08.世界に散らばる7つの調理道具を求めて
魔女神ラブマリィの生まれ変わりである、元公爵令嬢のマリィ。
彼女は森の中で獣人の少年……カイトと出会う。
カイト。歳はかなり若い、10代前半くらいだ。
白い髪に猫耳、そして猫の尻尾。どうやら猫獣人だと、【マリィは思った】。
しかし猫獣人の割に【保有魔力が高く】、左右の瞳は、翡翠と黄金で、よく見ればどちらも、【Sクラスのレアな魔眼】を持っている。
(ただの猫獣人にしては、ハイスペックね。何か別の生き物なのかしら)
さすが魔女、慧眼であった。しかし彼女がカイトの正体を知るのはもう少し後である。
さて。マリィはカイトを連れ美食を求めて旅に出た。
彼女が求めるのは未知なる【おいしさ】。
せっかくカイトという、モンスターを美味しく料理できる料理人を手に入れたのだ。
行く先々でモンスターをたおし、それをカイトに調理させ、そして食べる。美味い。
そうやっていろんなモンスターをたおしつつ、美味しいご飯を食べるのだ……とマリィは思っていたのだが。
……問題は、直ぐに発生した。
「…………またステーキ?」
「魔女様、申し訳ありません……」
その日の夜。
マリィたちは森の中にて、野営をすることにした。
マリィは熊のモンスター(※赤熊。Aランクの恐ろしいモンスター)を、風の魔法で一撃で葬った。
火の魔法だと黒焦げになってしまうので、彼女は風を多用するようにしたのだ。
手に入れた熊の肉を、さてどんな美味しい料理にしてくれるのか!
……期待して、出てきたのはただの、焼いた熊の肉である。
いや、美味しい。確かに美味しいのだ。
しかし、しかしである……。
「さっきのドラゴンステーキ以上の、未知なるおいしさは無いわね」
食感や風味は異なれど、熊ステーキは、結局のところ昼間に食ったドラゴンステーキとほぼ同じ。
肉を焼いて出てきただけ。以上。
「ごめんなさい……!」
「あなた、貴族のとこで働いてたくらい、すごい料理人なんでしょう? なのになんでこうもバリエーションが少ないのよ?」
次の朝ご飯もステーキだったら、見限ってしまおうと思ったくらい、マリィは熊ステーキを出したカイトに失望した。
しかしカイトは、もごもごと何かを言いたげである。
「別に怒ってないから。何か言いたいのよね? さっさと言ってちょうだい」
「魔女様……! ああ、僕ごときミジンコにこんなに優しくしてくれるなんて! さすがです!」
何がさすがなのかさっぱりわからないが、とりあえず何か言い訳があるようなので、聞いてやることにした。
「調理道具が、ないんです」
「調理道具……ああ、フライパンとか包丁とか?」
こくん、とカイトがうなずく。
確かに料理には包丁や鍋、さまざまな道具が必要となる。それくらいはマリィでもわかる。
「今のところ、石を砕いて作ったナイフと鉄板ならぬ石板しかないので……」
「なるほど、調理道具がないから、料理のバリエーションが少ないと」
言われてみれば鍋もないのにシチューなど煮込み料理が作れるわけもない。
むしろ、石のナイフと鉄板だけで、よくもまああんな美味しいステーキが作れたものだと逆に感心する。
「わかったわ、調理道具が必要なのね。街へ行って買ってあげる」
「え、えーーーーーーーーーーー!?」
なぜだか知らないが、カイトが大いに驚いていた。
「そ、そんな! どうして調理道具を買ってくださるのですか!? 僕ごときミジンコの……ふぎゅっ!」
マリィはカイトの両頬を手でつかんで、ぐにっと潰す。
「いちいちわめかないの。私が買ってあげるといったのだから、ありがたく受け取りなさい」
「ま、まほはま……」
「それに、いちいち僕ごときとか言わないの。まあ生い立ちを考えれば仕方ないかも知れないけど、私はあなたを高く評価してるわ」
「!?」
二食連続のステーキに辟易したものの、料理自体は美味いのだ。
マリィはこんな美味しい料理を作れるカイトの腕を、高く買っている。
「あなたが自分に自信がないのなら、あなたを信じる私を信じなさい。あなたは無価値な人間じゃないってね」
じわ……とカイトの目に涙がたまっていく。そして……。
「う、うわぁああああああああああああん! そんな優しいこといってくれたの、村の外だと初めてですぅうううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」
よほど酷い目に遭ってきたのだろう。ちょっと優しくしただけで大泣きしていた。
