60.毒妖鳥《ちん》
魔女たちはシナノにある、ワーズ湖という湖を訪れていた。
ワーズ湖を毒沼に変えていたのは……。
1羽の、鳥だった。
「キジ……ですかね」
細長く、美しい鳥は、しかしまがまがしいオーラを発してる。
枯れ枝が集合したような、妙な形の翼を持つ……妖鳥。
「妖怪ね」
『しゃしゃしゃ! その通り……! わらわは毒妖鳥! 呪術王様の配下であり、妖毒使いよ!』
毒妖鳥と呼ばれた鳥の妖怪は、にぃ……と魔女に笑みを向ける。
『貴様が偉大なる呪術王様に刃向かうという、愚かな魔女だな?』
「ふぅ……」
マリィは毒妖鳥を無視して、不機嫌ににらみつける。
「まずそうな鳥」
あろうことかこの魔女、毒妖鳥を食べる気まんまんであった。
今までの、食べられないフォルムの妖怪(塗り壁など)とは違い、毒妖鳥はいちおう鳥。
ぎり……食べられそう。
しかし自分から毒使いとか言ってるし、しかも痩せててオイシソウには到底見れない。
そのため、やる気半減であった。
『悶え苦しめ、魔女めが……!』
ばさぁ……と毒妖鳥が翼を広げる。
小枝のような細長い翼が広がると、その先端部からシュゥウウウ……と煙が発せられる。
「霧……?」
『小僧! 下がってろ! ありゃ毒だ!!!』
同じく毒使いであるオセには、わかった。
毒妖鳥から放たれる霧は、事態に有害な猛毒であると。
しゅうう……と吐き出された霧が、毒妖鳥の背後で広がる。
それは遠目に見ると、アメジストの色をした、美しい翼のようであった。
『毒の翼……それがてめえの能力ってわけか!』
『しゃしゃしゃ! その通り! この毒の霧は、ほんの少し吸い込むだけで人間は死に至り……。そして、美しい湖はこの通り毒の沼とかす』
徐々に、毒の翼が広がっていく。
しかも厄介なことに、指向性を持っているようだ。
マリィたちにむかって毒の霧が押し寄せてくる。
マリィは思わずふら……とその場に崩れ落ちた。
「魔女様!? ああ、毒にやられてしまわれたのですね!」
『いや……違うだろ』
オセだけは理解していた。
あの魔女が、こんなやつ程度に負けるわけがないと。
では、なぜ膝をついたのか。
「おなか……減った……」
オセは、ああやはりかと……あきれてしまう。
どんな攻撃も魔女には通用しない。
それほどまでに、魔女は強いのだから。
「ねえ……カイト……あの鳥、食べれるかしら……? 美味しく調理できる……?」
『い、いや……さすがにあの猛毒を持ってる鳥を、食えるわけないだろ』
カイトは力強くうなずいて言う。
「できます! きじ鍋っていう、料理が美味しいです!」
「きじ鍋……!!!!!」
マリィの瞳にやる気の炎がともる。
風の魔法で、毒を吹き飛ばした。
『なっ!? ば、馬鹿な……! 生きてるだと!?』
「悪いわね、毒妖鳥とやら。おとなしくお鍋に入りなさい!」
オセは、『お縄にちょうだいとかじゃあねえんだな……』とあきれながら、ため息をつくのだった。