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09.コカトリスのケバブサンド



 魔女マリィと従者カイトは、彼の特別な調理道具があるという街へと向かう。


 その道中での出来事だ。


「あら、何かしらあれ?」

「鶏……ですかね」


 街道を進むと、街付近に、巨大な鶏がいたのだ。

 いや、よく見ると下半身にどことなく竜のようなパーツが見える。


「思い出した! あれ、コカトリスですよ」

「ああ……石化の魔眼を持つってモンスターね」


 転生前のマリィも戦ったことがある。そんなに強い敵じゃなかった……はず。


「…………」


 さて面倒だ。あの町にいって、カイトの調理道具を回収したいのに。

 街の入口にあんな鶏の化け物がいては、入れないじゃないか。


「…………」


 別に瞬殺するのはわけない。だがほっといても、街の連中がどうにかするのではないだろうか。

 わざわざマリィが出張る必要もない。


「マリィ様っ。大変です、あの化け物は石化の力を持っておられます! 早くたおさないと甚大な被害が出るかと!」


 だからなんだ。別に戦う義理は自分にはない。と思うマリィ。


 そのときだ。


 ぐぅうう……。


「…………」


 腹が減った。ついさっき、熊ステーキを食べたばかりのはずだったのだが。

 ドラゴンステーキ以上のインパクトがなかったせいか、あまり満足がいってなかったのだ。


 ふと、マリィは口にする。


「カイト。鶏肉を使った美味しい料理って、作れる? ステーキ以外で、今の手持ちの調味料と道具で」


 カイトは、魔女が何をいきなり言い出してるのだろうと首をかしげる。

 今は人命がかかってる状況なのに……いや、と思います。


(魔女様のことだから、きっと何か、僕にはわからない、深い考えがあるに決まってる!)※ない


 カイトは頭をひねらせて、口にする。


「ケバブ! ケバブサンドなら作れます!」

「ほぅ……ケバブ。それはおいしいの?」

「はい!」


 たおすモチベができた。ケバブ。なんだそれは。聞いたことない食べ物だ。

 未知なる【おいしい】が、そこにある。

 ならサクッとぶっ殺そうじゃあないか。

 鶏肉が必要、ということで、いつものように【風刃ウィンド・エッジ】で攻撃する。


「ゲゲゲーーーーー!!!!」

「ちっ……ちょこざいな」


 コカトリスは空を飛んでマリィの攻撃を回避して見せたのだ。

 そして、石化の光線を放ってくる。


 紫色の怪光線がマリィの足下に直撃する。


「魔女様! ああ危ない!」


 土煙が発生し……。マリィの体は、コカトリスによって石化……。


「問題ないわ」

「ゲゲゲェーーーーーーーー!?」


 コカトリスが驚愕する。確かに石化の光線を当てたはず。だというのに、マリィは無傷だった。


「運がなかったわね、あなた。私には反魔法領域アンチ・マジックフィールドが、常に展開されているのよ」


 反魔法領域アンチ・マジックフィールド。マリィの作った術式だ。


 彼女の体には結界の術式が付与されており、敵からの攻撃魔法が接近した瞬間に術式が発動。


 薄い結界が彼女の周囲に展開して、敵の魔法を無効化するのだ。


「す、すごいです魔女様! さすがです!」

「こんなの、前世じゃ常識よ。さて、あなた、風を読むのね。鳥の化け物だからかしら」


 マリィの風魔法は、ドラゴンすら避けられないほどのスピードを誇る。

 それを回避して見せたのだとしたら、風を読んでいたとしか考えられない。


「なら【落雷ショック・ボルト】」


 マリィが人差し指を、コカトリスに向ける。

 その瞬間、指の先から一筋の雷が発生。

 目視できないスピードでコカトリスの顔面に直撃する。

 びくんっ! と体を硬直させた後、どさりと倒れた。


「あら? おかしいわね?」


 呆然とするカイト。そして……。

 離れた場所には、冒険者らしき人物達がいた。


「なんだ今の……?」「急にあの化け物が倒れたぞ……?」「あの嬢ちゃんがやったのか?」「一体何を……?」


