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6章 時を越えて(6)

 「残念ながら、私はあなたの仰る〝道〟というものが最善であると思える程賢くはありません」

急にソユアはそう言って、魔物の体に触れた。ソユアの触れた部分から、水は弱く光り出す。

「《感覚操作魔法》」

その光は一瞬で、真っ黒な水の中に広がっていった。そして、だんだんと輝く強さを増している。

「感覚…操作魔法?でもあれって…」

ミユは訳が分からないという目でソユアを見つめている。だが、彼女の呟きを聞いても、魔物は反応しない。

(魔物が…気付いてない)

ミユは息を呑んだ。ソユアは軽く地面を蹴り、《飛行魔法》で浮き上がる。

「《光の魔法》」

ソユアの杖から、大きな光の玉が飛び出す。それは魔物に触れると弾けるように光を発し、魔物の体を包み込んだ。

『な…』

ミユが目を開いた時、魔物は消えていた。元々少し水を含み、やわらかかった地面に、さらに水が染み込んでジュクジュクとしている。歩くと、変に靴が地面に沈み込むようだった。夜空の星達は下で何があったのかを知ってか知らずか、いつまでも、美しく輝いている。

テントでメーデルの手当てを受けていたメグは怪我をした肩に手を当て、さすった。すると、傷は消え、破れてしまっていたローブも元のようになった。

「凄い…。何でこんな事が出来るの?」

すでにテントに戻り、杖を片付け始めていたミユはメグの力を見て、目を見張っている。

「幼い頃から練習を積んできたから、かしらね。でも、見えないだけで皮膚は傷を負っているわ」

メグは微笑みながらミユの問いに答えた。

「そういえば、さっきの魔法って…」

ミユがソユアの方を向き、《感覚操作魔法》について尋ねかけた。

「ああ、あれですか。ザキリア将軍の魔法をお借りしました」

「でも…あれって将軍っていわれる程の人間が使っている魔法だよ?そんな事が出来るの?」

ミユは信じられない、という表情をしている。

「前にあの魔法を受けましたからね。これまでに学んだ魔法と比べたりして、私も使えるような魔法にしたんです。…私は他の魔法使いの魔力によって体が強化されているわけではありませんから」

ソユアは弱く微笑んだが、俯いてしまった。

「現代では、勇者レオン様が魔王リバルを倒されてから、二十年ですね。この時間の間に、すでに老魔術師ハクストという新たな脅威が現れ、再びこの世界を絶望のどん底に落とそうとしています。ですが、この世界の方が平和な気がします。やはり、老魔術師ハクストの力は、それ程までに強大なのでしょう」

「世界中の魔法使いから、魔力を根こそぎ絞り取って、将軍や部下達の体を強化している時期もあったんだよね。私、シルクの元にいたから危ない事も無かったんだ」

ミユが星空を見つめながら呟く。

「ソユアもメグも、あいつに家族を殺されたんだよね……だから、あいつを倒さなきゃ。あいつは今でも、私達を苦しめている。記憶という重い枷で、ね」

他の三人も、ミユの言葉に頷いた。

「……そろそろ、寝る準備をしようかしら」

メグが立ち上がり、伸びをする。

「手が空いてる人から、お風呂に入って。私、片付けをするから」

「私、入ろうかな…」

杖を片付け終わったミユはそう言って布と着替えを持ち、浴室へ行く。

「まあ、上手くいって良かったよね。私は少し休んでいるよ」

メーデルはソファに腰掛け、本を読み始めた。

(魔法が…いつの間にか弱くなってしまっています)

ソユアは椅子に座って黙り込んでいた。

(一体、なぜ…)

そして、視線を自分の杖に移す。長い間、共に魔法を学んできた杖である。ソユアがサージュの元で魔法を習い始めた時から、祖母から譲り受けたこの杖を使っていた。

(いいえ、私が弱くなってしまった事以外に理由はありません。もっと、強くならなければ…守るべき方々が、出来たのだから)

ソユアはメグ、メーデルを見る。そして、ミユのいる浴室の方へも視線を向けた。

(頑張らないと、いけませんね)

