98.あくなき食欲
※すみません
93~94話ぐらいで、ドラゴンが出ていたのですが、あのタイミングで出るのはミスでしたので、修正させていただきました。
感想で教えてくださった方、ありがとうございます!
マリィはカイトの作った、チョコレートケーキを食べてご満悦の表情。
一方、リアラ皇女と部下キールは、マリィの食いっぷりにただ驚いていた。
「カイト。今日もおいしいデザート、ありがとう」
「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
カイトが至福の表情をうかべ、ふにゃりとその場に倒れる。
「だ、大丈夫なのかカイト少年っ」
リアラはカイトを抱き起こす。
彼はうっとりとした表情でつぶやく。
「まじょしゃまにほめられて……うれしいれふぅ~……♡」
「そ、そうか……無事なら何よりだ……」
リアラ皇女はほっと安堵の息をつく。
マリィたちにとってはいつものやりとりだけど、外部の人間からすれば見慣れぬ光景。
「しっかし魔女様は、よく食べるのでありますなぁ」
キールが目を丸くしながら、たった今からになった皿を見やる。
カイトの上半身くらいある、でかいケーキを、マリィは全部一人で食べたのだ。
「あの質量はどこへいったのでありますか……魔女様はこんだけ食べても、細身で素敵でありますのに」
『全部魔力に変換されてるんだとよ』
魔法を使う力、魔力。
人間の場合、寝ないと回復しないのだが、マリィは食事をすることで、魔力を快復させられるのだ。
「そ、それってすごいことではないかっ? さすが魔女殿だ!」
普通寝ないと快復しない魔力を、別の手段で快復させているのは、たしかにマリィにしかできない芸当である。
『んで、魔女さまよ。これからどーすんの?』
黒猫オセがマリィに尋ねる。
どうする、というのはこの先のことだ。
『あんたもう、デザート食って満足しただろ? 蓬莱山の奥へ行く用事はなくなったんじゃあねえの?』
マリィはそもそも、この蓬莱山に、おいしいデザートを食べに来たのだ。
人助けだとカイトたちは勘違いしてるけども。
チョコレートケーキを食べたことで、食欲はつきてしまい、この先へ進む同期を失ったのではないか……とオセは思った。
しかしである。
「バカ言いなさい。こんなので満足できるわけないでしょう」
マリィは横になりながら、にやりと笑う。
「わたしの食欲は……宇宙よ」
『真顔でぼけてんじゃあねえよ……つまりまだ満足してないわけだな』
「そのとおり。おいしいデザートが、たくさん食べられそうな予感もしたしね」
『あん? どういうことだよ』
しゃべりすぎたのか、マリィは若干喉が渇いた。
そこへすかさず、カイトが手に持っているものを差し出す。
「どうぞ!」
「ありがとう。気が利くわね」
「えへへっ♡」
カイトが差し出したのは、マグカップだ。
中には甘さ控えめのコーヒーが入っている。
マリィはカイトの優秀(なぱしり犬っぷり)に感心した。
カイトはどうぞどうぞ、とリアラ皇女たちの分のコーヒーも配る。
「さっきのトレントだけど、他者の魔力の痕跡がついていたわ」
『たしゃ……? つまりどういうことだ?』
「誰かがあのトレントを、改造したってわけよ。おそらく……魔法ね」
『なっ!? ま、魔法だと!? そんなの……ありえねえだろ!』
そう……あり得ないことだ。
カイトも、そしてリアラたちも目を丸くしている。
「魔女殿以外に、魔法が使えるお方がいるなんて……」
そう、今この世界では、魔法は衰退して、誰も使えないのである(マリィ除く)。
つまりトレントを改造した人間もまた……。
『魔法使いが、蓬莱山にいるってえわけか』
「確証はないけどね。魔法、あるいは、それに準ずる術を使ってるのは確かよ」
『マジかよ……』
オセは戦慄する。
この世界において、魔法使い(マリィ)は、無双の力を持っている。
『あんたみたいなのがほかにも居たら、この世界やばいんじゃあねえの?』
衰退世界において魔法は国を滅ぼすことができる、唯一にして無二の技術だ。
マリィは、食欲以外に興味が無いからいいものの、その魔法使い(暫定)が蓬莱山の外に出たら……。
「下界は……大変なことになるな」
ごくり、とリアラ皇女が息をのむ。
一方でマリィはにやりと笑った。
「俄然、会いたくなったわ」
「! そ、それは……つまり……!」
「ええ、そういうことよ」
「そういうことなのですねー!」
リアラ皇女が目をキラキラさせ、マリィに尊敬のまなざしを向ける。
「この世界に悪をもたらす、その悪い魔法使いを、魔女様が倒してくださる、そういうことですねー!」
カイトもまた目をきらっきらさせている。
リアラ皇女とカイトは手を取り合う。
「やっぱり魔女殿は優れた人格の持ち主!」
「魔女様は最高ですよねー!」
きゃっきゃ、と盛り上がる二人をよそに、オセはあきれたような表情で、マリィを見やる。
『んで? なんで会いに行きてえの?』
「トレントをお菓子の化け物に変えるみたいな、そんな素敵な魔法を使えるやつがいるなら……是非ともあって、その魔法を習得したいからに決まってるじゃあないの!」
『食べるため?』
「ったりまえでしょ!」
ほかに何があるの? とばかりにマリィが言う。
「魔物をお菓子のモンスターに変えるなんて、最高だわ! 好きなときにあのうまうまおやつを食べれるなんて! くぅ! どんな呪文なのかしら!」
とまあマリィは己の食欲を満たすために、どうやらこの蓬莱山にいるという、魔法使い(暫定)似合いにいくようだ。
一方、カイトとリアラ皇女は、蓬莱山に住む悪い魔法使い=帝国にピンチをもたらしてる元凶、それをマリィが倒しに行くと勘違いしてるのである。
「な、なんでありますか……この異様な空間……」
『お、わかるかい、キールの兄ちゃん。だよな、変だよなこいつら』
うんうん、とオセとキールは、そううなずき合うのだった。