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3章 心を読み取る魔法(3) 

「…すみません、ミユ様。先程言った事は嘘なのです。両親は流行り病で亡くなったわけではないのです。思い出すのが辛くて、本当の事をお話しする事が出来ませんでした。私が生まれた頃、この国では老魔術師ハクストが盛期を迎えていました。あなた方も知っていらっしゃるでしょう。私と同じくらいの年ですから。ちょうどその時、彼は自分の軍隊を作っていました。そして、魔法使いの素質が少しでも見出された者は、彼の部下達に連れていかれた。私も、ちょうど魔法の才能があったのです。彼に連れていかれる程には十分に。むろん、年齢は問われませんから、連れていかれた方々には、子供、大人、お年寄りまで、多くの方々がおられました。私の素質が分かったのは、まだ生まれたばかりで、まだ首も座っていない状態でした。もしあのまま連れていかれれば、私は命を落としていたでしょう。彼には慈悲の心など、ありやしないのかもしれません。そこで、両親は私に危害が及ばないよう、特に信頼できる人々にしかこの秘密を話さず、注目を集めるような行いはしない事、外で魔法を使わない事、などと決まりを作りました。…ですが、どんなに苦労しても私の体から魔力が放出されてしまうのです。いわば、魔法のオーラ…ふと気が付けば、自分の周りを魔力が取り巻いている。両親は…多少敏感になっていたのでしょうか、私が少しでも魔法関係の事をすれば、叱りました。…恐ろしかった。とても。当時の私には、何も言われていなかったのです。私自身にも命の危険が迫っていて、慎重に行動をしなければならないという事が。だから、魔法の少しくらい使ったとしても、どうといった事は無いだろうと考えていたのです。しかし、それは違った。私の使う魔法は全て強力になり、周りの人々に迷惑をかけてしまうのです。それで、幾度と危険な状況に追い込まれた事か。連れて行かれそうになった事もあるのですから。でも、決まってその後は両親に叱られました。ですが、両親はなぜ叱るのかについては言及せず…。もしかすると、小さな私を思っての事であったのかもしれません。とにかく、私がなぜ叱られていたのかについて知る事が出来たのは、七、八歳の時でした。その後、困った事が起きました。私に備わる素質の事が、老魔術師ハクストに知られてしまったのです。両親は私をどうするかを、毎日毎日話し合いました。そして決まったのは、両親がこの村を離れるという事です。老魔術師ハクストは、親がいない子供をとても嫌っていました。今思えば、彼は自分の子供を捨てこの世で一番強い魔法使いを目指したのですから、彼にとって親がいない子供は、自分の娘と重なって見えたのでしょう。そして、子供の瞳を見て自分が責められていると感じた、というような事が実際に起こっていたのかもしれませんね。私は母方の伯母に預けられ、両親は旅に出ました。村から流れる川をたどり歩いて行けば、数日程で少し大きな町に行く事が出来ます。両親はその街へひとまず向かい、私が〈名づけの儀式〉が行われる十六歳になれば、必ず村に戻って来ると約束したのです。ですが、両親が村を出てから十日程経ったある日、知らせが届きました。それは、村の端に住む男性が庭を歩いていると、柵の向こうに布が見えて、前には無かったのだからどうも変だ、と思い村を出て調べてみると、布は服で、私の母が着ていた物にそっくり、しかもそのそばに小さな宝石のついた髪飾りが落ちていたというのです。私は小さい頃に、よく母に髪飾りを見せてもらっていました。男性が持って来たその髪飾りは、母の持っていた物と同じだったのです。つまり、私の両親は老魔術師ハクストに殺されたのかもしれないのです。村の人々はそれを悟りました。ですが、幼い私は両親が無事に町へ行き、大きくなった頃に帰って来てくれるものと信じていたのです。そして私がミリア様に引き取られ、魔法も上手く使えるようになった頃、両親の死を告げられました。先日、孤独の魔術師シュラハトの住処を訪ねたのです。彼の部屋の中にある棚の上に置かれた物を見つけた時、どれ程怒りがこの心を満たそうとしたでしょうか。エメラルドの首飾りが置いてあったのです。それは…私の誕生月の石でした。母が私のために用意してくれた物でした。メグ様がご覧になった私の心の中の情景…その時に母はエメラルドの首飾りを握っていたのです。そして、そばにいた私にその飾りが見えたのです。…だから、私には首飾りが本物だと分かって、両親が亡くなってしまっているという事が現実となったのです。ただの推測ではない、事実に。悲しくて、なりませんでした。その後、伯母様が私をミリア様の元へ運んでくださり、そのまま引き取られました。ミリア様の元へ行っても、身元がばれてしまえば、必ず老魔術師ハクストが連れ去りに来るだろうという話になり、私にソユアという名がつけられたのだとか…。名付けてくださったのは、世界の〝時の流れ〟を守るお方だそうですが…」

