92.次元の狭間
マリィ一行は、蓬莱山へと向かうことになった。
その前に、蓬莱山の情報を集めるため、古今東西の叡智が詰まっているという、禁書庫へ行くことになったのだった。
「で、なんでまた人が増えているの?」
帝城の庭にて。
リアラ皇女と、その部下である軍人、キールが立っている。
「わたくしめも微力ながらお手伝いさせていただきたい!」
『キール……だっけか。そういやこいつ、蓬莱山から一人だけ生きて帰ってきたんだっけか?』
「はいであります! なので、少しならば案内できるかと」
キールはどうやら奥までいった経験はないらしい。
「足手まといね」
「うぐ……そ、そうであります……ね。でも! リアラ殿下をお守りしたいのであります!」
マリィは若干いらっとした顔になる。
彼女の目的は、蓬莱山の美味しい果物を、いち早く食べることだ。
どう見てもこのキール、そしてリアラはこちらの足を引っ張る、障害でしかない。
本当のことを言うならリアラもおいてきたい……が。
「あ、そ。勝手にすれば」
リアラにもしものことがあったとき、そっちを守るリソースを割くよりは、盾を用意しておいた方がいいだろう。
そう判断して、着いてくことを許可したのだ。
『んで、魔女さまよ。その禁書庫っつーのはどこにあるんだよ?』
「次元の狭間よ」
『だからそれ、どこから行けばいいんだよ』
「? 次元の切れ目から入っていけばいいじゃないの」
ほら、とマリィが指さす。
だがオセも、そしてリアラ皇女たちも首をかしげる。
どう見ても何もない空間にしか見えないのだ。
マリィはため息をついて、右手を前に出す。
マリィは魔法を発動させる。
どがぁあああああああああああああん!
「うぉお! す、すごいのであります……これが、噂に聞く、伝説の極大魔法!」
「いや、ただの火球だけど」
「初級魔法でこの威力! さすがでございます! 魔女様!」
マリィの放った火の玉。
それは何もないところで着弾した……はずだった。
「! 皆さん見てください! なにか……裂け目ができてます!」
カイトが指さすさきには、何もない空間に、縦に裂けた切れ目があった。
その向こうには、帝城の庭とは別の世界が広がっているように見えた。
「さ、いくわよ」
マリィを先頭に、裂け目の中へと入っていく。
『ここが次元の狭間にあるっていう、禁書庫? ただの森じゃあねえか……?』
森というには、少々、異質な感じがした。
その正体には直ぐに気づく。
「空が……赤いですね。なんだか不気味です」
夕暮れというより、血の赤に近い空が、どこまでも続いてるのだ。
どさ……とキールがその場に倒れ伏す。
「ど、どうしたのだキール!?」
リアラ皇女がすぐさま近づいて、彼の肩を揺する。
彼は恐怖で震えながら、空を指さす。
「あ、赤い空……こ、ここです!」
「ここ? ここがどうした?」
「ここが! 蓬莱山です!」
はて、とマリィたちが首をかしげる。
「禁書庫のある、次元の狭間よここ。ちがう場所でしょ」
「いや! ここです! おれたちが迷い込んだのは、この赤い空の広がる、不気味な森でした!」
なるほど……とオセが納得いったようにうなずく。
『……つまり禁書庫と蓬莱山は、同じ次元の狭間にあるってことか』
「手間が省けたわ。まずは禁書庫へ行くわよ」
恐れず、堂々と進んでいくマリィ。
そんなカノジョの姿に、キラキラとした目を、キールが向ける。
「こんな危険な場所を、恐れず進んでいくだなんて……」
「そうです、魔女様は、勇気ある素晴らしいお方なのです!」
カイトが誇らしげに言う。
だが単に、マリィは早くデザートを食べたい、ただそれだけで、急いでるだけだった。
恐れとか、そんなものみじんも感じていなかった。
それより食欲。そう、彼女はエゴイスト魔女であり、食欲魔神なのである。