97.チョコレートケーキ
マリィは人面樹を撃退。
人面樹はチョコレートでできており、樹液はクリームだった。
異様な魔物だろうと、マリィにとっては美味しいご飯が食べられるのなら関係ない。
カイトに調理を任せることにした。
「あれ? 魔女様~。魔道具が使えません!」
マリィが作った魔道具、どこでもレストランが、作動しないのだ。
いつもだったら敷物をしいたら、異空間への扉が開いたというのに。
少し考えて、マリィは自分の見解を述べる。
「おそらくここが異空間だからでしょうね」
『どういうこった?』
「あれは現世と異空間をつなげる魔道具なのよ。異空間どうしだと干渉し合って、正常に機能しないのよね」
『まあ……言いたいことはわかるような、わからないような。むずい……』
とにかく、どこでもレストランは使えないようだ。
「困ったわね、レストランがないと調理できない……」
それは大変困った。
だが、マリィはふと考える。
「ねえ、皇女」
「む? なんだ!」
「あなたの城って、厨房ある?」
「あるが……それがどうしたのだ?」
「貸して」
「え?」
「厨房、かして」
マリィの圧に、リアラ皇女がおずおずとうなずく。
言質を取ったマリィは、ふんす、と鼻息を着く。
リアラの部下、キールは首をかしげながら、魔女に問いかける。
「ま、魔女様……なにをなさるおつもりで?」
「ん? 帝城へ転移する」
「なっ!? ま、魔女様……それは無理です!」
キールは無理だとハッキリ断定した。
『なんでだよ?』
「我ら調査部隊が、かつて蓬莱山にやってきたとき、帰還のために転移結晶を使おうとしたのです」
転移結晶。
転移の魔法が付与された魔道具だ。
魔法が衰退したこの世界において、超稀少なアイテムではあるが、皇女直属の部隊と言うことで、皇帝陛下からさずけてもらったのである。
「転移結晶を使おうして、しかし正常に発動しませんでした」
『なるほど、転移を阻害する呪いかなにかがかかってるわけだな。つーわけだ、魔女さまよ、帰るのは無理だぜ?』
しかしマリィはフッ……と鼻で笑う。
「この程度の呪いで、私の歩みを止めようなんぞ、片腹痛いわ!」
マリィは右手を天井にかかげる。
空中に魔法陣が展開する。
「【解呪】!」
ぱきぃんん! とガラスの割れるおととともに……。
『んなっ!? そ、空が……赤い空が、青くなっていくぅう!?』
先ほどまで、蓬莱山の頭上には赤い空が広がっていた。
しかしマリィが解呪の魔法を使用したとたん、青空へと変わったのである。
「【転移】」
それは、空間をつなげる超高度な魔法だ。
その向こうには……。
「て、帝城の、厨房!?」
リアラが驚愕する。
転移結晶が使えないと言われていた中で、転移を使って見せたのだ。
「ま、魔女殿……すごい……!」
「カイト、このチョコを使って、美味しいものを作ってきなさい」
リアラをガン無視して、マリィはカイトにそう命じる。
彼はうなずくと、両手に一杯にチョコの人面樹を持って、【転移】をくぐっていった。
マリィは敷物をしいて、優雅に座る。
カイトが帰ってくるまで、期待に胸を膨らませる……。
やがて……。
「できました……! 魔女様!」
厨房から帰ってきたカイトの手には……。
「チョコレートケーキ……!」
マリィの目が星空のように輝く。
カイトの手には、それはもう大きく、見事なチョコのホールケーキがにぎられていたからだ。
ただのホールケーキではない。
カイトの背の半分くらいの高さのある、まるでウェディングケーキのような外観をしていた。
マリィはそのケーキのあまりのおいしそうな見た目に、くらり……と倒れそうになる。
「か、カイト! でかしたわ! なんて美味しそうなのっ!」
「ありがとうございます! さぁ魔女様、こちらを!」
「! その、シャベルみたいなスプーンで、すくってたべていいとぉ!?」
「はい! どうぞ!」
マリィは笑顔になると、シャベルスプーンを手に、ざくざくとチョコケーキをほって食べていく。
「うま~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~い!」
チョコレートソースは少し苦みがあるも、ホイップクリームが間にはさまっており、クリームの甘さが逆に引き立つ。
ざくざくとした食感のチョコまでまぜてあって、味にあきがぜんぜんしない。
猛烈な速度でチョコケーキを食らっていく魔女。
その様子を、リアラたちはぽかんとしながら見ていた。
……そして、オセが神妙な顔つきでつぶやく。
『呪いを解くってことは、かけた相手に呪いが帰った……てことだ。呪詛返し。多分これで敵に、魔女さまたちのことが知られちまったな……』
だがそんなのまったく気にせず、マリィはのんきにチョコケーキをほおばって「うーまーーい!」と叫ぶのだった。」