81.白昼夢
マリィからの魔法を受けて……。
呪術王は、気を失った。
と思った次の瞬間、彼は目ざめる。
『! ここはどこだ……?』
そこは、先ほどマリィと戦っていた市街地の中……ではなかった。
周囲を見渡す。
竹林どこまでも広がっていた。
『ここは……どこ……いや、待て。見覚えが……』
そのときだ。
『安倍童子……? どこにいるの……?』
……聞き覚えのある、声。
そう、そうだ……。
『は、母上……?』
そこに居たのは、十二単を身に纏った女。
呪術王の、母だ。
『ああ、安倍童子。ここにいたのね。良かった……心配したのよ』
……死んだはずの母親が、なぜここにいる?
彼女が近づくにつれて、気づく。
『母がデカい……いや、これは……おれが小さくなってるのか……!』
そう……今の呪術王は、齢10にもみたない、幼い見た目になっている。
『幻術か……いやちがう。これは……記憶。彼奴め……おれの記憶を読み取り、夢を見させてるのか』
一瞬で敵の攻撃を見抜いた。さすがは、百戦錬磨の呪術王といったところか。
しかし……無防備に近寄ってくる母を、避けることができなかった。
『は、離せ……!』
これは敵の作った、夢。
こちらを油断させるための罠だ。
……だとしても、逃れない。
忘れていた、母のぬくもり、そして甘い香り、柔らかな肌に……。
呪術王は、何もできず、ただ母に抱きしめられる。
『急に居なくなるなんて。もう、いけない子です』
……あの、戦いを楽しんでいた、バーサーカーが……。
今は、年相応の、男の子に成り下がっている。
そう……これはマリィが見せてる夢。
相手にとって、都合の良い、とても心地よい夢を見せる魔法なのである。
……しかし、それに気づいたからと行って、あらがう術はなかった。
なぜなら呪術王は、母が好きだったからだ。
長い年月かけて、術を磨き、王と呼ばれるほどに成長するまでに。