プロローグ 底
誤字脱字、改行の仕方とかおかしいかもです。お許しください。
自分の脳が冷静さを取り戻し、さっきの状況を思い出す。
「さようなら。」
そして、やっぱり思い出さなければよかったと後悔した。
僕は今、これからの人生を添い遂げるとばかり思い込んでいた彼女から別れを告げられ絶望に打ちのめされていた。
二十年ばかししか生きていない若造が人生について語るのはどうかと思うが、挫折もいくつか経験してきたし、自分の人生に満足したことなんてなかった。でも、友達は少ないなりに大事にしてきたし受験という大きな壁も乗り越え、大学生活もいいものになっていくだろうと思っていた。そう、彼女のおかげで。
今回ばかりは今までの挫折とは話が違う。なんていうか、絶望の味の具合が違う。
もうどうすればいいかわからないし、これからの自分を想像できない。
言葉では形容できないほどの絶望感、喪失感、呼吸さえも億劫に感じる。
もうあの子と手を繋ぐことも強く抱くことも、匂いを感じることも許されない。
こんな言葉たちでしか言い表せない自分も嫌になってきた。
あの様子からだと復縁なんて夢のまた夢だろう。そんな目をしていた気がする。
「もう寝よう。何も考えたくない。」
そう独り言を発す。
時季は秋に片足を突っ込んでいて、まだ夏の暑さを失っていない。
季節外れに作った鍋料理をそのままにして、ベッドに寝転がる。
そして、蘇るあの子との思い出の数々。思い出したくもないのに思考はいうことを聞いてくれない。
「うっ…うぅ…」
枕を涎以外で濡らしたのは初めてだった。
そして、気が付いたら眠っていた。
数時間が経ち、起きると朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。
今日は大学で借りた本を返却し、ゼミの教授に会う用事があったがとても行く気にはなれず、ベッドからは出ないでそのまま飲まず食わずで時間を浪費していった。
---何日が経過しただろうか、ベッドでは寝返りを打つ程度で殆ど動いていない。
口に含んだものも枕元にたまたま置いてあった500mlペットボトルの3分の1程度しか入っていない水だけだった。
彼女と別れた日以来、初めて携帯を触った。画面にはいくつか着信やメールが入っていた。
気づいてはいたが無視を決め込んでいたため、結構溜まっている。
きっと同じゼミの友人が大学に来なかったため、気にかけて連絡をくれたのだろう。いい友人を持ったと思う。
大丈夫だという返事をして、通知を切る。
それからは長い時間適当に時間をつぶした。
文庫本に手を出してもただ文字の羅列を目で追い、映画は画面に映る人物がただ動いているという認識だけを持ち、音楽は音で空気が振動してるんだなという感想しか抱かなかった。
ただ、作業をしているように時間だけが過ぎていった。
携帯をいじっていると、1つの記事が目に留まった。
「『#re****』って知ってる?」
内容は以下のようなものだった。
・SNSで『#re****』と****の部分に今日の日付を打ち込み、つぶやく。
・誰の目も届かない場所で、自分が戻りたい日を強く願う。
・最後にその場で自決を図る。
・目を覚ましたらその日の朝に戻っている。
数ある都市伝説の中でもかなりマイナーなもののようで、検索をかけても知っている人は少ないようだった。
普段の自分だったらこういう類の話は全く信じないし、そうでないとしてもあまりに内容がふざけていると感じるだろう。でも、この時は迷信と断言できるそれに強く惹かれた。
この都市伝説が成功する条件として自らが『絶望の淵』にいることが大事になってくるらしい。
なぜかはわからない。もし仮にこれが真実だとして、これを創造した神さまやなんだという自分達が勝手に思い描く何かは、どうしてこういう仕組みにしたのだろう。
戻りたければいつでも戻れるようにすればよかったのに。
それに、この記事を書いた人物は誰の発言を基に書いたのだろうか。それとも実体験?
