46．天狗だがかんだか
マリィたちは呪術王討伐のため、シナノへ向かっている。
道中、天狗の襲撃に遭う。
マリィはたいそうご立腹だった。
「天狗なんて食えやしないじゃないのよ！」
マリィは片手を前に突き出し、火球を撃つ。
無詠唱から繰り出される、超高速の火のつぶては……。
『甘いわ小娘！ ぬぅん！』
天狗は手に持っている葉っぱの団扇で風を巻き起こす。
それは暴風となってマリィの炎をかき消す。
『！ 魔女様の炎が打ち破られただと！？』
「魔女様！？」
暴風はそのままマリィのもとへ飛んできた。
だが彼女は華麗に宙を舞って回避してみせる。
異空間から取り出したホウキにまたがりながら、「ふぅん」と興味なさそうにつぶやく。
「程度は知れたわ」
『ほざけ！ 死ねぇい！』
天狗が団扇で強く打つ。
マリィはそこから、高速で飛翔する風の刃を視認した。
ひらりと華麗に避けて見せると、背後で大きな音とともに……。
「な！？ や、山が崩れていきます！」
『あのやろう……ただの風の刃で、なんつー威力を……魔女様よぉ、やばいじゃあねえか？』
崩れゆく山を一瞥に、マリィは一息つく。
「問題ないわね」
『その減らず口が、いつまでたたけるかなぁ！』
天狗は連続して風の刃を射出する。
高速斬撃の嵐。
避けようにもスペースがなく、万事休すであるように思えた。
しかし……マリィは避けなかった。
ぱぁん！ とマリィの身体に当たった瞬間、風の刃がほどけたのだ。
『な！？ ば、ばかな……！？』
マリィは風にたなびく長い髪の毛を、手で押さえながら、冷ややかに天狗を見据える。
そんなマリィの仕草からはかなりの精神的な余裕が見て取れた。
相手の冷静さは、天狗の動揺を誘う。
おかしい、山をも切断するほどの刃を受けて、なぜ無傷なのだ！？
「結局これも、魔法じゃないの。なら、反魔法で片がつくわ」
連続風の刃。
だがマリィの元へ到着すると同時に、ただのそよ風へと強制的に換えられてしまう。
彼女の作る反魔法の結界は、あらゆる魔法を無効化する。
「それじゃ、次は私の番ね」
マリィは右手を差し出した。それだけだ。
ざん！ と天狗の片方の翼が、切断されたのである。
『うぎゃぁああああああああああああ！』
「あら、避けると思ったのに」
天狗は驚愕の表情で、斬られたほうの翼を見やる。
いつ攻撃されたのかわからない。
あまりに早すぎたのと、そして魔法の出所がわからなかったのだ。
「あなた、無詠唱魔法も知らないの？」
『ば、ばかな……ま、魔力のたかなりを貴様からは感じられなかった！？』
通常、魔法を使う前には、杖や手の先に魔力が充填するものだ。
魔力はヘソで練る。そして、身体を移動し、放出される。
つまり体内の魔力の動きを見れば、ある程度、敵の攻撃するタイミングが読めるのだ。
しかしこのマリィという女は、その魔力の移動をほとんど感じられなかった。
「私の魔力量はほぼ無尽蔵」
『む、無尽蔵の魔力だと！？』
魔力が多すぎるせいか、魔力をためて移動させても、それがわかりにくいという理屈らしい。
「おわりね」
マリィは手を向ける。
それだけで、天狗の身体は風の刃によってズタズタに切り刻まれた。
……敵の攻撃タイミングはおろか、相手が何を使ったのかさえわからない。
圧倒的な力の差を感じながら、天狗は敗北する。
粉みじんになった天狗が消えるのを見て、ふぅと一息つく。
「戦う価値もなかったわ」
マリィにとって戦いとはつまり、食べるためにするものだから。
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