「うぐ……ぐす……どうして魔女様は、僕に優しくしてくれるんですか?」
別に優しくしたわけじゃない。モチベを落とされて、料理の質が落ちたら困るからだ。
それに調理道具を買ってあげるのも、自分の美味しいごはんのため。
ようするに自分のタメなのだ。
「勘違いしないでちょうだい。別にあなたのためじゃないわ」
「うわぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーん! 魔女様は素晴らしい、心の優しいおかたですぅううううううううううううううううううううううう!」
それをどうやらまたこの獣人は、魔女のツンデレと曲解したようだ。
実際にはツンもデレもない。
「じゃ、適当な街へ行くわよ」
「あ、あのっ。魔女様……できれば、自分の調理道具が使いたいです!」
「自分の……調理道具?」
マリィに言われて、少し自信を取り戻したカイトは、彼女に意思を伝える。
「はい。僕が村にいたときに、じーちゃんばーちゃんたちから、プレゼントしてもらった、【七ツ道具】があるんです」
「ふーん……七ツ道具。それがあったほうがいいの?」
「はい。市販の調理道具より、使い慣れたその七ツ道具のほうが、より美味しいご飯が作れます」
実はこの七ツ道具にも、【秘密】があるのだが……それは追々。
「その七ツ道具とやらはどこに?」
「……わかりません。奴隷落ちのときに、持ち物は没収されてしまったんです」
「じゃあ七つの調理道具もまた行方知らずってことね」
「はい……それがあれば、魔女様に最高のフルコースを作ってあげられるのに……」
最高のフルコース……。
最高……。
フルコース……。
「この私に任せなさい」
マリィは固く決心した。この自信の無い少年が、最高とまで言う料理のコース。
……食べてみたい。いいや絶対に食べる!
そのために七つの、使い慣れた道具が必要なのだ。
「その七ツ道具、私が全部回収してあげますよ」
ぽかんと口を開けるカイト。だがまたも目から涙をあふれさせて……。
「うわぁああああああああん! なんて優しいんだぁああああああ! 僕のためにありがとうございますぅうううう!」
「だからあなたのタメじゃないわ」
「ツンデレぇえええええええええええええええええええええ!」
……もう面倒なので否定しないでおいた。
「でも……ぐす……どうやって七ツ道具を見つけるんですか? どこにあるのかわからないのに」
「あら、簡単よ。ちょっと頭かして」
マリィはカイトの頭に手を乗っける。
「魔女式【思念逆探知】」
その瞬間、マリィとカイトの意識がふわり、と宙にうく。
彼らの意識が遥か空の上に飛んでいく。
『わわわぁ! なんですかこれぇ!?』
『思念逆探知って魔法よ。これであなたの念が宿った調理道具の場所を、見つけることが出来る』
本来、思念逆探知とは物体から記憶を読み取るだけの魔法に過ぎない。
そこに、マリィが独自に術式をアレンジした結果、持ち主から物体を探す魔法へと変化したのである。
カイトの胸の中心に、青白い炎がともっている。
『それは魂。そして、そこから伸びる七つの鎖。その先に……あなたの求める七ツ道具がある』
ぐるりとカイトたちは周囲を渡す。
カイトの魂から伸びる鎖は、世界各国に散らばっていた。
『すごいです、魔女様! 捜し物をこんな一発で見つけてしまうなんて!』
マリィは、一つの【疑問】を抱いた。
(なんで、たかが調理道具ごときが、七つ全部、世界各国に散らばるようなことになるのかしら……?)
ただの調理道具なら、まとめてマーケットにでも売られてるかと思った。
だが七つは、海や山を越えた、遥か遠方に、それぞれが散らばっているではないか。
(……正直、もっと簡単に全部そろうと思ったのだけど……ま、いいわ。美味しいご飯のタメよ)
マリィが魔法を解くと、二人の意識は元に戻る。
「調理道具は見ての通り、世界各国に散らばってたわ。全部回収するわよ」
「うわぁあああああん! 魔女様優しすぎますぅううううううううう!」
もう面倒なので無視。
「偶然にも、ここから一番近い街にに、1つ、七ツ道具が売られてたわ。それを回収しにいくわよ」
……マリィの懸念は当たっていた。
そう、なぜならカイトの持つ七ツ道具は、ただの調理道具ではない。
英雄達が使っていた、伝説の宝具を、調理道具に改良したものなのだ。
だから、世界各地に散らばっていたのである。
かくして、マリィは美味しいご飯のために、まずはカイトの七つある調理道具(※伝説の宝具)を集めることにしたのだった。