まぁどうでもいい。
あの子を失った自分にとって、そんなことやなんやらはどうでもよかったんだ。
過去に戻れるというそれに興味を惹かれただけだ。
携帯を放って、天井を見つめなあら彼女のことについてもう一度考えた。
---思えば不思議だった。
友達もそれほど多くなく、小中高とどちらかといえば陰にいるような存在として生きてきた。
文武ともに平凡という自分に対し、彼女はそれこそ一等星のような存在だった。
僕と彼女は大学に入学して最初の授業で知り合った。頭脳明晰、容姿端麗。それでいて誰にでも平等に接し、常に周りをよく見ていて困った人には手を差し伸べるような人だった。
まさに神さまそのものを具現化したようだった。
それを大学内で遊びたい盛りの男達が放っておこうとするはずもなく、多方面から言い寄られたことだろう。(ちなみに言うまでもなく、彼女に惚れたうちの脇役に僕も入っていた。)
それなのに、一年生の冬、二人きりになれたときがあり、勇気を振り絞って告白をした。ダメ元だった。
しかし、彼女は「はい」と笑顔で答えてくれた。
別にそれまでなにかきっかけになるようなことがあったわけでもない。
一緒に学食を食べたり、花見をしたり、肩を並べて帰ったり、お酒を飲んだり、そういう事象はあってもそんな雰囲気になることは絶対なかった。でも彼女はこんな僕と付き合うことを了承してくれた。本当に不思議でならない。
付き合い始めはお遊びで一緒に居てくれて、早々に別れを切り出されると疑っていたが、思っていたよりうまくいった。
初めは多方面から恨みを買われ、トラブルになりかけたこともあったが何とか切り抜け落ち着いていった。
しかし今でも噂で耳にするのは、「全然お似合いじゃない。」それは嫉妬からくるものなのか、本心から来るものなのかは定かではないが、きっと後者であろう。
中学生の時初めて彼女と呼べる人ができて(すぐに別れてしまったが)、それ以来女性との交際と呼べるものはなかった。
中途半端な性格に加え、女性慣れをしてない僕は、彼女と圧倒的に『不釣り合い』だったのだ。
僕はある時彼女に聞いた。
「僕のどんなところを好きになってくれた?」
彼女はゆっくりと顔をこちらに向ける。その表情きょとんとしていて何を考えているのかわからなかった。
「いきなりこんなこと聞かれても困るよね…。でも不思議なんだ。君が僕の彼女でいてくれることに。ほら、君って魅力的で、どんな人でも救ってあげれるような、そんな存在に見えるんだ。そんな君が僕みたいなパっとしないやつにさ、どうしてだろうって…。」
今の自分を客観的に見たら気持ち悪いなと思う。本来付き合っていること自体に誇りを持つべきなのに、悲観的にとらえてそれを言葉に表してしまう自分が心底嫌になった。しかも自分の彼女に直接。
それでもあの子は微笑みながら答えてくれた。
「君って普段からあまり明るい感じじゃないけど、たまに普段以上に真っ暗闇みたいな表情をするよね。」
「っ…。うん…。」
実際言われるとかなり堪える。
「でもね、君のその闇は純粋に見えるんだよ。」
「え?」
「君は今まで、自分で抱えているその闇のせいでうまくいかないことや苦労したこと、色々あったかもしれない。自分は弱い生き物なんだって思い込んできたのかもしれない。でも私にはその闇がただ純粋に見えた。淀んでない闇に見えたんだよ。そこに惹かれたのかもね。」
「ちょっと何言って…」
「案外君じゃなくてそれを恐れてしまう人達が弱いだけなのかもしれないね。今の友達に感謝しないとダメだよ?人付き合いが上手な友達が多いようだから。まぁ君のそれ自体に気づいていないだけかもしれないけどね。」
「さ、かーえろ」そう言って彼女は歩みを進めた。結局何が言いたかったかよくわからなかったけれど、また別の機会に聞けたら聞くとしよう。
僕たちは手を繋いで帰った。
それは親しい人と会って意味もない話をして、別れた後の帰り道みたいな、そんな季節の話だった。