07.虐げられ続けた獣人少年、神と出会う(勘違い)
マリィに拾われた少年、名前をカイトという。
カイトは【デッドエンド】と呼ばれる辺境の村出身だ。
そこに住んでいるじいさんばあさんたちは、みな特別な力を持っていた。
カイトもまた、誰にも負けないスキルを有している。
それが、調理スキル。
カイトの調理スキルは実は世界最高峰のものだ。
どんな食材も、一流の料理に変えてしまう。SSSランクのスキルである。
とはいえ、いくらスキルのランクがよかろうと、使い手が並では、宝の持ち腐れである。
カイトは必死に修行した。この力に見あう、世界一の料理人になるべく村を出た。
……だが村の外と中では、環境が全く違った。
村のみんなは獣人であるカイトを差別しない。
村の子供として、家族として、温かく迎えてくれた。(※カイトは孤児)
しかし村の外では、人間と獣の混じり物として、獣人はどうやら忌み嫌われてるらしかった。
どこへ行っても虐げられた。殴られ、蹴られて、まともに話を聞いてくれなかった。
それどころか……カイトは謂れもない罪をきせられて、ついには奴隷落ちしてしまう。
奴隷となったカイトは、さる金持ち貴族のもとに買われることになった。
厨房で調理スタッフとして、こき使われる日々。
そこでも獣人は差別された。きもちわるい、きたないと、散々罵られた。
「ゴミ虫が」
「気持ち悪い」
「くさいんだよ獣野郎」
カイトは散々罵られ、ドンドンと自尊心を失っていった。
村のみんなは温かかったのに……。
外の世界は、こんなにも、獣人に対して冷たい……。
死にたくてしょうがなかった。でも耐えた。
孤児だった自分を育ててくれた、村のじいさんばあさんたちへの恩があった。だから、死んだらいけないと思ったのだ。
彼は周りから馬鹿にされて、ゴミ扱いされながらも、貴族の屋敷で必死になって働いた。
貴族からはもちろん、同じ調理スタッフや、奴隷達からもいじめられた。
メンタルがやられそうになりながらも、なんとか自分を保てていたのは、村の老人達の支えがあったから。
そして、転機が訪れる。
貴族の屋敷に王族が訪問してきたのだ。
貴族はもてなしの料理を作らせた。カイトはすべての技術を使って、最高の料理を作った。
これなら、貴族も王族も満足してくれるだろう。
……けれど、返ってきたのは、酷い言葉だった。
「獣が作った料理など食えるか。臭くてたまらん! こんなものを食わせるな!」
……自信作のつもりだった。自分の持ちうるすべての技術、努力の結晶をそそぎこんだ、最高のフルコース。
でも、獣人だからと言う理不尽な理由で、食べてもらえなかった。
……王族を怒らせたことで、カイトは屋敷を追い出され、別のところへ売り飛ばされることになった。
もう……カイトはどうでもよかった。頑張ったって、どうにもならない。
獣人に産まれてしまったのが運の尽きなのだ。
獣人である以上、自分の作った料理が評価されることはもうない。
……村に帰ろう。帰りたい。
自分の料理を、美味しいって言ってくれる、あの村に……帰りたい……。
と、そのときだ。
「わ、な、なんだ!? ドラゴンが……ぎゃぁあああああああああああ!」
カイトたちを載せた商人の馬車が、突如としてドラゴンの襲撃に遭ったのだ。
御者、そして他の奴隷達もみなドラゴンに殺された。
カイトが生き残れたのは、ドラゴンに対する【耐性】があったからだ。
彼の故郷……デッドエンド村の近くには、魔物がうじゃうじゃ沸いてる森があった。
そこにドラゴンがたくさん居た。見慣れたものだった。だから、他の連中と違って、腰が抜けて動けなくなるようなことがなかったのだ。
だが……それだけだ。
カイトはドラゴンを見慣れてはいたけど、しかし対処する術は持ち合わせていなかった。
森に食材を取りに行くときは、常に村の強い戦士が護衛としてそばにいてくれたから。
自分は、弱い。だから、モンスターと戦って勝つことは出来ない。
「……おわった。ばあちゃん、じいちゃん……ごめん……僕……世界最高の料理人に……なれなかった……」
ドラゴンがカイトに襲いかかろうとした、そのときだ。
……奇跡が、起きた。
一瞬でドラゴンがバラバラになったのである。
「これは……魔法?」
村のばあさんたちから、聞いたことがある。
かつてこの世界には、魔法と呼ばれる凄い技術があったと。
今は衰退してしまったが、それは嵐を巻き起こしたり、山を砕いたりできるという。
ドラゴンを切り刻んだのは、風の魔法だろう。
彼の村には、かつて魔法使いだったものの子孫が住んでいるため、カイトは魔法を初めて見ても……。
驚きはすれど、しかしあっさりとこれが魔法だと、認知できたのだ。
「…………」
この人は誰なんだろう?
魔法なんていう、今は衰退して誰も使えない技術を使い、モンスターという凶悪な存在をたおす存在なんて……。
そんなのまるで、おとぎ話に出てくる、【魔女神ラブマリィ】そのものじゃあないか。
ラブマリィの伝承は村にも残っている。かつて彼女の弟子だった(らしい)人物が、村に【いる】のだ。
大変年老いたエルフだったが、曰く、ラブマリィは慈愛の神で、魔法の力で世界の平和のために尽くした……と。
……その弟子は、言っていた。ラブマリィは気高く、美しく、そして……優しい人物だったと。
(まさにこの人は、ラブマリィ様の生まれ変わりのような人……いや、もしかして生まれ変わりなのかも! 転生とかってあるっていうし!)
……それは思い込みと偶然が生み出した、奇跡の【気づき】だった。
この少年カイトは、マリィが魔女神の転生した姿だと思い込んだのである(実は正解だが)。
ラブマリィの伝説は、【誤った形】で後世に残されている。
世界を救った魔女の神が、再びこの世に顕現したのはなぜか?
……決まっている。
世界を平和にするために、だ!
その後、マリィに食事を作った。彼女は自分の料理を、美味いと褒めてくれた。
「ありがとうございます!」
カイトは涙した。獣人である自分を差別するどころか、美味しいと言ってくれた。
はじめてだ。村の外に出て、はじめて、獣人の料理を美味しいって言ってくれた人に会うのは。
これはもう、確定的だ。
この人は慈愛の神、魔女神ラブマリィで決定だ!
「私はこれから旅に出るわ。ついてらっしゃい」
「はい! どこまでもお供いたします!」
きっとこの魔女神さまは、世界を平和にするための旅に出るのだろう。
そのためのお供として、抜擢されたのだ。
世界最高の料理人になる夢。きっと、彼女について行けば、この夢が叶うに決まっている。
神の舌をうならせ、満足させうるほどの料理が作れたら、そのときはきっと、世界最高の料理人になれるだろうから。
以上。
……こんな経緯があって、虐げられていた獣人の料理人は、マリィの旅に同行することになったのだった。