒否権はない」
王の言葉は氷のように冷たい。
「逆らえば……」
どんっ!
その瞬間、豪羅の全身を激しい衝撃が襲った。
「ぐ……ぁ……っ!?」
体から力が抜け、膝から崩れ落ちそうになる。なんだ、これは……!?
「お前たちの体には、既に細工を施している。いざというとき、我らに逆らえないように」
「細工……だと……!?」
豪羅はうめきながら王をにらみつけた。
「お前たちの食事には、とある呪法で生成した魔石を細かく砕き、混入してあるのだ」
王が淡々と説明する――。
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