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99.泥の化け物


 食後のコーヒーを飲んだあと、マリィたちは再出発する。


「魔女殿おっしゃっていた番人とは、どのようなお方なのだ?」


 リアラ皇女が尋ねると、マリィは「そうね」とつぶやきながら、昔を思い出す。

「トカゲね」

「ほぅ……トカゲが番人なのですか」

「ええ、白いトカゲね」

「ふぅむ……しかしかような小さき生き物が、禁書庫を守れるようなものか?」


 リアラ皇女は手のひらサイズの、小さなトカゲを想像した。

 しかしオセだけはわかっていた。


 この魔女の言うところのトカゲが、皆が思い描くようなものと同じではないことを。

 しばらく歩いていると湖にでた。


「わぁ……! でっかい湖ですねぇ!」


 カイトが声を張り上げる。

 確かに対岸が見えないほど、広い湖だ。

「それにしては、ちょっと湖が濁っておりますな」

「そうだな、キール。汚泥のようだ」


 帝国組が湖を見て率直な意見を述べた。

 なるほど、たしかに水は濁っており、まるで泥のようで、表面ではガスが噴出してる。

 マリィは首をかしげる。


「こんなんだったかしら……?」

『魔女さまよ、ここが目的地なのか?』

「ええ……そのはず。このあたりに禁書庫があったはず」

『しかし書庫っつーわりに建物がみあたらねえな』


 オセは、禁書庫がどこかの建物のなかにあると思ってるようだ。

 訪れたことのあるマリィは、オセの考えが間違ってることを知ってる。


 と、そのときである。

 ずずずずずず……!


「! 殿下! あちらを! 湖から……何かが這い出てきます!」


 湖の水が盛り上がり、ゆっくりと何かが顔を覗かせる。


「んなっ!? なんでありますか……あの……デカい化け物はぁ……!?」


 キールが腰を抜かす。

 彼が見上げる先にいたのは……。


 汚泥でできた、形容しがたい化け物であった。

 獣の形をしてるように見えるも、近似するものが何か、想起しずらいものがある。


 結局、泥の化け物という他ならなかった。


『あれが番人か……?』

「いやちがうわね。おかしいわ、モンスターが現れたら、番人のやつが直ぐにとんできて、やっつけるはずなのだけど……」

『番人のやつが、サボってるとか?』

「いや……そうじゃあなくて……」


 会話するオセと魔女をよそに、リアラたちは泥の化け物に怯えていた。


「ま、魔女様……!」


 カイトが救いを求めるように、マリィを見てくる。

 しかしマリィは、見るからにやる気がなかった。


『魔女さまよ! あの化け物どうみても、食えないからって、テンションだだ下がるきもちはわかる! すげえわかる! でもあんたくらいしかまともに戦えないんだ! やっつけておくれよ!』


 マリィは凄い、ものすごい、癒やそうな顔をしていた。

 美味しいに繋がらないバトルには、極力参加したくないのだ。


『ウボロォオロロロロオォオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』


 泥の化け物が叫ぶと、口から泥を吐き出す。


 それは広範囲に広がって、マリィたちに襲いかかる。


『避けろ! 毒だ!』


 毒使いであるオセは、直感で、あの化け物が吐いたのが毒だと気づいたようだ。

 襲いかかる泥の波。

 マリィはため息をつきながら右手を前に出す。


岩山隆起ロック・ブレイク


 突如、地面が隆起して、分厚い岩壁が出現する。

 見上げるほどの巨大な岩の防壁は、しかし……。


 じゅうううううううう……!


「一瞬で、防壁が溶けただと!?」

「魔女殿の魔法がなけれ……今頃……」


 帝国組は顔を青くしてつぶやく。


『おぼろろろろろおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


 泥の化け物はマリィたち……というか、マリィに狙いを定める。

 どうやら敵と認定されたようだ。


 マリィはここで一人逃げることもできた。

 そもそも食べられそうにない魔物と戦うのは、好きではない。


「! あれは……なるほど……」


 マリィは泥の化け物を見て、ひとり納得したようにうなずく。


『どーすんだよ魔女さま? 一時撤退か?』

「いや、戦闘続行よ」

『は? なんでだよ、食べられる魔物じゃあねえぞありゃ』

「わかってる。でも、私は、あいつに用事があるのよ」


 びしっ、とマリィが化け物を指さす。


「禁書庫の、番人……ね」

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