第二章 2
「よし! 始めるよ!」
お昼を食べ終えて、ばあちゃんとキッチンに立つ。
大量の赤ジソが、ざるに入れられていた。
「半分ずつ、洗うだわ。土がついちょーけんね」
そう言ったばあちゃんが、流しの蛇口をひねってザ―、と赤ジソに水をかぶせる。
ばあちゃんにならって、私も赤ジソを丁寧に洗いはじめる。
ざるとボウルの中には、とってきた赤ジソ、全部が入っていた。こんなに大量に一気に使うのだろうか。
「わ、わ、ば、ばあちゃ」
「どげしたかね?」
「む! 虫が!」
洗っている赤ジソの中から、にょろにょろした白い虫が顔を出していた。
「わああ、ど、どうしよう」
あせる私にばあちゃんは大口を開けて、がははと笑った。
「虫ぐらい、いるわね。このシソがおいしい証拠だわ」
笑いながらばあちゃんが虫をつまんで、ごみ箱に捨てる。
「そ、そんなところに捨てたら、ごみ箱の中で孵化するかも」
「あはは、そしたら、うちで育てーだわ」
ばあちゃんが豪快に笑う。細かいことを気にしないばあちゃんは、気にしすぎる私には、新鮮で、目を瞬かせる。
虫におびえながら、なんとかシソを洗い終えて、ばあちゃんが水を張っている鍋に入れる。
「洗い終えたら、こっちで、煮るよ」
「こんなにたくさん煮るの?」
「そげそげ」
沸騰しはじめたお湯にシソを投げ込む。
「莉央ちゃん、ほら、見て」
「わ、色が、変わった……」
さっきまで赤かったシソが、鍋の中で魔法のように緑色に着替えていく。代わりに、に出したお湯が赤黒く染まる。
お湯が染まり切ったところで、くたくたになったシソを鍋から出してばあちゃんがコンロの火を止めた。それから、「莉央ちゃん、見て」と言って、砂糖をたっぷりと、それから何か黄色い液体を入れる。
「わ、また色が……」
さっきまで赤黒かったお湯が鮮やかな赤に色を変える。
「さ、これで、シソジュースの完成だわ」
ばあちゃんはガラスのコップに氷をたっぷりと、シソを煮た原液と、水を適量入れて、私に渡した。
鮮やかな赤色をしたジュースはビー玉のように外の世界を映しこんでいる。
「きれー……」
ばあちゃんと並んでシソジュースと和菓子を食べた。私は時計が午後四時を過ぎていることに気がついて、「今日はこれがコーヒーの代わりなんだね」とばあちゃんに言った。
「夏しかできない贅沢よ」
ばあちゃんが赤いジュースに口をつけながら、にこにこ笑う。
シソの酸味が喉を通って、身体の熱を冷ます。
ミーン、ミーン。
だんだん小さくなっていくセミの声を聞きながら、私はゆっくりとそれを飲みほした。