1 遺跡で出会ったもの
俺は遺跡の中をさ迷っていた。
一緒に来た仲間は、もう誰もいない。
奴らは俺を邪魔者だとして、この遺跡内に放置したのだ。
俺自身の戦闘能力は低く、もし強いモンスターが現れたら、確実に殺されるだろう。
いや、モンスターに出会わなくても、遺跡から出られなければ、遠からず餓死か衰弱死が待っている。
「このままだと、異世界で死ぬことになるのか……日本に帰ることもできずに……」
だけど不思議だった。
最初は不安と恐怖しかなかったのに、こうやって一人でさ迷い歩いているうちに、次第にそれらの気持ちがマヒしていく。
代わりに芽生えたのは『絶対に生還してやる』という強い意志だった。
勉強でもスポーツでもパッとせず、クラス内では落ちこぼれ、ただなんとなく負け組の人生を送ってきた俺が――。
こんなにも意志を強く、明確に抱いているのは、生まれて初めてかもしれない。
「そうだ……俺は必ずここから脱出してやる……!」
――俺、夜天宮時雨は、半年ほど前にこの異世界に召喚された。
いつも通りに授業を受けていたところ、教室全体が突然激しい震動に襲われたのだ。
最初は地震かと思ったけど、それは間違いだった。
震動は数分で止み、その直後――景色が一変していた。
教室の中にいたはずの俺たちは、巨大なホール状の場所に移動していた。
後で聞いたところによると、そこは城内の一画だったようだ。
俺たちの前には壮年の男と、白いローブを着た数名の女、そして数十人の貴族風の男たちがいた。
「な、なんだよ、あんたたちは――?」
呆然とたずねる俺。
「余はこの国の王である! そしてここは汝らが住む世界とは異なる【もう一つの世界】!」
壮年の男――王様が朗々と叫んだ。
「諸君は我らの魔術によってこの世界に召喚した。君たちに頼みたいことがあるのだ」
「頼みたい……こと?」
「この世界は現在、【魔王】によって脅かされている。それに対抗できるのは【勇者】のみ」
王様が説明する。
「そして、その【勇者】になれるのは、異世界の人間だけなのだ」
「えっと、もしかしてそれって……俺たちのこと?」
クラス丸ごとを勇者として召喚――。
そういうこと、なのか。
俺たちは勇者として召喚され、その証としてそれぞれた勇者だけの力――『スキル』を持っていると説明された。
実際、クラスメイト全員が異能の力を獲得していた。
目に見えない剣を生み出し、あらゆるものを斬り裂く力。
獣人に変身し、圧倒的な格闘能力を得る力。
あるいは――アンデッドモンスターをしもべにする力。
勇者になって魔王を倒せ――。
これがアニメやゲームなら、二つ返事で引き受ける展開もあるだろう。
でも俺たちは現実の人間だ。
縁もゆかりもない異世界のために、命を懸けて魔王軍と戦う義理なんてない。
そこまでの正義感はない。
だが、王はこう言ったんだ。
『魔王軍を倒さない限り、お前たちは元の世界には帰れない』
『勇者の使命を拒否するなら、この場で全員を殺し、新たな勇者たちを召喚する』
――と。
いくら俺たちが異能を持っているとはいえ、まだ鍛える前だ。
異世界の戦士や魔術師たちには敵わない。
俺たちは、クラス内で今後の対応を話し合った。
結論としては――『勇者』の使命を果たす、ということになった。
まあ、やらなければ殺されるんだから、他に選択肢はない。
で、勇者のスキルを鍛えることになった。
俺の【ネクロマンサー】は当初、最下級のゴーストしか『しもべ』にできず、全然戦力にならなかった。
だからクラスの連中から白眼視され、役立たず扱いされてきた。
『お前、弱すぎるんだよ! 足引っ張ってんじゃねーよ!』
『日本でも異世界でも、お前はグズだな!』
『あーあ、なんでこんな雑魚がクラスにいるんだろうな? 使えないし、いっそ死んでくれよ!』
『そうそう、今度の遺跡探索でクラスから出ていけばぁ?』
『いいな、それ。王様には「時雨は俺たちとはぐれて行方不明になった」って言っとくか!』
そして、召喚から半年ほど経った今、とうとう遺跡探索の演習の際、本当に置き去りにされたわけだ――。
「たぶん、一部の連中が前々から俺をこうするように計画していたんだろうな……」
俺はため息交じりにつぶやいた。
クラスの他の連中には、俺が一人はぐれて取り残されたとでも説明するつもりだろう。
「確かに俺は弱い……けど、殺さなきゃいけないほどなのか……!?」
悔しさと屈辱感で体が燃えるようだった。
考えてみれば、今まで他人に対して強く怒ったことがなかった。
そもそも自分の意見を押し出したり、感情を強く出すことが苦手だった。
なんとなく流されて、なんとなく『自分は人より劣るんだ』『だから虐げられても仕方ないんだ』と自分自身を納得させていた。
でも、違う。
弱いからって、生きる権利を奪われなきゃいけないのか?
劣るからって、死ななきゃいけないのか?
「こんな理不尽に、殺されてたまるか――!」
とはいえ、歩けど歩けど出口は見えない。
道に迷うばかりだった。
いちおうマッピングしながら進んでいるんだけど、とにかく遺跡内部が広大すぎる。
「はあ、はあ、はあ……」
だんだんと体力が尽きてきて、俺はその場にしゃがみこんだ。
「このまま出られないのか――」
恐怖心がこみ上げる。
俺のスキルじゃダンジョンからの脱出には役に立たない。
モンスターが出てきたところで、やっぱり役に立たない。
結局、俺にはなんの力もない。
無力に、死んでいくのか?
