80.奇策
呪術王とマリィの戦いは続く。
フェンリルをぶっ飛ばし、呪術王は高笑いする。
「ははは! いいぞ犬! もっとだ! もっとかかってこい!」
フェンリルのフィジカルは呪術王に勝るとも劣らない。
だが所詮は物理攻撃しかできない犬。
フェンリルが体当たりを加え、呪術王の体にダメージを与える。
だが彼は即座に、反魂の術で回復してみせる。
「ふん!」
ばごん! と呪術王がカイトを殴り飛ばす。
地面にたたきつけられるカイト。
「所詮体力だけ。貴様は恐くもなんともない」
呪術王の体が回復する。
彼が身につけたのは、超高速の反魂の術。
ダメージを負った瞬間オートで回復する術だ。
……そう、彼が極めたのは、反魂の術。
……なぜその術を極めたのか。
今の呪術王は、覚えていない。
彼が強くなろうとした動機を、彼は忘れてしまっているのだ。
「カイト!」
マリィが、カイトに心配そうに近づいてきて、回復を施す。
……それに呪術王は、少なからず違和感を覚えた。
「あの女が、犬を心配するだと……?」
どうにも解せない。
だが、敵はどう見ても、今まで戦ってきた魔女だ。
だが、まあいい。
そっちから接近してくれたのなら、好都合だ。
呪術王はカイトたちのもとへ接近。
カイトはマリィを守るように立ち塞がるも……。
「邪魔だ」
どがん! とカイトが蹴飛ばされる。
「カイト……!」
がしっ、と呪術王はマリィの首をつかんで、持ち上げた。
「ようやく、詰みだな」
しかし……違和感。
そう、おかしい。あの女を、こんなにあっさり捕まえられるだろうか。
「いいえ、呪術王様。あなたの負けです」
「なに!?」
どろり……とマリィの顔が崩れる。
そこに居たのは……。
「九尾!」
そう、呪術王の部下、九尾の狐だ。
彼女は変身能力を持っている。
マリィに変身していたのだ。
「くそ!」
だが逃げようとしても、呪術王は体が動かないことに気づいた。
「これは……毒!」
『そうさ、悪魔特製の毒だぜ!』
カイトの体にこっそり隠れていた、黒猫のオセが顔を覗かせる。
呪術王が蹴飛ばした瞬間、麻痺毒を打ち込んでいたのだ。
マリィに化けた九尾が、しゃがみ込んで治療していたのは、オセを忍ばせるためだ。
では……なんのために?
「王手よ、呪術王」
振り返ると、そこにはマリィがいた。
呪術王の肩を後ろから叩いている。
「しま……」
「神域……解放!」
マリィが叫ぶ。
神域……。
それは、マリィが持つ、秘奥義だ。
呪術王は知らない。
魔女が、どこまで魔法を極めたかを。
彼女は、人の身でありながら、どこまで到達したのかを。
「思い知るが良いわ」
その瞬間、マリィの体から無数の蝶が湧き上がる。
「なんだ……この……蝶……は……」
ぐらり……と呪術王の視界が暗転する。
そして……気を失った。