58.湖の街
マリィたちは馬車に乗って、領地シナノにいるという、呪術王を倒すたびにでている。
うんざりするほどの山を超えて……。
「魔女様魔女様っ。ついに、シナノに到着しましたよっ!」
正面に座る、ケモミミ料理人のカイトが笑顔で言う。
もう少しで呪術王の下へいける。
恐い相手だ。
しかし最強の魔女がこっちにはいる。
マリィならば、たとえ凶悪な相手だろうと、必ず倒し、そしてみんなを笑顔にしてくれるだろう。
そう思ってカイトは笑みを浮かべた。
「ええ、ついに到着ね」
一方でマリィもまた笑みを返す。
この暴食の魔女の場合は、別に人々を守りたいとか一切思っていなかった。
ただ、彼女が目指すのは、寿司。
現在呪術王のせいで、ここ極東の大地は呪いの毒に犯されている。
そのせいで、米が育たない状態に居るのだ。
彼女は寿司をはじめとした、極東の和食というものに興味を抱いている。
和食には米が必須。
米のために彼女は戦っているのだ。
もう少しで、米が食べられる。
そう思うとよだれが分泌され、思わずじゅるるりと舌なめずりする。
『決定的に食い違ってんだよなぁ~……』
そんな二人のすれ違いを、悪魔オセがため息交じりに見ている。
『ンで、小僧? 呪術王はシナノのどこにいるんだ?』
カイトは膝の上に、シナノの地図を広げる。
この領地は、【ト】の形をしてる。
現在地点として、カイトは南東の方を刺す。
「ぼくらがいるのはここで、呪術王がいるのは……北部。ここに、居ます」
『なるほど、シナノも結構広いんだな』
「ええ。もう一踏ん張りです!」
マリィは憂い顔をしてため息をつく。
この国の、苦しんでいる人たちに思いをはせている……。
などではなく。
「早くお米食べたい……」
であった。
『ぶれないなぁあんたはよぉ』
馬車はガタゴトと北上していく。
すると……。
『なんだありゃ? でっけえ湖?』
「はい。あれがシナノ最大の湖、ワーズ湖です!」
山の中を進んでいたのだが、開けた場所に出た。
そこには大きな湖があって、その周りに建物が散見する……のだが。
『おいおい、なんだいあの、きったねえ湖は……』
汚泥と見まがうほどに、ワーズ湖は汚かった。
カイトは村人から聞いた情報を言う。
「本当はとても綺麗な湖だったそうです。湖は女神様がいるとか……」
『あんなきったねえ湖に女神さんなんているのかねぇ?』
疑念を抱くオセ。
一方、マリィはさほど興味はないらしく、窓の外を見ている。
「湖……」
本当だったらお魚が食べれたかもしれんない。
しかしあの湖の毒じゃ、魚は全滅してるだろう。
「……許せないわ」
「! ですよね! わかりました!」
『ちょ、小僧?』
ぴょいっ、とカイトは御者台に乗ると、馬車を勝手に、ワーズ湖へと進めていく。
『ちょっとどうした!』
「魔女様が、この美しい湖をなんとかしたいと!」
『いつこの女が言ったんだよ!?』
「許せないないわ! って!」
オセだけは理解している。
単に湖のおいしいもの(魚)が、毒のせいで食べれない。
そのことに腹を立てているだけだと。
『おいおい良いのかよ魔女様よ?』
「お腹減った……」
『あかん、腹減りすぎて判断力が低下してる……』
暴走する獣人、空腹の魔女。
ふたりを制御するのは、たとえあくまであっても難儀するのだった。
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