「えっ、それって凄くない?」

ミユが驚いた顔で言った。メグも信じられない、という顔をしている。

「そう…ですか?」

「そ、そりゃそうだよ?ていうか、何でそんなに驚かないの?」

「そうよ、言ってみれば世界の守り人でしょ?凄い人に違いないわ」

ミユが納得したように言った。

「そうか、ソユアって、ミリア様の弟子だったね。だから、凄い人にも会えるんだよ!」

「…そしたら十分あなたも凄いわよ。大魔法使いシルク様の弟子でしょう?」

メグは疑わしげな顔でミユを見つめる。あなた、自分の師匠の事分かってるの?と言いたげだ。

「あ、そうか。シルクは大魔法使いだったっけ。でも、そんな大層な人でもないと思うんだけどな…」

「ほんとにそうなの?」

メグがさらに詰め寄って来る。ミユはわざとメグから視線を逸らしていた。

「あ、でもさ、ソユアってなんでそんなに強くなったの?」

ミユが慌てて話題を変えた。ソユアは急に自分に話が振られた事に驚いたようだったが、しどろもどろになりながらも話を続けた。

「あ…そ、それは…周りの大人達は、私の両親が死んだものだと考えていました。伯母様を除いて。だから、悲しくて、悲しくて。この気持ちを紛らわす為に練習に打ち込んだのです。ほんの少しの間でも、思い出せば泣きそうになりましたから。…これでお話は終わりですよ。メグ様、私達の仲間になってくださいますか?」

「ごめんなさい、少し考えさせてくれる?外にでも出るわね。頭を冷やしたいし」

メグがミユから目を離し、言った。なぜか、彼女は視点の合わない目で何かを見つめている。上の空のようだった。

「メグ…様?」

ソユアがメグを覗き込む。メグははっと我に返ったように一瞬ビクッとし、ソユアに笑いかけた。

「大丈夫よ」

「そうですか。なら、少しだけ待ちますから、その間に、決めてくださいね」


しばらくして、メグがテントの外から戻って来た。ミユはメグがいない間今か今かと待ち構えていたが、メグの姿が目に入るとぱっと立ち上がり期待で目を輝かせた。

「どう?仲間になってくれる?」

「え…ああ、そうね、じゃあ仲間になってあげるわ。これからよろしく」

「わあ、良かったな!嬉しいものだよ、仲間が増えるのって」

「メグ様、面倒をおかけする事もあるだろうとは思いますが、これからよろしくお願いします。あの、そこでですが、次の目的地はどうしましょうか?」

「水の都エマールが良いんじゃない?あそこに住む人々は親切よ。それに、魔王リバルを倒した一行の一人、女戦士シリンが住んでいるわ」

メグが提案をすると、ミユが目を輝かせた。ソユアの顔が少し曇るが、誰も気がついてはいない。

「女戦士シリン!一度会ってみたかったんだ。まさか本当に会えるとはね!」

(女戦士シリン。伯母様の事でしょうか?)

ソユアは不思議に思った。

(そういえば、伯母様はなぜ私に会いに来てはくださらなかったのでしょう?)

ソユアがミリアに引き取られた後、シリンはミリア達の住む小屋に立ち寄るような事はなかったのである。

(私がミリア様の元へ行く前は、伯母様はミリア様の小屋によく立ち寄られたと聞いていたのですが…)

「ユア…ソユア!何ボーっとしているの!」

ソユアが気付くと、ミユとメグの顔がソユアを覗き込んでいた。

「す、すみません。考え事をしていました」

「ふうん。なら良いけど。で、次の行き先は水の都エマールで良いのね?」

メグがソユアに確認した。ソユアは二の足を踏むような様子を見せたが、覚悟を決めたように頷いた。

「…分かりました。明日、朝頃出発しましょうか。水の都エマールはここからどれ程離れているのですか?」

「ここからもっと北の方。川の源流があるはずよ。ソユア、大丈夫ね?何だか、凄く嫌そうだけれど…?」

「…だ、大丈夫ですよ!とっても楽しみです!」

ソユアは無理矢理笑顔を作り、メグに笑いかける。メグは無理矢理の笑顔だとは気付かず、ソユアが楽しみにしていたが遠慮しているだけなのだと思い込んでほっとしたようで、嬉しそうに頷いた。

「じゃあ、いざ、水の都エマールへ!せっかく水が綺麗な場所なんだし、楽しみましょう!」

その時、ソユアはある言葉を呟いた。それは、彼女が小さい頃に母親から教えてもらった言葉だった―

『ねえ、メイル。あなたに秘密の言葉を教えてあげる。ほら、こう唱えるの。《我、水の精なる民。聖なる水を守る民。》この言葉をね、水に手を浸して唱えると水が清められるのよ』

『きよめられる?』

『メイルにはまだ早かったのかな。綺麗になるの。水が綺麗になり、力が宿る。そうやって水を清めるのが、私達《水の精なる民》の務め…』

―「《我、水の精なる民。聖なる水を守る民》」

「え?ソユア、何か言った?」

ミユが不思議そうな顔をしてソユアに聞いた。

「あ…。すみません。何でも無いですから」

ソユアはそう言って少し俯いた。彼女は今、母親の事を思い出している。―倒すべき敵、老魔術師ハクストによって自分と引き裂かれ、誰に看取ってももらえぬまま亡くなった母親の事を。

「よし、決まったから、宿に行こうかしらね」

メグが「うーん」と伸びをし、腰に手を当てて言う。

「え、泊めてくれるんじゃないの…」

「何を言ってるのよ?このテントは借り物なの。さっさと行くわよ。ね、ソユア」

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