95.ご立腹
マリィはまず禁書庫を目指す。
勝手に尊敬されてるとは知らず(というか興味すらない)、進んでいく。
「ねえ、あなた」
「じ、自分でありますか……?」
マリィがキールに言う。
「そう、あなた。ねえ、あなたが身体から生やしていた果物って、どこでどうやって植え付けられたの? 見当たらないんだけど、この辺に」
マリィが求めているのは、蓬莱山に存在する甘い甘い果実だ。
キールは果実の種を植え付けられていた。
それと同種の果実は、しかし周りを見渡しても見当たらないのである。
「ええと……それがよく覚えてなくて……。でも、この辺でじゃあない、と思います」
「その根拠は?」
マリィはおなかがすいてきて、イライラしだしていた。
「おれらが入ったのは、確かもっと花があちこちに咲いていました。ですが、このあたりには花が見当たらないです」
『蓬莱山も地区がわかれてるんじゃあねえの? 果実ゾーン、森ゾーンみたいに』
「ちっ……」
森なんて、意味が無い。
だって食べられないじゃあないか。
マリィは空腹だった。すごく腹が減っていた。
いちはやくご飯が食べたかった。
と、そのときである。
そのときである。
がさがさ……!
「! 敵かしら?」
ずずずず……と地面が盛り上がっていく。
全員がおびえる中、マリィはにやりと笑う。
「ちょうどいい、私の糧となりなさい」
マリィは魔物を平然と食べる。
この時代、この世界では魔物食いは禁忌とされているのだが、マリィには知ったこっちゃないのである。
魔物が出てきたのであれば、ちょうどいい。
食べてやる……と思ったのだが。
「ウロォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「……人面樹」
出現したのは巨大な、人面樹であった。
幹に顔のついた、木の魔物である。
……さて、当然ながら。
「食べられないじゃないのよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
マリィ、ご立腹だった。