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1章 小さな魔法使い、ソユア(3)

 ソユアはミリアの待つ小屋の中へ入る。

「ただいま戻りました。ミリア様」

「お、戻ったか。お見事にシルクに嫌われたらしいじゃないか。まあ良い、とりあえず夕食にしよう。そこで、お前のやってのけた事を話してくれ」

「それが…」

ソユアは俯いて口ごもる。

「どうしたんだ?」

「記憶が…無いんです」

ソユアはずっと俯いている。

ミリアは微笑んだ。そしてソユアの背をさする。

「大丈夫だ。たとえ記憶が無いからと言って、責めるような事はしない。悪いのは孤独の魔術師ディザイアだろう。奴がお前に記憶を消すような魔法をかけたに違いない」

「あの…ミリア様。これだけは覚えているんです。私が入った部屋に《惑わしの香の魔法》がかかっていました。それに…」

ソユアが恐る恐るミリアに話しかける。彼女の右手は、左手の袖をしっかりと握っていた。

「ん?どうしたんだ?」

「言いにくいですけれど…これをご覧ください」

そう言ってソユアは左手の袖をすっと上げる。そこには、短剣で切り裂いた傷が残っていた。まだ治癒出来ていないようで、血がにじんでいる。

「なっ…あいつはそんな事をしたのか?その傷は…回復魔法では治らないのか」

ソユアはゆっくりと頷く。

「絶対に、許せないね。私の大切な弟子にこんな仕打ちをするとは。たとえ自分の手を汚していないのだとしても…ソユア、お前は闇の三大魔術師達を倒す事を厭うんじゃないぞ。そして、孤独の魔術師ディザイアも、老魔術師ハクストも。奴に慈悲の心を感じるなど、そんな事をしていれば民が救われない。お前自身も、奴に傷を付けられているからな」

ミリアは急いで本棚の前へ行き、一冊の黒い本を探し出した。

「これに、老魔術師ハクストについて書かれている。孤独の魔術師ディザイアについての本は…無いか。かなり詳しいから、少しだけ読んでみなさい。これから、じっくりと読んでいけば良い。敵を倒すためには、まず情報を得ないといけないからね」

「はい。『若き魔術師ハクストはある時、歴史に現れた。幼少期、また出身地も不明で、彼の名が初めて書かれた書物にも既にかなりの実力を持った魔法使いと記されている。一体どこでそのような魔法を覚え、彼は拾った貴族の推薦によりフレイ国の王宮付き魔法使いになった。ある時に任務で訪れたミルフェイ村に住むソメイユという赤毛の少女との婚約も進められている。後に彼らは結婚し、子にも恵まれた。しかし、妻は若いうちに病死。子供も施設へ送られた。その時より、老魔術師ハクストは己の心を失くし、人々に残酷な仕打ちをしている。また、彼は妻の死により恐怖を感じ、永遠に生きるための薬を探しているという。』とあります」

「ふむ、ハクストにもやはり慈悲の心はあったといえるのか…。お前はよくその年でこの本が読めたな。この本は特に難しい古代ドワーフ語で書かれている。素晴らしい。シルクは訪ねて来るって?」

「はい。時機に来られるそうです」

「どうやら、お前は本当にシルクから嫌われたらしいな。仕方が無い。私も、お前がシルクに好かれると思ってはいなかった。それに、孤独の魔術師ディザイアは不老不死になどなれないだろう。そもそも、出来やしないのだから。この世には永遠に生きる薬など存在しない。まあ、もし存在したとしたとしてもお前の話から見て、ディザイアの心身は大いに弱っている。彼の体ではその薬の刺激に耐え切れない。死んでしまうだろう」

「つまり、彼の寿命は…あと百年もないと仰るのですか?」

「ああ、そうだ。当てが外れたな。だが、良かったじゃないか。孤独の魔術師ディザイアは、老魔術師ハクストに劣らず人間を何人も殺した、残酷で残忍な奴だ。そんな奴が不老不死となってしまえば、この世界は必ず悪い方向に向かう。最悪滅びるか…いや、それよりも悪い事になってしまうかもしれないな」

ソユアは躊躇いながらも頷いた。

「詳しい事を、話してくれないか」

ミリアはソユアと自分の前に夕食の皿を置きながら言った。ミリアが椅子に座ると、ソユアも椅子に腰を下ろす。そして、途切れ途切れの記憶を話し始めた。

「それで、傷を付けられたんです。彼は、私の血を飲んでいて…」

ソユアの頭の中に、記憶が蘇ってくる。考えると、苦しかった。ミリアは怪訝な顔でソユアの話を聞いている。しかし、彼女も辛そうだった。

「分かった。シルクと話をしてみよう。ソユア、お前はゆっくり休んでいなさい」

「ありがとうございます、ミリア様…」

ソユアはそう言うと、ふらりと倒れてしまった。ミリアは驚き、ソユアを受け止めた。そして、ベッドに寝かせ、ソユアが倒れる間際に言った言葉について考え始める。

「どうやら、孤独の魔術師ディザイアはソユアの正体を知っているらしい。そして、おそらく老魔術師ハクストも。しかも、詳しい事まで。ソユアの血を飲むと不老不死になれるなど、一体どういう事なのか…。私達は、何かを見落としているのかもしれない…。ソユア…意識が無いのか。とにかく、この子が危ない。かけられたのは最上級の呪いと見える。運が悪ければ、死に至るだろう。シルクにも知らせなければならないね」


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