表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

88/142

88.英雄ではなくエゴイスト



 マリィ一行はマデューカス帝国の皇女、リアラ=ディ=マデューカスに誘われて、帝都カーターにある、帝城へとやってきた。


「ゲータ・ニィガとはまた趣が違ってるわね」


 彼女の出身地、ゲータ・ニィガの王国は、豪華な外装内装の、誰がどう見ても偉い人の住んでいる城とわかるものだった。

 一方で、帝城はというと、実に質素だ。


 四角い、縦に長いブロックのような見た目をしてる。

 しかも高さもそんなにないし、広くもない。


「父上は見た目より中身を優先させるお方なのだ」


 馬に乗ったリアラ皇女が、城を見上げながら、どこか誇らしげに言う。


「見た目に金をつぎ込むくらいなら、中身を充実させろと、常々言っておられる!」

「なるほど! 素敵なお父様ですねー!」


 カイトがにこやかに言うと、リアラ皇女はうれしそうに何度もうなずいた。

 マリィは実に堂でもいいっといった感じで、先ほどのホットドッグを、椅子に座りながら食べている。


『んで、皇女さんよ。これからどうするんだ、おれたちはよ』

「少し控室でお待ちくだされ。わたしは今日のことを父上にご報告してまいる。しかるのち、父と謁見してもらう」

『そりゃいいが、この食欲モンスター、ほっとくと暴れ出すぜ?』


 食欲モンスターとは、誰であろうマリィのことである。

 だがそれがマリィをさしてるのだと、当の本人は全く気付いていなかった。


 悪魔オセの言う通り、あんまり待たせるとマリィがキレかねない。

 そうなったときのしりぬぐいはオセの仕事である。


「晩餐の支度には時間がかかりますが、シェフに頼んで何かつまむものをご用意いたそう」

「楽しみにしてるわ」


 先ほどまで会話にまったくからんでこなかったマリィが、急に反応を示す。

 ウキウキで言う。


「つまむもの……なにかしらっ。帝都のデザート? たのしみ!」

『期待してるとこ悪いがよぉ、多分期待は裏切られるぜぇ?』


 オセがため息交じりに言う。

 その視線の先にうつるのは、城を警備する軍人たちの姿だ。


 みなうつむいたり、怪我したりしてる。

 帝都の民と同じような状況だ。


 リアラ皇女は憂い顔で言う。


「申し訳ない……帝国は今疲弊してるのだ」

『なんか事情があんのかよ?』

「うむ……猫殿も見たであろう? あの魔物の大軍を」

『あれは、今に始まったことじゃあねえってことか?』

「そのとおりだ。あれの対処に体力をそがれて、みな……」


 どうやら帝国は、かなり深刻な状況のようだ。

 オセ、そしてカイトは同情的なまなざしをリアラに向ける。


 が、マリィはというと。


「カイト」

「はい!」

「これ」


 そういって、空間に収納していた、大量のホットドッグを、空中に浮かせる。


「! なるほど! そういうことですね!」


 カイトはわが意を居たりとばかりに、御者台から降りる。


「運転は魔法でやるから」

「わかりました! いってきます!」

「ええ、お願いね」


 マリィを乗せた馬車が帝城へと向かう一方で、カイトは大量のホットドッグを抱えた状態で、軍人たちのもとへいく。


「おつかれさまです! 皆さん! こちらをどうぞ!」


 そういってカイトお手製のホットドッグを一人一人に配っていく。

 ただよううまそうなにおいに、みなごくりと唾をのみ、がつがつと食べていく。


「う、うめえ!」「うますぎる!」「涙が出るぅう!」


 そんな風にがつがつ食べている軍人たちのもとへ、リアラ皇女がやってきた。


「か、カイト殿、いったいなにを?」

「配給です! 魔女様からの、ご命令で!」

「配給? 魔女殿が、この食料を皆に配れと?」

「はい! 魔女様は慈悲深いお方です……さきほども、城の外の人たちにホットドッグを振る舞っておりました! 軍人さんたちもお疲れのようなので、この食べ物をふるまい、元気づけなさい……と!」


 じわ……とリアラ皇女と、軍人たちの目に涙が浮かぶ。


「なんというおかただ! なんて優しいお方なんだ! 帝都をすくっただけでなく、食事も恵んでくれるだなんて!」


 リアラ皇女、そして軍人たちがおいおいと泣く。

 カイトは目を閉じて感じ入った様子で言う。


「魔女様がきたからには、もう安心です! 魔女様はこの帝国を救って下さるおつもりです!」

「! そうなのか、カイト殿!」


 リアラ皇女が言うと、カイトは笑顔でうなずく。


「はい! だからこそ、魔女様がこの城を訪れたのです!」

「ああ、なんというおかただ! まだこちらから依頼していないのに、帝都を救って下さるんて! 慈悲深い! まるで女神さまのようじゃあないか!」


 ……さて、勝手に盛り上がる一方、馬車の中では。


「デザートデザート、るんるるーん♪」


 マリィはのんきに鼻歌なんて歌っている。

 オセは呆れた調子でため息をつきながら尋ねる。


『魔女さまよ、なんでホットドッグなんて与えたんだ?』

「え、ご飯食べて、甘いものが食べたくなったからだけど?」


 ……そう、もうホットドッグいっぱい食べ過ぎたので、いらないと、処分させようとしただけだったのだ。

 それをカイトが勘違いして、彼らに恵んだとなってしまっている。


『そんなこったろうと思ってたよ……で、どうするんだ? 多分皇族はあんたに依頼してくるぜ? 魔物退治とか』

「条件次第かしらね」

『金?』

「あなた、バカ? おいしいごはんにありつけるかどうかよ」

『だろうよ……』


 もしも帝国の料理がまずかったら、依頼を聞くまでもなく、帰るつもりだ。


『あんたはなんというか、ぶれないな。さすが、エゴイスト魔女』


 マリィは別に正義の味方ではない。

 己の食欲を満たすために行動してるにすぎないのだ。

 

 それをカイトというインフルエンサー(誤解)の手によって、救いの魔女、マリィとして広まっているだけである。

 だが実態はたんなる、食欲お化けな魔女なのだ。


「帝国のデザートぅ~♪ FU~♪」

『やれやれ……帝国もかわいそうに。こんなのにすがるしかないなんてよぉ』


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

★1巻10/20発売!★



https://26847.mitemin.net/i766904/
― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます でもまぁあってるんだよね 善行だってなんだって、 やる人間がやりたいからやっているだけで 昨今のユーチューバーやネット系の実業家様みたいにたまたまニーズに合ってる…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