39.霊薬で蘇生
マリィたちは極東にて、呪術王を討伐する旅に出ている。
道中、一反木綿という妖怪と出くわし、これを撃破して見せた。
「なんだか疲れちゃったわ」
『あんた、ずっと馬車に乗ってるだけだったろうが。どこに疲れる要素があるんだよ? ……ふげええ!』
マリィは念力の魔法で、黒猫の悪魔オセをぞうきんのように絞る。
「座ってるだけでも、お尻が痛くなるのよ」
『ぐるじぃいいいいいい!』
ケモミミ料理人のカイトが、耳を側立てていう。
「この感じ……人です。村が近くにあります!」
「そう……優秀ねカイトは。どこかの猫と違って」
「えへへ……♡」
マリィはカイトの首元をこしょぐる。
一方で黒猫ことオセは、はぁ……とため息をついた。
『んで、魔女様よ。どーすんだ?』
「泊めてもらうわ。野宿なんて、勘弁だものね」
マリィは元公爵令嬢。
貴族の娘であるため、野宿なんてしたことがない。というかやりたくない。
「ふわふわのベッドで眠りたいわ」
『小さな村だろ? ベッドなんてあるもんか。それに泊めてくれるとは限らないぜ?』
「あらどうして?」
『そりゃ……この国の状況を鑑みりゃな』
極東は今呪術王のせいで、大混乱を起こしている。
あふれかえる魑魅魍魎たちは、村人達を襲っているという。
そうなると、どこもよそ者を泊める余裕なんてないだろうことは、容易に想像できた。
しかし……。
「カイト、村まで案内なさい」
「はい!」
『あーあ、しらねーぞ』
カイトに場所を特定してもらい、マリィは馬車を魔法で動かす。
ほどなくして小さな村に到着した。
マリィが優雅に馬車から降りる。しかし……。
「変ね、出迎えがないなんて」
『何様だよ、あんた……』
きょろきょろ、とカイトが周囲を見渡す。
「でも、村に人が居ないです。でも、声はします……これは……すすり泣く声……」
何かトラブルの予感がした。
マリィはものすごく嫌そうな顔をした。
彼女は自分の平穏を邪魔されたくないのだ。
とはいえ、今日はここに泊めてもらう(予定)。
だからまあ、多少の労力はいとわない。
マリィたちは村人達を発見した。
彼らは涙を流し、膝をついている。
「大丈夫ですか! なにかあったんですか!?」
カイトが心配して近くに居た村人に話しかける。
「ぐす……うう……君たちは……?」
「旅のものです! なにがあったのでしょう?」
「実は……一反木綿という化け物に、村の女たちを殺されてしまいまして……」
村人達のすすり泣く側で、大勢の女達が二度と冷めぬ眠りについてる。
「うえええええん!」「おかああさぁああああん!」「ままぁあああああ!」
どうやらマリィたちが一反木綿を倒す前に、やつは村の女達を窒息しさせたのだろう。
肉体は無事だが、女達は眠ったまま多きようとしない。
子供達の大きな鳴き声を聞いても、微動だにしない。
「…………」
マリィは、顔をゆがめる。
そして一言言う。
「不愉快だわ」
……それを見たカイトはこう解釈した。
(魔女様……女を殺した一反木綿のばけものに、怒りを覚えてるんだ!)
魔女は義憤にかられてると思ってるカイト。
しかし実態は違う。
(あの子供ら……うるさい……)
マリィはここに泊まる。
だというのに、子供達がわんわんと泣いてやかましい。
だから、不愉快だと言ったのだ。
別に女を妖怪に殺されたことに、怒ってるわけじゃ無かった。
はぁ……とマリィはため息をつく。
空間魔法で、マリィがかつて作った【それ】を、カイトに渡す。
「これを女どもに飲ませなさい」
「え……? はいっ!」
カイトは素直にうなずいて、女達に薬を飲ませていく。
しばらくして……。
「う……」「ここは……?」「あれ……あたし死んだんじゃ……?」
一反木綿のせいで死んでしまっていた女達が、一斉に息を吹き返したのだ。
「すごいです魔女様! いったいなにをしたんですか?」
「生き返る薬を、飲ませたのよ」
マリィが何も無い空間から、瓶を取り出す。
「これは死返の霊薬。死後直ぐなら、蘇生させることが可能な薬よ」
「す、す、すごいすごいすごぉおおおい! 魔女様、死んだ人すら生き返らせることができるんですね!」
カイトの高感度メーターがカンストしているのに、さらに上昇する。
村人達はみな、マリィにひれ伏していう。
「ありがとうございました、魔女様! なとお礼を申し上げれば良いことか……」
するとマリィは、いつも通り言う。
そう、いつも通り……。
「勘違いしないでちょうだい。私はただ、子供の泣いてる声が我慢ならなかっただけよ」
「「「……!」」」
村人達がマリィのセリフに驚き、そして……涙を流す。
「なんとおやさしい……」「まるで神さまのようだ……」「魔女様ぁ……」
なんで感謝してるのだろうか。
マリィが首をかしげていると、オセが近づいてきて言う。
『魔女様、いちおー確認なんだけどよ、さっきのセリフは、泣いてるガキの声が聞くに堪えない、耳障りだから蘇生させたって意味だよな?』
「? ほかにどういう意味があるの?」
どうもこうも、子供の泣いてる姿を見てられない、まるで英雄譚のしゅじんこうのセリフでは無いか。
「魔女様はやはり素晴らしいおかたです!」
カイトもまた涙目になりながら、マリィに笑顔で言う。
「今回はツンデレがありませんでしたね……!」
……マリィはどうでもよくなって、適当に「そうね」とつぶやいたのだった。
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