ああ、力が欲しい――。
願った、そのときだった。
『ようやく来てくれた……【ネクロマンサー】のスキルを持つ者――』
突然、どこからか声が響いた。
「誰だ……?」
『私は、君のしもべ……』
声がまた響く。
おそらく声の方向は、遠い前方からだと思う。
それはともかく、しもべって……?
【ネクロマンサー】のスキルを使えば、最下級のアンデッドを『しもべ』として従えることができる。
……というか、最下級しか『しもべ』にできない。
勇者からすれば雑魚同然の下級や中級アンデッドすら『しもべ』にできないため、俺が配下として従えているのは『ゴースト』と『スケルトン』くらいだ。
どっちも普通の人間より弱いレベルの最弱アンデッドだった。
そんなものを何体集めても、戦力は推して知るべしだ。
……まあ、クラスメイトたちから役立たずとして見捨てられるのも仕方がないことなのかもしれないな。
『君は今、力を欲している……その思いが、私の元にまで流れこんできた……共鳴したのかもしれない……ともに、勇者にゆかりのある存在として――』
「共鳴……? 勇者にゆかりが……?」
『どうか、ここまで来てほしい。この迷宮から脱出したいのではないのか……? ならば、私の元へ――』
声が続ける。
『私を「しもべ」として従えれば、君の望みが叶うはずだ』
俺は声が聞こえてくる方向に向かって歩いた。
声の主が言った内容に根拠なんてない。
もしかしたら罠かもしれない。
だけど、どうせもう万策尽きたんだ。
「なら、イチかバチか乗ってみよう」
断続的に響く声に導かれ、通路を進み、やがて突き当たりの部屋までたどり着いた。
「ここか――」
声は、扉の向こうから聞こえてくる。
ぎぎぃ……。
俺はゆっくりと扉を開き、部屋の中に入った。
部屋の奥に一人の騎士がいた。
壁にもたれかかり、座っている。
その四肢に黒い鎖が巻き付いていた。
「待って……いた……」
騎士が顔を上げた。
仮面に覆われて、どんな顔をしているのかは分からない。
赤い両眼がギラギラと光っていた。
「私を、ここから解放してほしい……代わりに私は……君に忠誠をつくし、君の剣となって戦おう……」
「お前は……?」
「私の名はミラージュ。『幻影の騎士』と呼ばれていた者」
彼……ミラージュが名乗った。
「かつて魔王と戦った騎士の……なれの果て……その戦いに敗れて、命を散らし……アンデッドとして、ここに留まっている……」
「魔王と戦った騎士――」
「私は呪いを受け、自力ではここから出られない。だが、ネクロマンサーのしもべとしてなら呪いの効果を無効にできる……」
「えっ、それって――」
こいつを俺のしもべにするってことか?
「でも、お前強そうだな。俺のスキルは最下級のアンデッドしか『しもべ』にできないんだ」
「問題ない。私も最下級アンデッドだ」
ミラージュが俺を見つめた。
フルフェイスの仮面の下で赤い目が光った。
強そうに見えるけど、こいつは最下級のアンデッドなのか。
それなら俺のスキルで『しもべ』にできるはずだ。
「いくぞ――【アンデッド・服従】」
俺は【ネクロマンサー】のスキルを使った。
とたんに、ミラージュの体が黒い光に包まれる。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ……!」
ミラージュが咆哮した。
ばきん、ばきん……。
四肢を拘束していた黒い鎖が粉々に砕け散る。
「ようやく……解放された。これで私は、また歩き出せる――」
ミラージュが立ち上がり、俺の前に跪いた。
「私は今より、君のしもべだ。私を解き放ってくれたこと、感謝する」
「あ、ああ、よろしく頼む」
ゴーストとスケルトン以外のアンデッドをしもべにしたのは初めてだ。
と、
うおおおおおおおんっ。
四方に雄たけびが反響する。
「これは――」
俺はハッと身構えた。
出口のところに無数の赤い眼光が見えた。
ダンジョンウルフの群れ――。
一体や二体ならゴーストやスケルトンを大量に呼び出せば倒せるけど、見た感じ、どうやら30体以上いるようだ。
殺される――。
背筋が凍るような恐怖感を覚えた。
逃げなきゃ、と周囲を見回すが、ダンジョンウルフたちが陣取っている出口以外に、他の出口はなかった。
「マスター、私に命令を」
ミラージュが言った。
「……勝てそうか?」
「君の命令であれば、たとえ魔王が相手でもこれを討つ――それが私の役目だ」
頼もしい言葉に胸が熱くなる。
俺はもう無力じゃない。
心強い味方ができた。
だから――俺も歩き出そう。
ミラージュと同じく。
ミラージュを従えて。
「幻影の騎士ミラージュ。【ネクロマンサー】のスキルによって、お前に命じる――」
俺は『しもべ』に呼びかけた。
「俺に従い、敵を討て」
【読んでくださった方へのお願い】
面白かった、続きが読みたい、と感じた方はブックマークや評価で応援いただけると嬉しいです……!
評価の10ポイントはとても大きいのでぜひお願いします……!
評価の入れ方は、ページ下部にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』のところにある
☆☆☆☆☆をポチっと押すことで
★★★★★になり評価されます!
未評価の方もお気軽に、ぜひよろしくお願いします~!