91.禁書庫
マリィ一行は、帝国に突如出現した幻の存在、蓬莱山へと向かうことにした。
目的は蓬莱山にいって、帰ってこなくなった帝国民たちの調査。
……というのが表向きの理由で、本当の目的は、蓬莱山にある美味しい果実を使って、デザートを作るためだ。
『つってもよぉ、仙人の住む伝説の島なんて、無策で突っ込んで大丈夫なもんかね?』
「確かにそうですね。もう何人も犠牲者が出てるわけですし……仙人について、魔女様はどれくらい知ってます?」
マリィは息をついて言う。
「そこまで詳しいわけじゃあないわ。本で見たくらい。転生前だし、だいぶ記憶はおぼろげね」
『本って……どこにのってんだよ、そんな幻の存在が』
「禁書庫」
『きんしょこぉ?』
聞き覚えが無いのか、オセも、そして皇帝親子も首をかしげた。
「この星に存在する、あらゆる叡智が集められた、不思議な図書館のことよ」
『んなもんどこにあるんだよ』
「示現の狭間ね」
『じげ……そんなとこ、よくいけたな』
「女神に選ばれし賢なる者なら誰でも入れるらしいわ」
『け、けんなる……もの……』
……とても、マリィには似つかないワードだった。
マリィは不愉快に思ったのか、魔法を発動させる。
『ぐええええ!』
風魔法、風重圧によってオセが潰れる。
「その、禁書庫には、魔女殿が昔呼んだことのある、蓬莱山にまつわる記述が書いた本があると?」
カリバーン皇帝がマリィに尋ねる。
こくん、とうなずいてマリィが言う。
「確か地図もあったはずだわ」
「! それは……是非とも手に入れたいですね! 何があるかわかりませんし……」
カイトの言うとおり、これから未知の場所へ行くならば、情報をある程度仕入れておく必要があった。
「そうね。じゃあ、ちょっと蓬莱山に行く前に、禁書庫へいって、【あいつ】から情報をぶんどってきましょうか」
「あいつ……?」
「禁書庫の番人よ」
番人。
つまり、禁書を守る存在が居るということだ。
「そうと決まれば話は早いわ。さくっと行ってきましょう」
「わ、私も同行してよろしいでしょうか!」
カリバーンの娘、リアラ皇女が手を上げる。
「蓬莱山には、未だ帰らぬ私の部下が多数います。私も……助けに行きたいのです!」
『でもよぉ、あんたの父ちゃんは許してくれるのか? あんた皇帝の娘なだろ? いかせてくれるのかね?』
オセの言うとおり、皇女をそんな危ない場所へ連れてっていいものか。
リアラは父に頭を下げる。
「お願いします、父上! どうか……」
「…………ならぬ」
リアラががっくりと肩を落とす。
「だが、皇女リアラ=ディ=マデューカスとしてではなく、リアラ個人として行くならば、それは当人の自由だ」
「! 父上……! それって……」
ふっ、と微笑んで、カリバーンが彼女の頭をなでる。
「いってきなさい」
「はい!」
一方でマリィは、同行者が増えることにして、どうでも良いと思っていた。
マリィの関心事は食べることしかないので。
食べる取り分が減らなければ、どうでもいいと思ってるのだった。
「さっさといくわよ、禁書庫へ」