2 田中と鈴木
「田中のスキル、あいかわらず超強いじゃん」
「はは。お前のスキルも火力高くていい感じだぞ」
田中と鈴木は互いを褒め合っていた。
盗賊たちを殺したことについて何も感じていない――それどころか、まるでゲームのハイスコアを競っているかのような雰囲気だ。
「殺す必要はなかっただろ」
俺は盗賊たちの死体を見て、
「捕らえて、憲兵に引き渡せば――」
「ああ? どうせ生きていても人に迷惑かけるだけの連中だろ」
「害虫駆除みたいなもんでしょ、ふふ」
やはり田中と鈴木には罪悪感なんてなさそうだった。
「だいたい、ここは日本じゃないんだぞ」
「しかも、私たちは『勇者』――特権階級なんだからね」
「だからって、無意味に人を殺していいわけじゃない」
俺は二人をにらんだ。
「あ?」
田中が俺をにらみ返した。
こいつは野球部のエースピッチャーで、身長は190センチ近くある。
俺より頭一つ以上大きな体が、威圧感たっぷりに詰め寄ってきた。
「時雨ごときが俺たちに意見する気か」
「俺は思ったことを言っただけだ」
俺は動じない。
以前なら確実におびえていただろうけど――。
今は不思議なほど恐怖心を感じなかった。
「ちょっと時雨のくせに態度が大きいよ」
鈴木が田中の側に並んだ。
「へへへ」
「ちょっとビビらせる?」
二人は目配せした。
「――【フライングソード】」
ヴンッ!
空中から突然長剣が出現する。
田中のスキル【フライングソード】。
その名の通り、長剣を召喚して攻撃するスキル。
長剣は最大で33本まで召喚でき、そのすべてが田中の意志に応じて、空中を自由自在に動き回る――。
がきんっ。
俺は空中から迫る長剣を、腰から抜き放った剣で撃ち落とした。
「な、何……!?」
「危ないだろ。いきなり攻撃するなよ」
「て、てめえ……!? 時雨のくせに防ぐなんて生意気なんだよ!」
ヴンッ!
さらに三本、空中に長剣が現れた。
それぞれが別々の角度から襲ってくる。
並の人間なら反応もできずに斬り刻まれるだろう。
さっきのを防がれて頭に来たのか、今度は容赦なく来たようだ。
だけど――以前よりも格段にステータスが上がった俺の目には全部見えている。
三本の剣の軌道が、すべて。
がきいいいんっ。
俺は剣を振るい、続けざまに三本の剣を弾き飛ばす。
そのすべてが田中の足元に突き立った。
「本気で俺を狙うなら、次はお前の体に向かって弾き返す」
俺は剣の切っ先を突きつけた。
「ぐっ……」
田中の顔がサッと青ざめる。
「……た、ただの冗談だよ。本気で狙うわけないだろ」
言いながら、田中の体は震えていた。
「な、何、こいつ……」
鈴木も驚いたように俺を見ている。
二人とも気づいたんだろう。
俺の動きが、反応が、今までとは明らかに違うことを。
それとも単なるマグレと判断したんだろうか。
「城に帰るよ。お前たちはどうするんだ?」
「俺たちは……」
「あ、あんたに言う必要ないでしょ! 行こう!」
と、鈴木が田中の腕に自分の腕を絡めた。
あれ、この二人って付き合ってるのか?
雰囲気が友だち同士ではなく、恋人同士のそれに思える。
「王都で適当に遊んでくるだけ。本当、娯楽が全然なくて最悪よね、この世界って」
「そう言うなよ。慣れれば結構楽しいだろ」
「まあ……あんたと一緒なら」
「ひひひ」
あ、やっぱり付き合ってそうな雰囲気だ。
正直、相手がいるのはちょっと羨ましい。
たぶん彼らは遊んでいる最中に、たまたまここを通りがかったんだろう。
王都から別の都市に向かう街道だからな。
「俺は……帰るか」
王都への道を歩き出す。
最後にもう一度、盗賊たちの死体に視線を向けた。
悪党とはいえ――いちおう黙とうをした。
少しだけな。
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