 困惑する冒険者達をよそに、マリィはコカトリスの元へと向かう。

 敵は白目を剥いて、完全に死亡していた。


 マリィはあきれたようにため息をつく。

「対象を麻痺させる、状態異常の魔法ごときで、何を死んでるんだか」


 そう、今のは攻撃魔法ですらなかった。

 離れた場所にいる敵を、一時的に麻痺させるだけの、威力の弱い雷。

 だが、マリィの恐るべき魔法力が、魔法の力を底上げしてたのだ。


「未来のコカトリスは、魔法の衰退と共に弱くなったのね」


 それは違う。単にマリィが前世よりも強くなっていたと言うだけだ。

 無論彼女が言っていた部分も確かに正解ではあるのだが。


「ま、良いわ」


 マリィは【風刃ウィンド・エッジ】でズタズタに引き裂いて、コカトリスの肉を回収。

 収納魔法を使用して、肉をその場から消した。


 するとオーディエンスたちは、


「えええ!?」「なんだ今のは!?」「あの化け物が消えたぞ!?」「どうなってるんだぁ……!」


 と大騒ぎしているのだが、腹ぺこなマリィの耳には聞こえない。

 さっさとカイトの元へ行き、鶏の肉を渡す。


「さすがです魔女様!」

「いいからケバブを作りなさい、今すぐ、なう」

「はい!」


 そう言って、カイトは調理を開始する。

 まず、鉄の串が必要だった。

 マリィはカイトから頼まれて、【串】を調達してくる。


「【これ】使っていいんですか?」

「ええ、良いっていうんだから使っちゃいなさい」


 串に切りきざんだ肉をぶっさしていく。それはもう、大量に肉を突き刺しまくる。

「ただ肉を串に刺しただけ?」

「ここからが違うんです」


 串の下に炭火をたいてあぶっていく。すると積み重なった肉切れの塊が、じゅうじゅうと音を立てながら焼けていく。


 カイトは石のナイフを使って、肉塊の表面を削っていく。

 表面を削り、あぶって、また削る。そうすることで少しずつ、葉っぱのお皿の上に、焼いた鶏肉が積み重なっていった。

 次にカイトは、奴隷商の馬車から拝借した、保存用のパンを用意。


「ほんとは手でこねたパンのほうがおいしんですけど……」

「パンも作れるのか! すごいな、君は!」

「ありがごうざいます! へへっ、魔女様に褒められてしまいました~♪」


 硬いパンの上に焼いた鶏肉、そして乾燥した薬草に、乾燥木の実等をすりつぶして作った辛めのソース。


 それらをすべてパンに挟んで、完成。


「できました! ケバブサンドです!」


 肉をパンで挟み、さらに野菜を載せる。それは【この世界では】、あり得ない食しかただ。

 マリィはキラキラと目を輝かせながら、ケバブサンドを頬張る。


「どう、ですかね……やっぱり新鮮なお野菜のほうが、おいしいですよね。すみません、あ、でもお肉がモンスターのなんで、薬草はにおい消しにもなって……」

「おかわり……!!!!」


 マリィは、もう一つペロッと食べ終えていた。

 目をキラキラと、まるで星空のように輝かせながらマリィは熱弁する。


「うまい! なんてうまいんだ! この肉と、薬草と、パン! 三つの異なる食感と、辛めのソースとがあいまって、噛めば噛むほどうまみがあふれてくる……!」


 カイトが呆然としながらも、2つめのサンドを作って渡す。

 即座にマリィがむしゃむしゃ食べて、幸せそうに表情をとろかせる。


「ただ焼いた肉なのに、美味すぎる! そうか、野菜とパンと一緒に食うことで、異なる食感を同じに楽しめるのだな! 極めつけはこの甘辛いソース! どうやって作ったのだ!? 甘いのに辛いなんて!」

「き、木の実と果実と野菜を混ぜて作りました」 


 マリィは感激したのか、食べ終わった後、ぽんぽんと彼の肩を叩く。


「最高だった! ありがとう!」


 ぱぁ……とカイトは表情を明るくして、ふにゃりととろけた笑みを浮かべる。


 ……そんな二人を、冒険者達は遠巻きにじっと見つめていたのだった。

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