このひと時の時間はゆっくりと、過ぎ去ってゆく。


「さて、時の塔に着きましたね。きっと、《時の宝玉》はまだ時の塔に残っているはずです」

ソユア達は旅を進め、遂に時の塔にたどり着いたのであった。

「ほっ、良かったよ。もう一生時の塔にはたどり着けないんじゃないかって思った時もあったからね」

ミユがほっとしたように言った。

「ねえ、ソユア。これからどこへ行くの?というか、目的地ももう決まっているわけ?」

「いえ…。まずは、女神様の元へ戻らなければ。ミユ様達が見つかった事もミリア様に伝えなければなりませんし」

「そうか。ミリア様も私達の事を心配してくださったんだね。ありがたい」

ソユアはそっと微笑んだ。

(やはり、ミリア様は孤独ではありません。ちゃんと、気に留めてくれる人もいてくださるのに、なぜ、孤独と…。……私が渡したあの石では、ミリア様の事をお助けする事が出来なかったのでしょうか…)

ソユアはしばらくの間、考え込みながら歩いていった。良い事も悪い事も、である。

「ソユア!時の塔に着いたよ」

メーデルがソユアを現実の世界へ連れ戻した。

「あっ、そうですね。なら、上に行きましょうか」

ソユアは、時の塔の扉を開けて唱えた。

「『我、《時の宝玉》の力によって水の女神の場へ参らんとする者。時の塔よ、我らを《時の宝玉》の元へ連れていけ』」

『《水の精なる民》の声を確認。最上階へお送りします』

塔の中に、はっきりとした声が響いた。ふわっと四人の体が宙に浮かんだ。ミユ、メグ、メーデルが驚いたのも束の間、下からもの凄い速さの風が吹いて来て、塔の最上階に向かって飛ばされてゆく。あまりに速く、周りの景色すらも見る事が出来ない。急な事で少しの間放心状態になっていたメグが、やっと気が付いた時に周りを見て叫ぶ。

「いやああああああ!ソユア!一体これは何!?こんな仕組みは知らないわよ!」

「ですが…前にここに来た時もこの塔の最上階に行かれましたよね?」

ソユアは冷静に、首を傾げている。

「だってさ、前はパァァァァってなってヒューってなってドサッってなったんだもん!」

ミユが混乱し、何を言っているのかを自分でも全く分からないながら説明する。

「ミユは一体何を言ってるのよおおおお!」

メグは悲鳴を上げていた。ミユはパニック状態になり何が何なのか分からなくなってしまっている。が、そんな二人をよそにソユアとメーデルは楽しそうに会話をしていた。

「…それでですね、こういう速さが凄く気持ち良いんですよ。よく、サージュ様に敵から魔法を受けた時の訓練だって、吹き飛ばされていたんですけど…」

「確かに、そう言う事もある。私も、よく師匠に投げ飛ばされていたなあ…。ほら、ご飯をつまみ食いした時とかに、ね…」

二人共、笑い合いながら嬉しそうにお互いの幼い頃の話をしている。

「あの二人、何でそんなに平気なわけえええええええ!?」

メグは恐怖のあまり泣きそうである。ミユはすでに気を失っていた。

上から、「ゴゴゴゴゴ…」と重々しい音が聞こえてきた。それに紛れて、何か水のようなものが流れるような音がする。

「もう、終わるようですよ」

ソユアがメーデルに微笑みかける。四人とも、風がだんだんと弱くなってゆくのを感じた。一瞬だけ風が強くなって体がふわりと浮かび、四人はひんやりとした床に降りた。

『最上階に到達。案内を終了いたします』

再び、声が響く。

「案内っていうのは…」

メーデルがソユアを見た。ソユアはコク、と頷き答える。

「先程の風だったようですね」

「何でソユアもメーデルも、何とも無いのよ……」

メグが息切れしながら少し羨ましそうにソユアとメーデルを見つめている。ミユは完全に気を失い、床に寝転がっていた。

「でも、さっきの音は何だったんだろう?」

メーデルが口の下に手を当て、考え込む。

「この床が動く音ですよ。時の塔は最上階以外がほとんど階段なのです。でも、時を渡る者はすぐに最上階へ連れて来てくれるようですね」

ソユアが床を指差しながら言う。おそらく、時の塔が自動的に最上階の床を開いたのだろうとソユアは推測しているのである。

「でも、動いた形跡は無いよ」

「魔法で、跡を消す事も出来ます。では、見てみましょうか…ほら」

ソユアが杖を持ち、何かの言葉を誰にも聞き取れない程の声でささやいた。四人の足元に魔法陣が現れる。

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