89.嘘を見抜く
マリィたちは帝城へとやってきた。
食べ飽きたホットドッグを振る舞ったあと……。
マリィは豪華な部屋に通される。
『質素な城とは、不釣り合いな、豪華な部屋だなここ』
「来賓室だそうです」
ソファに座るカイトとマリィ。
カイトの胸にはオセが抱っこされている。
来賓室は赤絨毯がひかれ、天井からはシャンデリアがつるされている。
『なるほど、見栄っぱりってやつだな。他国になめられないようにってよ』
マリィはイライラしていた。
そんなのどうでもよかった。
早く帝国の美味しいご飯を食べたくてしょうがないのである。
「お待たせしました」
「きたかっ!」
執事服に身を包んだ老紳士が、マリィたちのもとへやってくる。
スッ……と頭を下げてきた。
「私はカリバーンと申しまして、この皇室にお仕えする、しがない執事であります」
『ふーん……おっさん、執事なのね』
「ええ、そうでございます、使い魔さま」
どうやらカリバーンは、オセのことをマリィの使い魔だと思ってるようだ。
まあしゃべる猫なんで、そう思われてもしかたないのだが。
カリバーンと呼ばれた老紳士の眼光は鋭く、ともすれば猛禽類のようだ。
銀髪をなでつけている。体は鍛えているのか筋肉質で、背筋はピンと伸びている。
「私めが腕によりをかけて作ったお菓子を、とくとご賞味ください」
カリバーンはカートを手で押しながら、マリィたちの前へと持ってくる。
『おお! なかなかのケーキじゃあねえか!』
ホールケーキがいくつも載っていた。
オセが目を輝かせる。チョコにショートケーキ、なるほど、おいしそうだ。
しかし……。
「嘘ね」
「? 嘘……とは?」
カリバーンをぎろり、とにらみつけるマリィ。
「こんな程度の低い嘘で、私をだませると思って?」
『う、嘘……? どういうことだよ、魔女様? このおっさんが何か嘘ついてるっていうのか?』
「ええ……私の目はごまかせないわ」
するとカリバーンは……フッ、と笑うと、頭を下げてきた。
「お見それいたしました、魔女殿。まさかこの私が皇帝であることを、見抜いているとは」
『んなっ!? こ、皇帝!? このカリバーンが……皇帝だっていうのか!?』
「ええ。私はカリバーン=ディ=マデューカス。この帝国の、長でございます」
カリバーンはどうやら皇帝だったらしい。
「あなた様を試すようなマネをして、申し訳ない」
『なんでそんなこと……』
「皇帝のまえではかしこまってしまわれるだろう。魔女様の魂の色を、この目で直接見たかったのだ」
『試したってわけか……しかし魔女さま、、見抜くとは……』
ふと、オセは気づく。
マリィが怪訝そうな顔で首をかしげていた。
……あれ?
これもしかして……。
『あ、あんた……皇帝だって見抜いてなかった?』
「ええ。というか興味ないわ」
『はああ!? じゃ、じゃあ嘘とか言ってたのって……』
びしっ、とマリィがカート上のケーキを指さす。
「それ……冷凍品じゃない!!!!!」
『怒るとこ、そこ!?』
「そうよ! 帝国の美味しいおかしを期待してたのに! 冷凍品だなんて! きぃ……!」
どうやら嘘ってそのことだったようだ。
てっきり皇帝の変装を見抜いたのかとばかり思っていたので……。
「さすがです魔女様! 皇帝の変装を見抜くだなんて!」
『小僧!? 聞いてた!? こいつ……ケーキのことしか言ってない……』
「いえいえ、きっと魔女様は気づいて羅したのです。でもそれを指摘すると、相手に恥をかかせるから、あえてとぼけてるのです!」
『全肯定しすぎだろ! 目ぇあけてるのかおまえよぉお!』